楓湖城の探検023
ご主人の魅力はすごいの、です。
あんな不細工なやつらにも大人気なの、です。
自慢のご主人で嬉しい、ですぅ。
「どうだ楓、お前に結界は見えないのか?」
「ご主人だめです、楓には見えない、です。でも、あの黒いのが攻撃すると、少しづつ外に向けて移動しているの、です」
やはりそうか、結界の強度がどれ程なのか、俺は判断ができない。
だが、黒騎士が行う攻撃で外に動くのなら、いずれ破られるだろう。
「まずいな、このままじゃ……」
外部にあいつらが溢れてしまう。
あらためて黒騎士が現れたことについて考える……
なぜ急にこんな事態になったのだろうか? 何かきっかけがあったはずだ。
旅館に着いた時点では、ここは静寂そのものだった。黒騎士どころか小動物の気配ひとつとしてなかった。
楓も宴会場に着くまで、気がついた素振りもしなかった。
「楓? こいつらの目的をどう考える?」
「わかんない、です」
これは俺の質問の仕方がわるかったな。言い換えるか。
「お前は黒騎士と対話を試みただろ? それは、なぜだ?」
「……なんとなく、ですけどぉ。同じような魔波動をあいつから感じたので出来るかな、と考えたの、です」
「魔波動を感じた……だと?」
たしかに、そうだな。俺に光の線が見えるということは、なんらかの力が働いている。
そういった存在は大きな力に惹かれ……て寄ってくる!?
はっ!!?
「どうしただにぃ千丈!? なんだか凄い汗だにぃ!!」
「あ……ああ、平気だよ。なにいってるんだ、汗なんて……」
「ふきふきっす、ですよぉ」
楓がハンカチで顔から流れた汗を拭いてくれて、初めて汗をかいていることに気がついた。
だが、それどころじゃない!!??
バカは俺だぁ!!?
何てこった、改めて考えれば、こいつら全部を俺が呼び寄せたみたいなもんじゃないかぁ!?
どうりで黒騎士が俺を見ているわけだ。
そりゃそうだ、力に惹かれて出てきたのなら納得だ。
俺に近いやつは力に反応して向かってくる。距離が離れているモノは気配だけで、さ迷う結果となった。
そして、結界にぶつかった奴は攻撃を行うと……なるほど。
この騒ぎの原因が……俺だったとすれば、すべてにおいて説明できる。出来てしまう。
それが十年越しで、今日起きた理由を……
「なあ楓、一つ聞きたい。俺の力が引き寄せるというのは黒騎士に適応すると思うか?」
「ああっ、です。そういえば、楓は話そうとしても、あいつの意識は違う方に向いていたの、です。さすがはご主人、です。あんなのまで虜にするとは感服、ですよぉ」
あんなのを虜にしたつもりは毛頭ない。
ストーカーの方が幾分かましだ。もし、そうなら裁判所の命令でメートル単位の制限をかけられる。
だけど、あいつらには制限などかけられないし、効くはずがない。
続々と現れる異形の存在など、ごめんこうむりたい。
「千丈、どういう事なんだにぃ? 僕にもわかるように説明して欲しいいだにぃ」
「……ああ、もしかしたらだよ。仮定の話として聞いて欲しいなぁ。たとえば、あいつらが出てきたのは俺の力に引かれてかもしれないなぁ、なんてね、そんなわけないよな。バカなこと考えたよ! 笑ってくれよ……あははぁぁ…」
「ご主人の魅力は威力抜群、ですぅ。あいつらみんないちころ、です」
楓、余計な事は言わないで欲しい。
そう言われると、元凶は全部俺だと責められるじゃないか。
……実は楓に嫌われているのだろうか?
だって仕方がないだろう。そもそも、ここに望んで来たわけじゃない、けど……あぁぁ!!
「じゃあだにぃ。あいつら全部が千丈に……」
はい、たぶんそうです。
……さあ、俺を責め立てろ! 覚悟はできたぞ。
「すまなかっただにぃ。僕が全部悪いだにぃ……」
「はあっ!? なに、言ってるんだお前?」
「僕が無理やり千丈を巻き込んだんだにぃ! 途中で何度も引き返すように警告してくれた。でも、聞かなかっただにぃ。おばあちゃんの誓約も、かよりの制止もすべて、きっと、これを予想していたのだにぃ……悪いのは……」
小尾蘆岐が、そんな風に考えるとは思わなかった。
てっきり、俺のせいでこうなったと責められると思い込んでいた。だけど、こいつはそんな奴じゃなかった。
もし俺が逆の立場なら責め立てただろう。
そして、ロープで縛って、置き去りにして、黒騎士が群がっている隙に脱出する手段を選びかねない……
そんな自分の小ささが、ちょっと嫌になる。
「いや、自分の事もわからない俺が軽率だっただけだ。そうとなれば、どうするかを考え直す必要がある。前向きな対処方法について考えよう」
「千丈……ごめんにぃ」
「もうやめよう。謝って、謝られては無意味だろう。どうするか知恵を出し合おう。まず、全体的に振り返って考えないとな」
とりあえず小尾蘆岐の父親が残した手帳だ。
「楓、手帳にある黒騎士の情報はどうなっていた?」
「はい、です。防衛装置と書かれていた物がそうだと予想する、です。それは、壊れていて制御できなくなっていると書かれていたの、です」
「俺達が止められる可能性があると思うか?」
「おそらく難しい、です。そもそも、どんなのだかわかんない、ですよぉ」
まあそうだろうな……
「じゃあ、破壊はどうだろうか? 小尾蘆岐の父親はかなりの術者だったみたいだけど、たしか出来なかったと書かれていたよな?」
「ああ、そうだにぃ。おとうさんは防衛装置までたどり着いただにぃ。そして、破壊も、停止もできなかったと書かれていただにぃ。それで、最後に制御装置に向かって帰って来なかっただにぃ……」
……そうだったな、さて、根本的な問題だが、なんで制御装置と、防衛装置があるのだろう?
制御装置とはいったい何を制御するための物なのだろうか?
そして、防衛装置は何を守るの為にあるのだろう……
最後に、ここの温泉はなぜ魔力を含んでいる?
ただ、温泉は地下から湧くものだ。
ここはやはり、地下に行かなければ、わからない事だらけだな。
「小尾蘆岐、宴会場の下に入り口があると書かれていたよな?」
「まさか、地下に行くつもりなのかにぃ。それは、無茶だにぃ。おとうさんも、どうしようもなかったと、書いていただにぃ」
「だが、現状を考えて対岸に戻る手段はないだろう。それに携帯も圏外で、助けを呼ぼうにも手段がない」
そもそも電話を掛ける相手がいないけど……
例えば、妹に助けを求めて掛ければ、死ね! と言われて通話が断ち切られるだろう。
考えるだけでぞくぞくしてしまう未来が見える……
ああ、悩ましい問題だ。
「そうだにぃ……だけど……やっぱり危なすぎるだにぃ」
「じゃあ、このままこの旅館で逃げ回っているか? 黒騎士や変なモノが増え続けている現状を打開する方法は?」
「無いだにぃ……確かに残された手段は……」
論理的な結論で、この隔離された旅館からの脱出方法はもうない。
状況は刻一刻と悪化の一途をたどる。
どうなるかわからないけど、あがくしかない。見て考えるしかない。生き残るために。
「楓、コンディションはどうだ?」
「ばっちり、ですよぉ。今回はストックしてある魔波動の無駄遣いをしてない、です。前のようなヘマはもうしないの、です」
そうだな、前回は魔波動をほとんど使い果たして、めちゃくちゃ苦戦したからな。
さっきのように最小限で黒騎士を倒せば、ガス欠みたいな状況を先延ばしできるだろう。
そうと決まればさっさと行動に移そう。
「さて、結論が出たな。もう手段は中心に向かうしかない。何があるかわからないが、きっと何とかなるだろう。出来なければ、まあ、あの世で親子の対面を果たすしかない。だが、それは避けたい。もっと、ずっと先の未来に取っておこう」
「そうだにぃ!! 今からおとうさんに会いに行ったら怒られそうだにぃ」
「だな! じゃあ、片道切符かもしれないけど行くか、逝きたくないからな」
「ご主人、行きたいの、ですか? 行きたくないの、ですかぁ? どっち、です」
「まあ、いいじゃないか。準備はいいな楓、頼りにしてるぜ」
「……はっ、はい、ですよぉ……」
「僕も頼って欲しいだにぃ……頑張るよ」
「お前は自分で歩こうな?」
「断る!! きっと千丈は僕に感謝をするだにぃ」
感謝するわけないだろう。アホが。
まあいいか、時間もないし行くとしよう。
何が待つかわからない、湖城旅館の深部に向かって俺は第一歩を踏み出した……一台の家電と、背にはちっこい魔女を背負って。
視点変換ーー小尾蘆岐11ーー
ーー楓湖城の探検20回想ーー
あれれぇだにぃ?
たしか、前回は小尾蘆岐09だったはずだにぃ?
1つ飛んでるにぃ。小尾蘆岐10はいったいどこにぃ……
まあ、いつか見つかるかも知れないにぃ。
それより、千丈は歓迎の使者なんてバカにしているだにぃ。
怖がりにもほどがあるだにぃ。
ここは僕が颯爽と、その不安材料を払拭してあげようだにぃ。
「あれぇだにぃ? なんだか黒い壁が前にあるにぃ!?」
なんだにぃ? なんだか動いている気が……うげぇ!!??
人の背中を急に引っぱらないでほしいだにぃ、千丈はほんとうに強引……うぎゃあだぁにぃ!!? かっ壁がぶっ壊れただにぃぃ!!???