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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検022

なんなんですかぁ、です?

うじゃうじゃとほんとうに気持ちが悪い、ですぅ。


でも、ここでご主人のお役に立つの、です。

いつまでも、どこまでも楓はご主人と共に、です。

「なんだこれは? いったい何が起こっている!?」


 楓と小尾蘆岐の呼び掛けに対して、俺は返事をすることなく湖の底を見続けた。

 そこには、ここ旅館に来る時に通った湖底に敷かれた黒い石の道があるはずだった。

 だがそこには漆黒が広がり、まるで湖底がうごめいているように俺の目には見えた……


「なあ楓、湖の底には黒い石が敷き詰めてあったのを見たよな……石が動いてるのかな?」


「ご主人しっかり、です。あれは石じゃなくて黒いあいつらが大量にいるの、です。しかも、それだけじゃないの、ですよぉ」


 目の錯覚と思いたい、だが、そんな気持ちは楓に完全に否定されてしまった。

 ああ、もう現実を見よう。

 湖底には黒騎士が大量にいるのだ。そして、その間をなんだかよくわからないモノまで動いている……


「小尾蘆岐、黒騎士の間を動いてるのは、なんだかわかるか?」


「黒騎士? ああ、あれの事だにぃね! 確かに黒い騎士だにぃ。えっと、その間のモノは、たぶんだけどにぃ。千丈、ここに初めて来た時、水の中に何かがいたのを覚えているだにぃか?」


「ああ、湖の表層を泳いでいたやつだよな。たしか、あれはそっとしておけば出て来ないんじゃなかったのか?」


「そう思っただにぃ。でも、訂正させてほしいにぃ。そっとしておいてもこうなっただにぃ。たぶん、あの黒い影がみんなそうだにぃ……」


 湖の表層にいたモノが這い出てきたのか……

 今の湖底は、初詣客で溢れる川○大師の参道のようになっている。大混雑です。

 そして、黒騎士に混じって大量の黒い影が動き回っているのを見ると、心の底から嫌悪感を覚える。生理的に目を背けたくなってきた。


「よし楓! みんなまとめてぶん殴っていいぞ、殺ってしまえ。許可しよう」


「うえぇぇぇ、です!!? さすがにあいつら全部を相手にするのは難しい、ですよぉ。ストックの魔波動も途中で尽きちゃう、ですぅ」


 やはり、楓でも難しいか。……わかっていたけど。


「うーん、どうするか? ここを通らないと向こう岸まで行けない。そうだ! 楓が俺を背負いながら橋脚の上まで飛んで行け……ああ、やっぱりダメか……」


 橋脚の上部にも黒い影が動いているのが見える。

 無防備に飛び乗れば巻き付かれるか、攻撃を受けるだろう。そうなれば下に落ちて囲まれ、想像したくない結末を迎えてしまう。それだけは絶対に嫌だ!! すると残された手段は……


「まあ、今のところ打つ手なしだな」


 俺はその場で座るために腰を落とす。

 地面にはすでに、楓がレジャーシートを敷いて準備している。


「どうしただにぃ!? 千丈、もう諦めるのだにぃか? そりゃ、巻き込んだことは謝るだにぃ。だから簡単に……」


「諦める? お前はいったい、なにを言ってるんだ? ずっと動き回って喉が渇いて、それに腹も減った。ここらで少し休もう。よし楓、準備だ!」


「はい、ですよぉ。サンドイッチとお茶、ですよぉ」


 楓は背中のバックから飲み物と軽食を取り出してレジャーシートに並べた。

 背中にくっついた小尾蘆岐は独り言を呟いている……なんだと思ったのかな? そもそも俺が諦めるなど、あるわけないだろう……ん?


 視線を感じてその方向を見た。すると建物の角に黒騎士が十数体立っている。

 やはり追いかけてきたか……

 黒騎士の目は見えないが、頭部バイザーとベンテールの暗部からは刺すような視線が俺に向けられている気がする……でも、サンドイッチはあげないぞ。


 しかし、ここまでついてくるなら、もう仕方がない。

 壊すしかないだろう。そろそろ、本気で心を決めよう。ひとつ試してみるか……


 俺は横に座る楓の目をじっと見つめる。

 楓は黒くまんまるな虹彩(こうさい)を一度大きくして小さく頷く。

 そして背負っていたバックをレジャーシートにそっと置いて立ちあがった。


「ご主人、ここに残りの飲み物とおやつが入っているの、です」


「ああ、わかった。じゃあ俺の視線を辿るんだぞ。わかったな?」


「はい、です。では行ってきます、です」


「急に千丈は何を言ってるんだにぃ? 楓ちゃんもいったいどうしたんだにぃ?」


 楓は小尾蘆岐の問いに答えず、黒騎士に向けてゆっくりと歩き始めた。

 移動中も横目で俺を確認することを忘れずに……


 少し大回りで進み、楓は俺の目線を遮らないで、かつ、黒騎士が正面になる位置で止まった。

 そこから、じっとこちらを見つめるのを確認し、俺は黒騎士のそれぞれ個体に合わせた一点を順番に注視して、その位置を楓に伝える。


 これで良いはずだ。後は任せた。

 楓が頷いたのを見届けて、サンドイッチを手に食べ始める。


「小尾蘆岐も食えよ? 朝にコンビニで食べてから、飲み食いしてないだろう?」


「えぇっ!? 食べるって? それどころじゃないだにぃ」


「いいから、後は楓に任せれば大丈夫だ。それに、もう伝えるべき事は終わったよ」


「は? ……終わったって? どういうこ……にぃ!?」


 呆然とする小尾蘆岐を置き去りにして、建物側から鈍く重い破砕音が響いてきた。俺は食べながら音源に顔を向ける。


 その音は、楓を中心に巻き起こる。


 素早く流水のように動き、俺の指示した黒騎士の一点だけを的確に拳で撃ち抜いて、進む。

 一騎を打ち抜くと、次の黒騎士に向かう、それはまるで流水のような動作。

 まるでバスケット選手がコート内をドリブルして、敵選手を避けながらゴールに向けて走り抜けるようだった……


 楓に撃ち抜かれた黒騎士は一瞬だけ硬直。その位置で崩れて黒い小山と化す。


 ものの数秒で、多くの黒騎士は土塊つちくれへと変わった。

 楓の背後には、動くことがなくなった黒土の小山が点々と残されている。最後の一騎を撃ち抜いて、付近一帯は静寂に包まれる。

 そして、楓は振り返ることなくこちらに向かって戻ってきた。


「ほい、おつかれだったな。お前も食えよ」


「はい、ですよぉ。たまごさんを食べてもいい、ですかぁ?」


「いいけど、ツナは貰うぜ。小尾蘆岐はどうする?」


「……ああっ、もうっ!! ツナ貰うだにぃ!」


「さて、食べながらで良いから聞いてくれ、これからどうするかについて話そう。それとも、何か意見があるなら聞くぞ?」


 少し待ったが、楓と小尾蘆岐は何も話さないので、俺は続けた……


「現状、来たルートを通って帰ることは難しいと思う。それ以外で、泳いでの脱出方法は論外だ。水面下に引きずり込まれた場合、対処ができない」


「僕もそう思うだにぃ。泳いでは無理だにぃ。例えば、さっきみたいに楓ちゃんが下の存在を退治できないかにぃ?」


「そりゃ無理だな。さっきのは10体位で、しかも、止まっていたから出来た」


「はあ……たしかに止まっていただにぃね?」


「そうだ、実はこれには、理由わけがある……」


 俺は黒騎士の芯に光が見えると、小尾蘆岐に伝えた。

 そして、一際(ひときわ)輝く部分が、それぞれ黒騎士内部にあり、その場所は個体でバラバラになっていて、そこの部分を視線を使いピンポイントで楓に伝えた。最小限の力を使い破壊すれば……

 個体の崩壊が出来ると予想したのだ。


 これは、楓と初回に対峙した黒騎士の腕を破壊した事で、ほぼ間違いないと思った俺の勘だが、それは的中していたようだった。


「なるほどだにぃ。でも一撃で倒せるなら、やっぱり湖底で出来るんじゃないだにぃ?」


「ところがだ、あれだけ密集して動き回っていると、個別の指示が追いつかないだろうし、それに黒騎士だけじゃない。それ以外が混じっているだろ。黒騎士に対応している間にほかのモノに囲まれて、ジエンドだ」


「そうだった……黒騎士だけじゃないだにぃ。なら脱出方法がないにぃ……」


 そうだな、もうすぐ地面の下の存在も追いつくだろう。

 ここにいるのは、それまでの間だ。地下から溢れる大量の黒い手を避ける手段は逃げるしかない。


 さて、食べ終わった。

 そろそろ対策を考えながら移動を始め……なんだあれ?


「なあ楓、湖底の黒騎士は途中で止まっていないか? それに先頭の奴は何もない場所を殴っているように見えるのだけど……どうだ?」


 数十メートル先で、黒々したモノがごったがえす湖底の様子だ。

 肉眼では、さすがにはっきり見えるわけがなかった。


「うーん、です。なんだか見えない壁のようなものに攻撃をしている、です」


「壁?」


「ああっ!! だにぃ!?」


 小尾蘆岐は横のリュックを手元に引き寄せ、中をさぐり始める。

 そして、父親の手帳を取り出し、ページを捲り探し始めた。


「千丈ここだにぃ。おとうさんはここで、橋を落として、結界を張ったと書いてあるだにぃ」


「結界? そんなのがあるのか? 俺には見えないけど……」


「確かに書かれているだにぃ。黒騎士だけが通れない、感知のできない特殊な術式で結界を張ったとあるだにぃ」


 黒騎士だけに反応する結界だと?

 そうすると、あいつらが攻撃しているのは結界なのか?

 もしそうなら、ここに封じられているなら一安心だ。

 あんなのが溢れると近隣が必ずパニックになる。


「なるほど結界か、あの様子を見る限り納得だな」


「でもご主人、です。あの黒いのはなんで攻撃をしてるの、ですかぁ?」


「男の子は目の前に壁があると殴る。空き缶が落ちていればゴミ箱に入れる習慣があるのさ」


「後半は男の子に関係なく普通だにぃ。前半はよくわかんないだにぃ」


 男心がわからない奴だな。楓はどうだ?


「確かに壁は殴る、ですぅ。納得しましたさすがご主人、です。そしてぇ、ついには壁を破壊をするの、ですねぇ」


「はぁ? 破壊なんて、出来るわけ……が!? あれぇ? 徐々に外に向けて、進んでいるように見える……ぞ?」


「ひょっとしてだにぃ。結界を破ろうとしてるんじゃないだにぃか?」


 まさか、そんなことあるわけが……ああっ!?

 確かに徐々に外に向かって膨らんでいる。さっきは黒騎士の先頭は二本目の橋脚手前にいたはずだ!!?

 まずいぞ!? 抑え込まれている大量の黒騎士が外部に出てしまう。


 どうする? このまま放置はできないぞ……

視点変換ーー小尾蘆岐09ーー

ーー楓湖城の探検18回想ーー


僕のおとうさんは、すでに死んでいた。

そう、もうこの世にいないのだ、手帳を読んで真実を知った……目を背けていた事実に直面した。


数年前、住民票に記載された死亡の表記を見た。だけど実感がわかなかった。

行方不明が続くと、死亡届を出せると聞いたのはいつだったか……誰から聞いたのかわからない。

だが、僕は知っていた。だから、その記載は間違いであると思いたかった。


小さいころはずっと想像していた。

おとうさんがお土産をたくさん持って帰ってくるのではないか?

いつか玄関の扉が開いて現れて、僕を抱きしめてくれる、そんな妄想をしながらいつもドアを眺めていた。


家には、いつも曾祖母がいるだけだった。

おかあさんは働いていて家にほとんど居なかった。そのせいで、曾祖母との二人暮らしのような生活だった。いつからだろう。勝手にいなくなった父親に憤りを感じ始めたのは。

何度心の中で、なんでなんだと叫んだかわからない。

でも、一度も恨んだことはなかった。憎く感じるほど父親という存在を僕は知らなかった。

だから、もう一度会いたかった。僕の記憶がないころに出会ったはずのおとうさんを知りたかった。


僕が中学に入る時、おかあさんがスマートフォンを与えてくれた。

その中に入っていたアプリを起動させると、投稿動画という表現方法に出会う。

そして、自分で投稿が出来ることを知った。


そのアプリを使って、ひとつの試みを始めた。

実名で投稿を行い、多くの人に見てもらえれば、おとうさんまで届いて、必ず返事が来る。

そう信じてインターネットの大海原に動画を投稿を続けた。だけど、それは来るはずの無い返事だった。

そう、無駄だったのだ。やってきたこと全てが、僕の希望がひとつ潰えてしまった。


だけど、おとうさんを探すためにしてきたことで、一人の男性と知り合うきっかけに繋がった。

そいつは、口は悪いし、態度も友好的ではない。むしろ僕を避けようとしている。

こんな奴に今まで会ったことがない。だけど、気になる……気にしてしまう何かがある。


一つだけわかったことがある。

それは、このおとうさんの真実に導いてくれたのは千丈蔭だ。


僕の前を歩いて過去を明らかにしてくれた。


僕のおとうさんが凄いと言ってくれた。


千丈は否定するだろうけど、事実はそうなんだにぃ。


僕は感謝するだにぃ。してきたことは無駄だったけど、全部が無駄じゃなかっただにぃ。


最後のおとうさんからの贈り物にも千丈がきっと導いてくれるはずだにぃ。

隣に寄り添う楓ちゃんがまぶしくもあり、そして羨ましいだにぃ。

僕もいつかきっと、あんな二人の仲間になりたいにぃ。

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