表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
56/115

楓湖城の探検021

痛ってぇ、です。

でもぉこのミッションに全てを賭ける、ですよぉ。

楓は出来る娘、です。

良いところをご主人に魅せるの、ですよぉ。

うふふぅ……

 黒騎士の一撃が、楓の横面を捉えた。

 まあ、正面に対峙している状況で、よそ見をしていれば仕方がないだろう。

 なるべくしてなった、それが俺の感想だ。


「千丈!!? 楓ちゃんが!?」


「ふむ、殴られたな」


「なんで平静なんだにぃ? 殴られたんだにぃ!? 怪我をしたか……」


「心配ない、気にするな」


 小尾蘆岐の言葉を途中で遮って、俺は答える。

 表情は背後にいるので見えない。だが、きっと茫然(ぼうぜん)とした顔をしているだろう、なにしろすぐ目の前では、黒騎士が楓に対して、何度も繰り返し攻撃している。

 一撃が重く、地面が揺れ動く震動を少し離れた俺の足裏に伝えていた。


「おいっ楓ぇ! なに我慢してんだよ。もう、やっちまっていいぞ」


 さすがは小尾蘆岐旅館、名産品の黒騎士だな。

 なかなかの攻撃力をしている。だが、こいつが行うのは、ただの物理的な攻撃だけだ。このぐらいなら楓に耐えられるだろう。

 しかし、あの短気な楓がよく我慢してるな。


「楓はぁ、対話をせい……ぶっ! こうぅぅあぅぅ!? するの、でずっ」


 どうやら本人は、いや本体は対話を諦めていないようだ。

 ただ、楓の頭がこれ以上壊れる前に対処をしたい。だが、どうしたもんかな? 危なくて近づけない。


「千丈!? 助けに行かないと……?」


「じゃあ、お前があの中に入って仲裁でもしてくるか? 止めないぜ」


「出来る訳ないだにぃ!! そもそも、あいつの一撃で壁が粉砕しただにぃ! 近づいたら確実に死ぬだにぃ!? ……あれ? そういえば、なんで楓ちゃんは平気なんだにぃ?」


「平気ではないだろうけどな……まあ、楓が自分でやってるんだからどうしようも……ああ、そうだ! お前魔女なんだろ、魔法でなんとかならないか?」


「回復以外僕は、あまり得意じゃないだにぃ」


「あまり得意じゃない? と言う事は、魔法でなんとか出来ると考えていいんだよな?」


「気分が乗らないだにぃ……」


 どうやら使えない魔女のようだ。

 霧先先輩にしろ、俺の知っている魔女は一点特化すぎるように思う。もう少し凡庸で、応用力の高い魔女はいないのだろうか?

 小尾蘆岐と話している最中も旅館内部からは続々と黒騎士が這い出てきている。

 それらは、静かにゆっくりと広がってゆく……


 これだけ数が増えると困る。

 たぶん出てきたのは10体前後だとは思うけど、真っ黒で同じデザインが複数動いているのは、A〇B48がダンスしているみたいで、数の把握が困難だ。

 実はA〇B30だったとしても俺にはわからない。あれと一緒で、じっとしてないと……数えにくいんだよ!!


「はな、痛ってぇ、です。この黒がぁ……」


 叫ぶ楓の声が聞こえてくる。

 楓は黒騎士に馬乗りになって、相手の両腕を押さえつけている。

 他の黒騎士はその戦いを遠巻きに見ているだけで、その場を動かないでいた。

 いや違う!? 真っ黒な頭部を俺の方を向けて静かに見つめている。それは、本当に不気味だ……こっち見るなよぉ。


「なんでぇ、です! わかってくれぇなのぉ、です。ご主人に良いところをみせるの、ですぅ。楓に惚れさせるの、ですぅ」


 楓といい、黒騎士のような異生命体同士で、わかり合えない事は悲しいな……

 そして、楓は本音がだだ漏れだな。あんな姿をみて惚れるわけないだろう。やはりバカだな。

 そろそろ、当座の窮地を脱出するためにも、力に訴え出て欲しい。

 

 そんな事を考えていると、俺は違和感を感じ、その場から飛び退いた。


「千丈どうしただにぃ? 急に…!?」


 小尾蘆岐が、俺が数メートル下がった事に驚いて聞いてくる。


「いや、そこの地面の下からなんか嫌な感じがしてな、ほら」


 俺が指差す、地面の下からは黒い手が生えて、腕まで一気に伸びる。

 先程まで立っていた場所は、真っ黒な手が一面に生えて、うごめく不気味な畑の様相に様変わりを始めた。そして、徐々にこちらに向かい浸食範囲を拡げ始めた。


「ぎゃあぁあ! ホラーだにぃぃ!?」


「危なく捕まるところだったな。しかし、どんどん増えやがるな。旅館から出てきたのもいるし、大変だな」


「全然大変そうじゃないだにぃ!? なんで、さっきから冷静なんだにぃ?」


 耳元で騒がれるとうるさいな。

 俺だって騒いでなんとかなるならそうする。

 さて、もう限界だな。いつまでもこんな危険地帯に留まっていられない。


「おらぁ!? 楓ぇ! 遊んでないで行くってんだろがぁ!!」


「ご主人!!? 楓は何も言われてない、ですよぉ!?」


 そうだったかな? まあいいや。


「いいから、もう帰るぞ! 置いてかれたくなかったら、さっさと何とかしろ!!」


「ううぅ、はい、ですぅ。もう諦めぃぃ痛ぃぃてぇ、でですぅ。引っ張るな、です!?」


 組み敷かれていた黒騎士が、両腕を伸ばし頭部を掴んだ。

 楓はその手を引き剥がそうとしているが、なかなか外せないで苦戦している。

 どうやら黒騎士の指が髪の毛に絡まったようだ。

 それなら無理に引き剥がすと、頭皮が剥がれてしまう。それは、さすがに見た目が悪すぎる。


「ちっ! しょうがねえなぁ」


「千丈!?」


 地面より這い出る黒い手を避けながら、楓の元まで素早く走り寄る。そして、髪を掴んでいる黒騎士の腕のある一点を狙って、蹴りを入れた。


「ごっ……ご主人!?」


「ほらぁ! さっさと離れろよ!! 次々と来てるんだからな」


 俺の放つ蹴りによって、黒騎士の片手は肘から先が完全に粉砕して、楓の髪から離れた。


 これは、ちょっとした賭けだった。

 俺は見えない場所のモノを感知できないが、この両目に映る範囲であれば話が別だ。

 黒騎士は、細い光の線が体の内側に走っている。

 そして、それぞれの間接部分には丸い塊があり、そこを基点にして動いている。

 外側の黒い外皮は、光の線を護る役目をしていて、それは厚く俺の力ではとても届かない。

 だが、腕の間接内側は違う。ここは外皮が薄くなっていて、すぐ下が基点部だ。ここに向けた攻撃は俺でも届くだろう。

 そうした理由で攻撃を行うと、予想した通り蹴りによって内部の光る塊は飛散し、腕は脆く崩れ去った。


「千丈!? 何をしたんだにぃ!!?」


「いや、蹴っ飛ばしただけだけど?」


 楓の拘束を半分にしておけば、後は自分で出来るだろう。

 俺は振り返ることなく、正面玄関方面に向けて走った。


「待つだにぃ? 楓ちゃんがまだだにぃ!?」


「大丈夫だって、心配しすぎだよ。あのぐらいの数なら、たぶん平気だ……ん!?」


 ああ、もう追い付いてきたか。


「でも、あんな群れの中に一人ぼっちなんて、あんまりだにぃ」


「そう、ですよぅ。ご主人、怖かったので抱き締めてくれてもいいの、ですよぉ」


「んなぁ!? 楓ちゃん!!?」


「楓ちゃん、楓ちゃんと、やかましいの、です。お前は九官鳥の生まれ変わり、ですかぁ? ピーチク、パーチク、ですかぁ!? うざいっす、です」


「しっ、心配したんだにぃ……」


 だから言ったのに。楓の事は心配無用だと。

 ただ、あれら全部に抱き付かれた場合は、身動きが取れなくなるだろうけど……まあ所詮その程度だ。

 黒騎士は楓を破壊できるほど強力な存在ではない。生身の俺は別だけど。


「どうだ楓、あいつらは来てるか?」


「ご主人が離れたら動き出したの、です。下にもいっぱいいる、です」


「ひえぇえぇだにぃ!!?」


 そうか、あいつらは追いかけてきているのか? 何が目的なんだろう。

 しかし、走りにくいな。背中に小尾蘆岐を装着して、手にはリュックだからな。そして、地味に重いぞ……これ何が入ってるんだよ?


「そこを曲がれば正面だにぃ!!」


「うっさいぼけ、です。そんなのわかってる、です」


「まあ、楓、あんまり冷たくするなよ。これで、ここともおさらばだ。それと小尾蘆岐? 最後の見納めだ。よく見ておけよ」


「ああ、そうだにぃ。さようならおとうさん、今度はお花を持って必ず来るだにぃ。千丈と一緒に……」


「それは断る!!」


「じゃあ、楓もお断り、ですよぉ。チビすけが独りで行くがいいの、です。お友だちもたっくさんここにはいる、ですよぉ」


 小尾蘆岐は俺の背中で憮然としているのが背に伝わる感覚でわかった。だが、もうこんなのは二度とごめんだ。断固拒否する。


 伸びた雑草をなぎ倒しながら建物を回り込むと、懐かしい正面玄関だ。

 後は、この先にある梯子を降りて対岸まで渡りきれば、もう安全だろう。しかし、晩田(ばんで)()の小尾蘆岐旅館は凄かった。

 ここには、小尾蘆岐の過去がたくさん詰まっていた。

 もう来ることがないだろう旅館を俺は振り返り、小尾蘆岐の父親の冥福をささやかながらも願う。


 対岸より、ここ旅館に渡るために過去あった立派な橋の場所に立つ。そこから湖底を見た俺は凍りついた。


 なんだ……これは……何が起きている!!?


「ご主人っ!!?」


「千丈!!??」


 一人と一台の叫び声に、何も答えることが出来ない。

 その光景を前に、今度は俺が茫然と、ただ立ち尽した……

視点変換ーー小尾蘆岐08ーー

ーー楓湖城の探検17回想ーー


千丈に包まれながら、手帳を開く。すごく安心する自分がいる。

手帳には、綺麗な字で細かく日常が綴られいた。


初めは普段の業務が、お客の事が、書かれていた。

だが、ある一文に僕の目が釘付けとなった。そこには、僕の名前が、凛と確かに書かれていた。そして、僕の寝顔について、可愛いと……たしかに、そう書いてあった。


ああ、やっぱりこの手帳は父親の物だった。

ついに、探していた手懸かりがここにあった。僕はついに見つけたぞ。これで……真実がわかる。


その気持ちに気づくことなく千丈と楓は、何かを二人で話して、8月の日時を指定してきた。なんだ? 僕はそのページを開く。


そこには、地震があった事の記載と、温泉の魔力濃度について書かれていた。いったい何が気になるのだろう? 僕にはさっぱりわからない。


そして、読み進めると、驚くべき記載が始まった。

父親が手帳をここに遺した意味がやっとわかった。


僕はいったいどうしたら……助けて……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ