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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検019

なん、でしょうか?

楓の心が揺さぶられます、です。

あれを見た瞬間に、なにかが……、です。

わからないの、です。この気持ちはいったいなんなの、です?

 部屋の隅にタンスがある。

 それは、上部が両開きになる衣装戸棚タイプで、下部は引き出しが二つ。歴史を感じさせる古い造りの家具だった。


「そのタンスだよな、他には…ないな?」


「きっとこれだにぃ。ここに何があるだにぃ?」


「さあな、想像もつかないよ? じゃあ、タンスの確認を…と、その前に小尾こ お蘆岐ろ ぎ? 前にくっつかれると動きにくいのだけ……」


「お構いなくだにぃ!!」


「いや、邪魔だと言ってるんだ」


「お構いなくにぃ」


 いったいなんだよ? それと、こいつもだな……


「おいっ楓ぇ!! いつまで背中にくっついてるんだ邪魔だぁ!!」


「お構いなく、ですよぉ」


 俺は戦前の子だくさん主婦じゃないんだ。うっとうしい。

 おんぶロボと、だっこくんなのか? 二人ともいい歳して恥ずかしく……

 いや? 楓は製造年数か? そう考えれば数年……ははっ、俺は何を考えているんだ、バカバカしい。


 まあいいや、どうせ俺の言う事など、こいつらは絶対に聞かないだろう。


「じゃあ、開けるぞ」


 上部の扉に指をかけて、つまみを持つ手に力を込める。

 軽い抵抗の(のち)、金属音を立てて両側に開いた。簡単に開いたな……

 衣装ダンス内部を覗き込むと、俺の目に入るのは男性物の背広が数点。そこには、贈り物に該当するものは見受けられない。


「ここじゃないみたいだな。それともお前にスーツでも残すつもりだったのかな?」


「千丈!? 背広の下に何かあるだにぃ」


 下になにかがある…だと?

 小尾蘆岐に言われて下方に視線を向ける。そこには、なにか白い物があるのに気がついた。


 背広を端に寄せて確認すると、布に包まれた四角い物が隠されている。

 全く気がつかなかった。よく気がつい……そうか、伸長の差だな、こいつ視点が異常に低いから。


 そして、そのまま背広の間に体を差し込んで行くと、小尾蘆岐から理不尽な文句があがった。


「うっぷだにぃ。千丈、狭いだにぃ」


「……」


 自業自得だ!! だったら離れればいいんだ。

 気持ちを切り替えて、さっさと取りだそう。


「大きさの割に軽いな?」


 その大きさはみかん箱ぐらいだ、約40cmほど。重量はおおよそだけど1キロぐらいだ。

 両手で持ち上げると、腕と箱の間に小尾蘆岐がはさまる。

 実にじゃまくさいな。


 箱は室内中央に降ろした。包んである布をほどくと出てきたのは本当にみかん箱だった。愛媛産か……そう箱には印字されていた。……別に意味はないだろうけど。


「なにが入ってるんだろうか? ……なあ、小尾蘆岐、これはお前が開けるべきだ、そう俺は思うけど、どうだ?」


「うん、僕が開けるだにぃ。ドキドキだにぃ」


 ガムテープの封を、小尾蘆岐は剥がして箱を開ける。

 そして、覗き込むと、さらに小さい箱が内部に収められていた。大きさは……もういいか、みかん箱より小さいとだけ言っておこう。


 何も書かれていない茶色い小さい箱を開ける。

 すると、そこに入っていた物は白い布の巾着が二つだけ。

 包みを開けて、中から出てきたものは……男雛おとこびな女雛めびなの二体の御雛おひなさまだった。


 なるほど、これは恥ずかしくて、父親は奥さんに言えなかっただろう……


「これがそうなのか?」


「きっと、そう……だにぃ…」


 小尾蘆岐は取り出した人形を手に持った。

 そして、そのまま抱えて、うつむいてしまう。


 その気持ちはすごくよくわかるぞ。

 もし、俺がそれを貰ったら無言になるだろうからな。

 父親はきっと小尾蘆岐が生まれる前に性別・ ・の確認をしないで雛人形を買ってしまったのだろう。

 そりゃ、母親に言える訳がない……無下にはできないよな。


「それも、おとうさんの気持ちなのだから、ありがたく貰っておくべきかな?」


「うん、うん! 嬉しいだにぃ! …おとうさんから初めての贈り物だにぃ!!」


 なんだか思った反応と違うぞ?

 小尾蘆岐は、なんで雛人形を貰って嬉しそうにしているのだろう?

 普通、男なら兜とか、鎧だろう?

 それとも、小尾蘆岐家は男性でも、内裏雛だいりびなを飾る習慣なのかな?

 もしそうなら、余計なことは言わない方がいいな。

 本人も喜んでいるみたいだし、そっとしておこう。



「雛人形、です……」


 楓は俺の後ろから首だけ出して、小尾蘆岐の持つ人形をじっと見つめて呟いた。


「なんだ、お前も気になるのか?」


「はい、です。きれい、です」


 そんなもんかね? 俺にはよくわからないな。


 妹の雛人形が夜中に家中を走りまわっている。

 そう小学校低学年の頃、同級生から脅かされて以来ちょっと苦手な意識がいまだにある。

 それからだ。ひな人形の生々しい無表情に見つめられると、背筋が冷える思いがする。

 ……人形が魂を持つ、か。


「お前が雛人形に関心があるとは驚きだ。あれは食えないぞ?」


「たしかに、です。あれは、たべれないの、です。でもいいの、です」


 なんだか不思議な感覚だ。羨望のまなざしとでも言うのだろうか?

 楓は小尾蘆岐の持つ人形から目を離さずに俺の問いに答えた。

 一応(・ ・)女の子のプログラムが入っているからかな? そういった事は、所詮しょせん男にはわからない事だ。


「じゃあ、そろそろ行こ……ん? 段ボールの底に何かあるようだが?」


 俺がそう言うと、小尾蘆岐は内部を覗き込んだ。


「えっ? ほんとだにぃ。気が付かなかったにぃ」


 みかん箱の底に、白く平たい物が入っていた。

 小尾蘆岐は丁寧に雛人形を巾着に包んで、元の箱に戻す。

 それから、箱の中に残る物を取り出して見つめる。そこには”想いで”と表紙に書かれていたのだった。


「アルバムまで……あったにぃ」


 小尾蘆岐はアルバムを見つめて、それを開くことなく抱きしめている。


「開いて中の確認をしないのか?」


「ごめんにぃ、これは家に帰ったらおかあさんを一緒に見たいだにぃ。千丈には悪いけど…」


「いや、構わない。そうお前が判断したのならそれでいい」


「ありがとう……」


 これで、小尾蘆岐からお礼を言われるのは何回目だろう?

 こんな奴だったかな?


「今更だ、お礼なんて言わないでいい。ところで、それ全部がリュックに入るのか?」


「ああ、入るだにぃ。その為に大きいのを準備をしただにぃ」


 小尾蘆岐は雛人形とアルバムを大事そうに抱きしめる。そして、丁寧にリュックにしまいこんだ。

 心の奥底で長い年月ため込んだ、さまざまな疑問が解消できただろう。



 小尾蘆岐旅館のひとときが終わろうとした時、その出来事が起こる。

 それをはじめに感じ取ったのは楓だった。


「……ご主人」


 その問いかけが、更なる異変の始まりとなった。

視点変換ーー小尾蘆岐06ーー

ーー楓湖城の探検15と16回想ーー


ああ…ここが、おとうさんとおかあさん。そして、曾祖母の旅館だ。

なんで、こんなに僕の動悸は激しく波打つのだろう。掛け軸、室内の様子を記録する。

一つひとつに思いが、両親の過去が詰まっている気がする。


廊下にある、この庭園は、いったいなんだろう?

一面のビー玉が敷き詰められている。

だが、僕は知っている。肉親にビー玉が好きな人がいる事を……それはおかあさんだ。


おかあさんの好きなビー玉がいっぱいだ。きっと、おとうさんが造ったのだろう。

なんだか嬉しくなった。いけない、ついニヤケてしまった。

千丈が変な顔をして、離れていってしまった。気持ち悪かったのかな? 気を付けよう……


二階の渡り廊下を通り、階下に到着する。


そこは宴会場だ。その様相は他と一線を画している。そう、荒れ果てていた、内部が崩壊している……

年数を感じさせない普通の旅館だった。そんな他の部屋を見てきた自分には、驚きと、疑問を生じさせる。


なにがあったんだ? なぜこうなっている?

答えなど、ここで考えても出ないだろう……


千丈と楓が、急に何かを感じたと言い始めた? いったいどうしたんだ? 帰るべきだと言い始める。


だが、進まなくてはいけない。ここまで来れたんだ。

もう戻ることはできない、真実を見つけるチャンスを永遠に失う事になってしまう。


どんなことでもいい、僕は自身の過去を得るために、無理を承知でここまで来たんだ。

必ず見つけてみせる……たとえ一人になったとしても……

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