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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検016

ヤバイ、ですよぉ。

なん、ですぅ。

なんで楓はこれに気がつかなかったの、ですかぁ? ばかぁ、です。楓はアホ、ですぅ。


これじゃあ、ご主人の護衛の意味がぁ、楓の存在価値がぁ。……ないじゃない、です。

 2階の渡り廊下を通り、別の棟に移動した。

 向かいの建物を見ると、先ほどまでいたロビーが見える。

 営業時は中庭を散策しながら、ここ宴会場まで歩けたのだろうが、今は厳しい。


 その中庭は屋根も無く荒れ果てている。夏の植物が縦横無尽に生い茂り、まるでジャングルのようだ。

 休憩用の場所があったようだが、そこにあった東屋あずまやは完全に崩れ落ちて、太い角材が至る所に散乱している。


「すぐそばだけど遠回りをさせるな」


「まあ、古い旅館だにぃ。きっとロビーのある建物を後で造ったんだにぃ。増改築を繰り返して旅館は複雑化をしていくのだにぃ」


「なるほどな、建物の構造もコンクリート造りだったけど、こっちは木造みたいだな」


「たぶん、旅館の古い部分がこちらだにぃ」


 なるほど、さすが廃墟マニアだな。さて、宴会場に着いた。

 ふすまは空いていて内部が見えるはずだが……真っ暗でどうなっているのかわからない。

 廊下の光が、わずかな範囲を照らしている。わかるのはその部分のみだった。


「宴会場は暗いな……」


「そうみたいだにぃ。中はカーテンが閉められているようで、なんにも見えないだにぃ」


 小尾蘆岐と内部を覗き込んでいると、背後から楓が現れた。やっと追いついたようだ。


「なんだか暗い、ですねぇ。なんだか色々ここは散らかってます、です。それよりご主人、さっき、ですがぁ。緑のビー玉を見つけた、ですよぉ。あの中になんと一つだけだったの、ですぅ」


「……よかったな」


 どうでもいい。


 けど、あの大量のビー玉の中から、たった一つを見つける……何気に凄いとは思う……素晴らしい機能だとは思うけど、能力の無駄使いだな。


 それとは別の事だが内部状況が見えるのには驚く。さすが暗視機能を持つロボだな。


「楓、カーテン開けて来れるか? 俺には中が全く見えない」


「わかりました、ですよぉ」


 楓はスキップをして、内部に入っていった。

 端から順にカーテンが開かれて漆黒の室内に光が差し込んでゆく。これで室内が見通せるようになった。


 内部は広さ三十畳はあろうかという広い空間だ。そこは他と違って、随分と……まあ、ひとことで言って荒れ果てていた。



 天井には大穴が開き、天板が剥がれ落ちている。並んだ畳は鋭利な刃物で切り裂かれていた。

 食器や、お盆の破片も大量に散乱している。

 足の踏み場もない……その言葉は、このような状況を示しているのではないだろうかと思う。


「小尾蘆岐さん、随分とここは荒れているようだな……」


「ああ、そうだにぃね。しかし、なんでここだけ?」


 そんなの俺にわかるわけがない。だけど、明らかに何かが争った感じがする。


 ただ、俺はこのような状況に見覚えがあった。


 そう、以前に経験している。

 それは、人外の存在が争うと、こうなると言う事だ。


 楓と五条先輩の戦いで、学校の予備備品室は、体育館は、確かにこうなった……このような惨状に変化した。


「……なあ、楓。お前はここに何か感じないか?」


「はてなぁ、です? クンクン、ですぅ。うへぇ、なんかくっさい、ですよぉ」


「くさい? 別にロビーと、あまり変わらない匂いだと……ん?」


 おかしいぞ。なんだ!?、これは床下からなのか?

 畳が裂けて剥き出しになった床下に奥に目を向けると、そこにはぽっかりと開いた暗闇が広がっていた。

 そして、俺はそこから立ち上がる妙な感覚を覚える。


「おい、楓、戻ってこい。なんだか気味が悪い……」


「千丈どうしただにぃ?」


「ご主人何ですか? ここの床下から変な感じがしてくるの、ですぅ。臭いぃの、ですぅ」


 ああ、なんだか危険な感じがする。

 楓は表情を硬くし、こちらに戻ってきた。そして、俺の前に立ち暗闇に警戒の視線を向けている。


 なんでだ?……全く気が付かなかったぞ?

 違和感の正体を確かめるべく、改めて室内に目を凝らす。すると、ある見逃していた物に気がつく。


 それは、陶器や木材の破片に紛れて、黒い物が散らばっている事だ。


「何だあれ……土なのか?」


 拳大の物から、ビー玉ぐらいの大きさの漆黒の塊が散乱している。俺はそこから漂う、危険を伴う嫌な気配を感じる。


「急にどうしただにぃ。千丈も楓ちゃんも?」


「小尾蘆岐、お前にはわからないのか?」


「何の事だにぃ? 室内が荒れているのはわかるけど、それだけじゃないのかにぃ?」


 小尾蘆岐にはなんでわからないんだ? 楓は感じているのに。それより逃げよう。


「とりあえず、ここはなんだか危険だ……」


「楓も同感いたします、です。すみませんご主人、どうやらあの黒いのを踏んずけて初めて感知ができたの、です。あれはいけません、今は活動をしてませんが他にもいる可能性が高いと判断するの、です」


 やはり、あの黒いのが元凶か……活動? 生き物だったのか?


「すぐに、帰ろう……」


「ちょっと待つだにぃ、やっとここまで来れただにぃ。少しだけ、ほんのすこしでいいだにぃ。お願いだ千丈、楓ちゃん!?」


「……どうだ楓? あれは、動きそうか?」


「……わからない、です。すぐにどうこうする事は無いと判断する、です。でも、きっかけになることがあれば……楓にはわからない、です」


「そうか、なら多少の猶予がある、と楓は判断できるんだな?」


「……はい、です。おそらく、ですけどぉ。できればご主人には、速やかにこんな危険地帯を立ち去っていただきたいの、です。……それと、このちびはもうダメ、です。見捨てましょう、です」


 ここで小尾蘆岐を置いていくのはさすがに……俺でも躊躇うぞ。


 だが、猶予が少しあるか……

 そうなら、急いで住居スペースの探索だけを終わらせて、早めに立ち去ろう。


「小尾蘆岐、奥の住居だけだぞ。それを見たら帰る、それでいいな?」


「……ありがとうだにぃ」


 本当はさっさと帰りたい、だけどここまで来て、何も無いと小尾蘆岐は一人でも残る選択をするだろう。気配の感知をしていない、こいつだけを置き去りにする事は、俺には出来ない。


 しかし、十年以上の年月が経過しているのに色濃く残る、この気配は一体何だろう?

 外で感じていたものとは違う感覚だ。本質的な何かが違う気がする。素早く終わらせないと。


「楓、さっきみた住居部はどこだ?」


「はいっ、です。こっち、ですよぉ」


 宴会場には入らず、廊下をそのまま進む。

 そして、突き当たりを曲がった側面に、鉄製のドアがあった。

 俺はおそる恐るノブに触れて力を入れると、すんなりと奥に開いていく。錆び付いた重苦しい音と共に。


 入った場所は玄関だった。おそらく旅館の一室を改造したのだろう。原色のファンシーな玄関マットがあって、ビーズの暖簾が室内と玄関の境界に吊るされている。こんな生活感のある客室は無いだろう。間違いなく生活スペースだ。


 一段上がった先は、6畳ほどの和室だった。少ない家具と、置物が何点かサイドボード上に飾られている。


「ここがそうなのか?」


「ご主人、ここに手帳がある、ですぅ」


 部屋中央にちゃぶ台が1つあった。表面は埃を被っていて、楓が手にした黒い革貼り手帳の跡がはっきりと残っている。


 俺はそれを受け取り、そのまま小尾蘆岐に手渡した。


「これは、お前が読むべきだろう?」


「うん、だにぃ!」


 小尾蘆岐は何を思ったのか、背負っていたリュックを降ろして、俺の前に身体を滑り込ませてきた。


「なんだよ?」


「一緒に見てほしいだにぃ。ダメかにぃ?」


 別にいいが、そんなにくっつかなくても、と思うのだが。

 背の低い小尾蘆岐が俺の前にくっつくと、つむじを通じて手帳をそのまま一緒に見ることができる。

 なんだか子供に絵本を読み聞かせをするみたいだな。経験はないけど。


「じゃあ、開くだにぃ」


「ああ、さっさと見ようぜ。これで……」


 この旅館で起きた過去の出来事がわかる。

 俺はそんな気がしている……根拠のない直感だが、これは外れる気がしなかった。


視点変換ーー小尾蘆岐03ーー

ーー楓湖城の探検14回想ーー


ついに旅館に入ることができた。

これが、僕がどんなに願っても、たどり着くことができなかった場所だ。だけど、意外に普通だな?


もっと、古くさくて、ぼろっちいのを想像していたが、ちゃんとしているじゃん。ご先祖と両親を誇りに思う。

おとうさん、おかあさん……んっ?


……前言撤回だ!!?


なんだこれはぁ!!?

恥ずかしいぞ、ああぁ、穴があれば入りたい。

なんで、なんでだよ。自分の名前でオリジナルブランドの商品を開発しているんだ!? バカじゃないのか?


千丈と楓は気がついてないみたいだが、お母さんのブロマイドがあるぞ!? 何が美人若女将だ!!? 綺麗なのは認めるが、これはない。

しかも、美人女将シリーズで、大女将だと!? ひいばあちゃんじゃないかぁ!?!?


奥に隠しとこう。ふう…


こらぁ!? なんで千丈は写真を撮っているんだ!? 止めてください。


ふうぅ。


やっと、この二人も小尾蘆岐旅館の恥部から離れて……


なにしてんの?

おいおい、10年以上前のお饅頭食うなよ!??

ガリガリとかじってるよ? うわぁあぁ? やめろよぉ!?


あぁ疲れた。

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