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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検014

ホコリっぽいところ、ですねぇ。

しかし、色々なお土産があるで……ぷぷっ。

なん、ですかぁ!?


こりゃあご主人に報告をしないといけない、ですよぉ。

 小尾(こ お)蘆岐(ろ ぎ)旅館(りょかん)の内部に無事潜入する。封鎖された旅館内部は独特の香りがした。ホコリっぽい古い納屋に入った感覚が近いだろう。


「薄暗いな、見えないわけじゃないけど」


「当然電気は通ってないだにぃ。もっと暗い場所は照明をつけるだにぃ」


 照明装置も持って来てるんだな。さすが廃墟のプロだ。でも、そんな職業は絶対にないだろう。むしろ近いのは解体屋かな。


「そうか、準備がいいな。それと小尾蘆岐、本当にここは廃業して何年も経過しているんだよな?」


「千丈が言いたいことはわかるだにぃ。でも、事実だにぃ」


 なぜ、俺がそう聞いたのか、理由はあまりにも内部がそのままだったからである。荒れ果てた様子は全くない。そこには、土産物や、パンフレットが整然と並んでいる。

 ただ、受付カウンターにうっすらと埃が積もって、窓から射し込む光を受けて金色に輝くのが、年数が経過していると示していた。


「そうだよな、だが、とても10年以上が経過しているとは思えないよ」


 従業員が不在で、ただ掃除をしていないいだけ、そう感じるほどだ。旅館内は静寂に包まれ、我々の立てる物音以外は何もしない。


 その物音を一番たてている存在がおみやげコーナーを見ていた楓だ。何かを手にこちらに戻ってくる。


「うぷぷぅ、ですぅ。ご主人これ見てください、です」


 楓は笑いながら、お土産の箱を俺に差し出す。それを見て俺は唖然(あぜん)とし、そして…笑った。


「なんだそれ? ……ぷっ」


「どうしただにぃ? ああっ、なんだこりゃぁぁ」


 それは、お土産の饅頭(まんじゅう)だった。

 ただ、印字されている商品名が『小尾蘆岐まんじゅう』だったのだ。旅館名を入れてオリジナルの土産を作るとは。しかも、自分の名字だ。


 俺だったら恥ずかしいぞ。


「見るなぁだにぃ」


「なんだよ、いいじゃないか"小尾蘆岐まんじゅう"。自信があるんだな、小尾蘆岐さん家は…ぷっ!!」


「ダサっ、です」


 他にも小尾蘆岐石鹸に、小尾蘆岐タオル、小尾蘆岐旅館オリジナル絵はがきもあった。小尾蘆岐ブランドが勢揃いだ!!

 値段も強気の高額設定。みんな千円オーバーだ。

 廃業した理由が、この開発と売り上げ不振だったら悲しいな。


「見ないでぇ……くださいだにぃ。ううぅ…」


「何個か持ち帰って近所に配ればいいの、です。ご近所付き合いは大事、です」


「楓、それは出来ないだろう。さすがに賞味期限もとっくに終わってるぞ。むしろ嫌がらせだよ」


 小尾蘆岐はうつむいて震えている。面白いものが見れた。

 自前のカメラ持ってくればよかった……ん? そうだ、スマホで撮影すれば良いのか。


 スマホを取り出して、何枚か小尾蘆岐ブランド商品の写真を撮影する。

 画面を見るとアンテナが圏外となっているのに気がついた。まあ、こんなところに基地局があるわけないよな。


「千丈、やめてぇだにぃ」


「まあ、いいじゃないか。自分の名字を使った商品があるとは素晴らしい…ぞ…ぷっ」


 ああ、面白かった。他の見所はどこかなぁ。

 受け付けカウンターを見ていると、貼られているカレンダーがあった。表示年数は15年前となっている。


 時代の流れが止まった世界、そう、小尾蘆岐が言っていたのを思い出す。

 確かにここは、15年前から少しの時間経過もしてないのだろう。目を閉じれば過去の情景が浮かんで……くるわけがない。

 だって、過去の営業時がどうだったのかなんて知らないから。


 ふと目についた小尾蘆岐旅館の四つ降りパンフレットを手に取った。眺めていて、気になる事があった。


「ん? ここは温泉があったのか?」


「うう、知らないだにぃ」


 小尾蘆岐ブランドで笑ったことが、だいぶ心に響いているようだ。こいつ拗ねやがったな。まあ別にいいけど。

 しかし、俺の心は逆に少しスッキリした。ずっとやられっぱなしだったからな。


 さて、パンフレットの続きは、どうなっているのだろうか?


 そこには、大々的に温泉が紹介されている。俺は書かれている文章に目を通す。なになに? 効能は、打ち身、擦り傷、内臓の疾患……魔力の回復!?


 これは胡散臭いぞ!?


「おいっ!? ここはインチキ旅館か?」


「なんだにぃ? 僕の実家をバカにするのかにぃ!?」


「ほら、ここを見ろよ!? 温泉の効能に魔力回復って書いてあるぞ」


「そのぐらい当たり前だにぃ。だってここは、小尾蘆岐のお宿で、昔っからの魔女の湯治場だにぃ」


 バカじゃないのか?


 だいたい西洋の魔女が、なんで日本のこんな山奥で湯治をしてるんだよ!?


 ……今更ながら、異常な状況に疑問を持った。

 ただ、過去を振り返れば、未来からアンドロイドが送られてきて、学校では…魔女が現れた…と……


 なんで俺は、普通に関わっているのだろうか?


 ああ、バカは俺だな。はぁぁぁ…

 まあいいか、別に今さら騒いでも仕方がない。


「そうか、魔女の湯治場だったんだな。で?」


「で? って、どうしたんだにぃ?」


「その魔女だ、今はどうしてるんだ? 湯治場はもうないんだろ」


「そんなの詳しく知らないだにぃ。僕の生まれる前だにぃ」


 オメーが言ったんだろうが!?

 何が湯治場だ。ダースで魔女を連れてこいよ。

 もうここまで関わったんだ、怖いものはない。


「ただ、大まかには、おばあちゃんに教えてもらったんだにぃ」


「へー、で? なんて言ってたんだ?」


「なんでも、昔はこの辺り一帯は色々な魔女がいたそうだにぃ。かよりが霧先家の当主となっているように、他にも沢山の魔女家系があるだにぃ」


 まだ、あんなのがいっぱいいるのか。注意しよう。


「で、今はどうなんだ?」


「色々な世代交代をして、全国各地に散っていったそうだにぃ。血も薄まって名前だけの魔女も多いそうだにぃ。って!?……ちょっと、楓ちゃん!? そのお饅頭を食べちゃだめだにぃ……」


「ケチケチするな、です。…ちっ固い、です。これは、饅頭でなくて落雁(らくがん)かぁ、です? くっそまずいぃ、です」


「そんなの止めろだにぃ!?」


 なるほど、時代の流れだな。名前だけの存在なら別にいいや、実害ないし。

 小尾蘆岐も楓の事はほっとけばいいのに……おなかを壊す心配は無用だぞ。


 さて、なんか他に面白いものは無いかな?

 ああ、けっして、荒らしているわけではないよ。ちょっと興味をもって色々探していいるだけだ。


 しかし、旅館のカウンターの裏に回れるとは、ちょっと新鮮な体験だな。

 綺麗に整理されている内部に入る。

 従業員だろうか? 受け付けカウンターの内側に写真が数枚貼られているのに気がついた。


「なあ、小尾蘆岐この写真なんだけど、お前の両親じゃないのか?」


「えっ、どれだにぃ?」


 楓と、年数が経過した饅頭を奪い合っていた小尾蘆岐は、慌てて走り寄ってきた。

 舞い上がる埃が差し込む日に照らされる、体に悪そうだな。マスクが無いのは残念だ。


「ほらこれだよ、この着物姿の女性が小尾蘆岐の母親だろ、抱かれている赤ちゃんはお前なのか? それと、横にいるのが父親か?」


「ああ、確かにおかあさんだにぃ……そして……」


 母親と予想したのはあたりだったようだ、横の小尾蘆岐によく似ている。

 なんというか、ちょっと成長した小尾蘆岐だと思えるぐらい似ているのだ。


 その写真を見つめたまま、小尾蘆岐はまったく動かなくなった。


視点変換ーー小尾蘆岐02ーー


 千丈はやはりすごかった。僕をついに、この旅館まで連れてきてくれた。

 本人は気づいていないようだが、ここは長い間の無人状態で吹き溜まりのように大量の幽体があふれているはずだと予想できた。きっと霧先かよりなら、その濃密な存在を感知して確実に卒倒しているだろう。


 生者の香りは、彼ら幽体にとってまばゆいほどに魅力的なのだろう。普段人気のない場所にいる存在は、しつこくまとわりついてくる。


 あいにく僕には、それを感知する能力は持ち合わせがない。


 それは、それぞれの魔女特性がそうさせる。

 僕には目視することはできても、察知ができない。

 だから代わりに生体制御に特化している。それが回復の魔女というものだ。


 旅館の周囲、湖水の中にいる物は、きっと水深の深い場所に移動したのだろう。少し表層にいた存在は、湖底に降りた際に全て見えなくなった。

 それ以外の地上にいた存在は、千丈が近づいただけで離れていったと思う。ここに着いた時の静寂がきっとそうだと示している。


 この千丈の持つ力は、それなりの存在以外の顕現を許さないほどだ。

 たとえで言えば、強烈な蚊取り線香みたいだった。付近一帯の害する存在がきれいさっぱりいなくなった。


 ここに来るまでに一体だけ見かけたが、あれは少し強いようだ。千丈に対して適当な説明をして立ち去ったが…たぶん平気だろうと思いたい。


 曾祖母に聞いたことは、かなり大まかな話だった。

 ここからは、手探りで進まなくてはならない。なにしろ、旅館の現状は誰も知らないから。何が有るのか。なにが起こるのか?

それは、全くわからないのだから……

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