楓湖城の探検012
うげぇ、です。
うじゃうじゃいる、ですよぉ。
このちびっこにロープを巻き付けて放り込んだら、釣れる、ですかねぇ。うずうず
「なあ、小尾蘆岐? 本当にあそこに行く気なのか?」
「なにを言ってるんだにぃ? そのために、ここまで来たんだにぃ」
そりゃそうだけど……
なんだか嫌な予感がするんだよな。
「しかし、どうやってあんな湖の離れ小島まで行くんだ?」
「それなら、あっちに橋があっただにぃ」
「あった?」
「そう、今は崩れて渡れないけどにぃ」
だめじゃん。絶対に泳ぎたくはないぞ。
なんせ、水面下には魚では絶対にない、大きな影が蠢いているのが見える。
「水面の下だけど……」
「ああ、なんだかより集まっているだにぃ。さすがにあれに捕まると面倒だにぃ。さっき話したよね、廃墟には大抵いるだにぃ」
「大抵いるじゃねーだろ? 山盛りだろうが!?」
「うへぇ気持ち悪いの、ですよぉ」
「よし楓、ぶん殴ってこい」
「嫌、ですよぉ。濡れちゃう、です」
そんな理由で拒否か?
「止めてほしいだにぃ。表層の下にはもっとたくさん大きいのがいそうな気配がするだにぃ。水面下で大人しくしているから、そっとしておく方が安全だにぃ」
「わかったよ。よし小尾蘆岐、ここでの景観を目と記録に焼き付けておけよ。素敵な旅館だったじゃないか。まるでお城のような立派な佇まいで、ここまで来た甲斐があっただろう。なあ、楓?」
「ただのボロっちい建物、ですよぉ」
ちっ、こいつは話を合わせるという事が出来ないのか?
「風情があると言ってるんだよ!? なあ小尾蘆岐?」
「そんなに誉められると照れるだにぃ。じゃあ行こうだにぃ!」
おいっ!? 俺の話を聞いてないのか?
「あの、小尾蘆岐さん? 写真と動画をここで済ませよう、と俺は伝えたかったのだが」
「そうなのかにぃ? わかりにくいだにぃよ」
「そういうことで、俺はここで待つから、さっさと済ましてくれ。楓、飲みものを出してくれ」
「ハイ、ですよぉ。おやつも食べていい、ですかぁ」
「1つな」
「うほほぉい、です。お茶とスポーツドリンクどちらにする、ですかぁ?」
「ちょっと待つだにぃ!? なんで寛いでるんだにぃ? だから、泳がないであそこまで行けるだにぃ」
「へっ? だって橋は崩れてるんだろ?」
「行けばわかるだにぃ。楓ちゃんもレジャーシートを敷いてないで、いくだにぃよ!!」
「なんでぇ楓がお前の言うことに従わないといけないの、です? しばくぞ、この糞ガキがぁ!!」
「喧嘩するなよ!? わかった、とりあえず見に行けばいいんだろ。楓、おやつは後だ」
「はい、ですよぉ。おかたずけする、ですぅ」
なんだろう? この対応の違いは。こいつにとって小尾蘆岐は親の仇か?
楓に親はいないだろうけど……製造責任者はいるんだろうな。
眼鏡で作業服のおじさんが脳裏に浮かんだ。佐東という名前が作業服に縫い付けてある。
佐東さん……誰っ!?
独り言を呟きつつ、小尾蘆岐の後を歩き始める。
建物を横目に湖畔を移動して行く。
生き物の気配が全くないのだが、なんだか視線を感じる。
これについては、楓と小尾蘆岐が何も言わないから、たぶん平気だろう。
歩くこと数分でかつて小島に繋がっていたであろう、橋だった物が見えてきた。先ほどいた場所からは、建物の陰になって見えなかったがこちらが正面のようだった。
所々がひび割れて、草が生えたアスファルト道路から旅館に向けて数本コンクリート製の橋脚があった。
「ん? これが、橋なのか?」
今は橋脚を残すのみ。桁がないため渡ることができない。少しだが太い木材が残っていて、表面は朱色の塗料がされている。
「そうだにぃ。かつてはここから旅館に向かったみたいだにぃ。もはやその機能はないけどにぃ」
「たしかに、この状態なら……まあ、正面玄関に近づけないな……」
「ポーンとジャンプすれば行ける、ですよぉ」
お前ならな、俺たちには無理だよ。だって人間だから……
言ってもどうせ無駄だろうし、理解もしないだろうけど。
「経年劣化で壊れた、と言うより、壊したという方が正しいのか?」
「そうみたいだにぃ。ここを閉める際に壊したみたいだにぃ?」
俺は近づいて壊れた橋の断面を見た。すると違和感を感じた。
「変だな? 鋭利な刃物で切り落としたみたいだぜ?」
「のこぎりで適当に切り落としたんじゃないのかにぃ?」
いや、のこぎりではないだろう。
だって、電柱ほどの木材を鋸で簡単に切れるとは思えない。
それだけではない、手摺の欄干まで斜めに切り落とされていた。
いったいどのように切れば、こうなるのだろうか?
「小尾蘆岐? 本当にここは、ただ廃業しただけなんだよな?」
「どうしたんだにぃ、千丈急に…」
「どうも意図的に旅館との通路を断ち切っているように思えてな……」
「廃業したので、いたずらで誰かが入らないようにしたんじゃないのかにぃ?」
そうかもしれない、だが方法がおかしいのだ。
そもそも、ここまで来るだけでも大変だし、侵入しようとする変わり者は……一人いたな、横の小尾蘆岐だ。それは置いといて。
それだけの価値が、あの旅館にあるとは思えないのだ。
それに、つながる橋を落とす方法は、侵入者防止対策にしては、大げさで、労力に見合っていない。
常に荷重がかかっている橋の解体はそんなに簡単じゃないだろう。楓をぶん殴った椅子のような、もろい家具じゃないのだ。
それに、ここから二十メートルぐらい先に見える正面玄関には何の対策もされていないように見えることもおかしい。
施錠はしているのだろうが、ガラスの正面玄関を壊せば侵入は容易だろう。
橋を通らずに船でいけば簡単だ。ボートなら晩田湖のダムサイドに係留されていた。
「俺には、旅館からこっち側に来れないようにしてあるように思えるんだ」
「旅館からこちらに? なぜだにぃ?」
「そんなのは俺にわからない。だけど、なんとなく隔離されているように思うんだ。それに、旅館から何も感じないのか?」
「何を言っているだにぃ? あそこからは何も感じないだにぃ」
あそこから吹いてくる、風ではないなにか冷気のようなものを感じているのは俺だけだと?
「なあ、楓は感じないのか?」
「ご主人、すみません、ですぅ。楓にも感知できない、ですよぉ」
気のせいでは、絶対にないと思うけど。
何かを抑えつけられているようだけどな? まるで冷凍庫の扉の隙間から冷気が漏れ出してるような。そんな感覚を感じる。
そもそも、魔女とロボットが違和感を訴えないのに、素人が騒いでいる。
医者からその痛みは気のせいです、と言われたみたいだ。
これ以上は理解されないのか……仕方がない。
「そうだな、気のせいだったみたいだ。で、小尾蘆岐、さすがに楓じゃないから、跳んでいくのは難しいだろ」
「平気だにぃ。ここを見るにぃ」
小尾蘆岐の指差す先に視線を向けるて納得した。
なるほど、このタイミングでここに来なければ、きっとあの旅館に近づけなかったろう。
そう、この状況なら、なんとか行けるのか?……
白物魔家電楓をお読みいただけて感謝です。
不定期の投稿ですが、これからも、どうぞよろしくお願いいたします。