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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検009

お出かけ、ですよぉ。さっくさくのメロンパンを選ぶの、ですよぉ。

ご主人が選んだアメリカンドックは甘くないの、です。なんで、でしょう?


 途中のコンビニで、パンとペットボトル飲料を購入した。

 自宅から駅まで徒歩20分ほど、今の時刻は朝の6時前。向かう先は、山間部方面。

 ホームにはこれから登山に向かうのだろうか、大きなリュックを背負って登山服を着込んだ人達がいた。


 そんな中、迷彩服で大きなリュックを背負った小尾こ お蘆岐ろ ぎと、チノパン姿でコンビニのビニール袋を持った俺。それに、花柄ワンピースの楓という統一性のない一行は、ちょっと目立つ。

 なんだこいつらってぐらい浮いている。じろじろ見ないで欲しい。


 10分ほど待って、アナウンスと共にホームに滑り込んできた来た電車に乗り込んだ。

 俺たちは揃ってボックス席に移動。俺と楓は並んで座り、対面に小尾蘆岐が収まった。楓はすぐ窓に取り付いて、外を眺め始めた。


「なあ、いつから小尾蘆岐はこんなことしてるんだ?」


 席について早々、俺は小尾蘆岐に問いかけた。


「こんなことにぃ?」


「廃墟に行くのだよ。普通はそんなことしないだろう?」


「そうだにぃね。なんでだろう? ……うん!! これは、色々な事にチャレンジして、その結果、こうなっただけだにぃ?」


「なんじゃそりゃ?」


 チャレンジ? 訳がわからないな。


「これだけじゃあ、わからないよね、ごめんだにぃ。えっと、キーチューブ動画の投稿者は、みんなが試行錯誤をしていると言えばいいのかにぃ?」


「試行錯誤?」


「そうだにぃ。動画投稿者の多くが、注目をしてもらうための方法を模索するのだにぃ。それは、どんな手段でもいいんだにぃ。僕も始めは、スイーツの紹介とかをしていたんだにぃ」


 こいつも甘党か……しかし、スイーツ動画って何だろう、お菓子をひたすら食べて、ゲロを吐くまで続けるのだろうか? ちょっと気になるな。


「まあ、スイーツはどうでもいいだにぃ。ある日、古い崩壊しかけた神社の動画を撮影、投稿したのだにぃ。それを視聴してくれた人からの反応が凄くあっただにぃ。それから、感想を書いてくれたりするユーザーの声を聞いているうちに、だんだんとこうなっていっただにぃ」


 そうか、スイーツ動画は、どうでもいいんだ……後で見てみようかな?

 その古い神社がきっかけで廃墟動画撮影が始まったのか。どんなにおもしろい動画でも、見る人がいなければ投稿しても意味がないだろうし、反響じゅようがある物を続ける、そういう事か。


「ふーん、で、その神社動画は、すごい反応があったんだな」


「それは凄かっただにぃ。パッとしない動画投稿者が一気に人気クリエイターとなっただにぃ。それに、廃墟を見て回るのは楽しいだにぃ。僕をワクワクさせてくれる廃墟の魅力は昨日話したけど、千丈は覚えているかにぃ」


 なんだっけ? よく覚えていないな。


「もう忘れただにぃか? 時が止まった空間だにぃ。建物が放棄されるのは、色々な事情があるだにぃ。それは、経営不振による倒産だったり。借金による夜逃げもあっただにぃ。それぞれが本当に深い理由りゆう、どうしようもなかった理由わけがあるだにぃ。」


「まあ、そうだろうな」


 そこに至るまでには、さまざまな理由があるわけだよな、知らないだけで。

 確かに使われていないだろう建物を見ると、不思議に思う気持ちはある。また、入り口がベニヤ板などで封鎖されていると、中はどうなっているのか気になる気持ちは確かにある。


「その放棄された建物の中には、色々な物が残っているのだにぃ。それを、1つひとつ見ていくと理由がわかる事があるだにぃ。悲しい事情。どうしようもなかった結末けつまつの断片を僕は見つけるにぃ。そして、それを紐解いて、繋げると真実が見えてくるだにぃ」


「へー、そうなのか。それは確かに興味深いな」


「共感してもらえて嬉しいだにぃ」


 現代版の謎解きダンジョンみたいだな。結果は悲しい結末だろうけど……

 小尾蘆岐の話しを聞いて、廃墟探索のきっかけと、醍醐味はわかった気がする。じゃあ、自分がそれをしたいかと言われれば答えはNOである。

 動画で見るだけならまだしも、そこに出向いて廃墟探索って普通しないだろう。お茶の間で眺めて笑う方がだんぜんいい。


 テレビの秘境探検番組が脳裏をよぎった。なら、必ず穴に落ちたり、獣に追いかけられるようなドジっ子がいないとな。 俺は嫌だな、楓に担当してもらおう。



「ご主人!! あれなん、ですかぁ!?」


 窓側に座り大人しく外を見ていてくれた楓が、何か気になるものを見つけて聞いてくる。

 だが、俺は物知り博士ではないので、答えられる訳がない。


「ああ、なんかの会社だな」


「なんかの会社、ですかぁ。おっきい、ですねぇ」


「おいっ脚をブラブラさせるなよ。俺のズボンに当たるだろう、ちゃんと座れよ」


「はにゃぁ、ですぅ」


 ちっ子供か?


「千丈、もうすぐ目的の駅に着くだにぃ」


 小尾蘆岐に言われて外を見ると、だいぶ景色が市街地から変わっていた。

 車窓から遠く見えていた山が近くなった気がする。

 なだらかな山の斜面と、点在する民家。あの奥に目的の場所があるのだろうか。


「そろそろ降りる準備をしようだにぃ」


 小尾蘆岐は立ち上がり荷台の荷物を降ろす。

 俺は外の景色を見続ける楓の首根っこを掴んで、電車の出口に向かって引きずっていく。


「ほら、降りるってよ、歩け」


「はい、ですぅ。ご主人、先ほど牛さんがいたの、ですよぉ」


 なにぃ牛だと! 見過ごしてしまった。

 そういえば、ベッキーは元気かな? 帰ったら一度見に行ってやらなくちゃ。

 そんな事を考えていると、電車は目的の駅に到着した。


 ここからは、バスでの移動だ。


 **


 到着した駅は、ひとことで言って、凄く寂れていた。

 商店も数店舖あるのだが、全部シャッターが降りている。


 看板に書かれている、塗装が剥げた歓迎の文字を見ると、歓待されているような気持になれない。

 人通りが全く無いぞ。それどころか、人類の滅んだ世界に迷い込んだようだ。


 ああ、秘境についに足を踏み入れてしまった。


 目の前のバス停に移動して、バス表示板に記載された時刻表を確認する。すると、2時間で1本運行しているようだ。最終便の発時刻は午後3時となっている。


 なるほど、小尾蘆岐が早い時間に向かう理由がこれで分かった。早くかないと帰れなくなる。


 まあ、のんびりと待つことにしよう。

 劣化して割れているプラスチックのベンチに腰を降ろした。横に小尾蘆岐が座った。


 急に、日が遮られて顔を上げると、楓が前に立っていた。


「ご主人暇、ですよぉ」


 ああ、俺もそうだ。


「少しその辺を走って、なにかないか見てこいよ」


「了解、ですよぉ」


 楓は敬礼をして、付近の探索に走って行った。

 元気だな。


「うーん、バスは30分後だにぃ」


 ああ、さっき見たからな。知ってるよ。


「そろそろ、向かう先の情報を教えて欲しいんだが」


「そうだにぃ。ちゃんと教えないとね。時間もあるだにぃ。そこは僕のお父さんの働いている場所だっただにぃ」


 小尾蘆岐の話し始めた内容は、昨日ハンバーガーショップで聞いた内容の続きだった。


「僕のお父さんは、この奥にある晩田ばんでにある小島の旅館を経営していただにぃ。そこは、僕が赤ん坊のときに廃業しちゃっただにぃ。もちろん住んでたはずだけど、その頃の記憶はないのだにぃ」


「そうだったのか……」


「もともと観光名所もない山の奥だにぃ。なぜ、そんなところに旅館があるのかもわからないだにぃ。でも、凄く古い歴史があるとおばあちゃんに聞いただにぃ」


「それで、お父さんは今どうしてるんだ」


「僕のお父さんは、分からないだにぃ……ずっと前に家を出て、それっきりだにぃ」


「……そうなのか」


「今はお母さんと弟の三人で暮らしているだにぃ。小尾蘆岐家も魔女の一角だにぃ。もともとは、晩田ばんで地区ち くに栄えた歴史がある家柄だにぃ」


「そうなのか、その家柄についてはよくわからないけど。その旅館が、お前の生家という事なんだな」


 なるほど、生まれた家に、もう一度行きたいという気持ちはわからないでもない。

 ただ、生まれた家を失う経験や、父親が行方知れずといった経験が無いので、客観的にしか分からないし、本当の理解などは出来ないだろう。


「そうなるかだにぃ。お母さんと、おばあちゃんがずっと暮らしてきた家だにぃ、あの頃には、もう戻れないけどだにぃ」


「そうか、まあ、中に入れるといいな。何か探し物でもあるのか?」


「うん、どんなところだったかもわからないだにぃ。写真も無いんだにぃ。だから、僕はちゃんと一度、見たかったのだにぃ。ごめんね、千丈を巻き込んでしまってにぃ」


「ああ、別にもういいさ、ここまで来て今更だ。ただ、危ない事がなければいいなと思ってる」


「危ない事か……ないといいだにぃ」


 なんだか、危険な発言をしてしまったようだ。変なフラグにならなければいいのだが。

 そのとき、向かいの茂みから何かが勢いよく飛び出してきた。小尾蘆岐は驚いてベンチから飛び上がったが、俺は動じない。


「ご主人、何を話しているの、ですかぁ?」


「楓か、もう帰ってきたのか、それで、何か見つけたか?」


「誰もいない、ですぅ。それと、こんなの見つけた、ですよぉ」


 楓の差し出す物は、古びた陶器の欠片かけらだった。表面が薄く茶色に変色をしている。

 それは、白磁はくじ藍色あいいろで、蔓性つるせい植物しょくぶつの図柄が絵付けされていた。 おそらく皿の一部だろうか? なだらかな曲線が表面の形状に見受けられる。

 破片の大きさは約10cmで、おそらく、この倍ぐらいの直径だったと思われる。


「何だそりゃ、その辺の人が捨てたものじゃないのか?」


「そうかもしれない、ですよぉ。でも、これからは魔波動まはどう残滓ざんしを感じるの、です。それにかなり昔の物、ですぅ」


残滓ざんしただの陶器だぜ?」


「すごく、古い感じがするだにぃ。これって、どこにあったのだにぃ?」


「……お前には見せてないの、です。ご主人、あそこにあったの、ですよぉ」


 楓が指さす先に視線を向けた。そこは、目前に広がる山の急斜面、中腹付近だった。あんなとこまで行けるのか? もちろん、そこに行く道はきっとないだろう。下はどうなっているのか木々で見えないけど。

 だって、岩がむき出しの崖だもん。部分的に木が生えている、すごく斜めにへばり付くように。

 山水画のような場所だな。


「楓が見つけたのは、これだけなのか?」


「他にも何個かあった、ですよぉ。でも、みんな埋まっていて面倒だったので、これだけ拾ってきたの、ですよぉ」


「ふーん、まあ、上の方に何かあるのかな?」


 崖の上に視線を向けるも、どうなっているのか、ここからではよくわからなかった。


 楓が持ってきた際に話した一言を、俺は軽く流したが、後々理解することになった。


 陶器の破片を眺めていると、車の音が聞こえてきて、バスが向かって来るのが見えた。


 破片を楓に渡すと、投げ捨てやがった。

 崖に向かって一直線に飛んで行って、すぐに見えなくなった。

 ぽいっ、といった感じに投げただけなのに、なんで弾丸のようになるのだろう。恐ろしいロボだ。


 崖を呆然と眺めている俺の前にバスが到着した。

 二人と、一台は小尾蘆岐を先頭に、バスに乗り込み晩田湖に向かうのだった。

白物魔家電 かえで・楓湖城の探検をお読みくださり感謝です。

今回の話は、小尾蘆岐の廃墟動画キーチューバーの始まりを入れました。


廃墟動画、実はこれは、ちゃんとあります。


違法性があるかどうかは意見がわかれるところですが、建造物の破壊(刑法260条 建造物等損壊罰・刑法261条 器物損害罪)や、窃盗(刑法235条 窃盗罪)、退避警告を無視する(不退去罪)など行えば、確実に逮捕されます。


刑法130条の住居侵入罪は、どうもビミョーなラインなようです。そもそも住人がおりません。監視物件の場合は別ですけど。

それに、管理されていない物件は劣化が進みます。人がいないと建物はどんどん土に還ります。

高所階から一気に地下まで床が抜けて落ちたりした場合や、怪我をして動けなくなった場合など、生命の危機に直結します。危ないよぉ。


いないと思いますが、くれぐれも興味本位で入らないでくださいね。


推奨は絶対にしません。フィクションで楽しんでください。

廃墟があっても、絶対に遠くから眺めるだけにしてください。まあ、普通は行きませんよね。私も行った事はありません。かなり臭いらしいですよ。それは、廃墟臭と呼ぶらしいです。虫も凄いですよ。


ちなみに、物語の廃墟は小尾蘆岐の実家です。もちろん、所有権も小尾蘆岐家の所有物件です。

まさに、自己責任の範疇はんちゅうです。物語フィクションですけどね。

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