楓湖城の探検007
うほほぉい、です。
ご主人が起きたらチョーびっくりする、ですよぉ。
気に入ってくれるといい、ですねぇ
リビングで夕食を食べて、早めに就寝する事にした。
なにしろ明日は五時半に出発だ。かなり早起きをしなくてはいけない。
カードゲームで遊ぼうとくっついてくる楓に対して、朝五時過ぎに起こしにくるように指示を出し、スイスに送り返した。
そして、電気を消し就寝する。おやすみなさい。
**
真っ暗な室内で急に目が覚めた。
なんだか違和感を感じる……ん? 体が動かない、これは金縛りか!?
「なんだ?」
声を出すことは出来るが、動かせるのは首だけのようだ。
まるで簀巻きにされているように感じて、息苦しく暑い。右左を向くも、真っ暗闇でなにも見えない。
そのうちに眠っていた意識も完全に覚醒してきた。それと同時に、目が暗闇に慣れて、少し周りが見えると違和感を覚える。
なんだか腹回りのタオルケットが、やけに膨らんでいる気がする。こんな状態が前にもあった気がする。
そう、あの時だ……たしか。
「おい! 楓」
「むぐぅ、ですぅ。ご主人朝、ですよぉ」
やはり楓の仕業か、タオルケットの中より声がしている。
相変わらずの行動だな。前に怒られた事は忘却の彼方で、全然反省しないロボだな。
「とりあえず離せ、今すぐにだ!」
「うえぇ、です。あと5分だけでいいのでぇ、おねがい、ですぅ」
「俺の言葉が聞こえないのか……楓ぇ」
「ひぇぇ!?」
低く苛立ちを押さえた俺の声を聴き、楓は慌ててタオルケットをはねのけて後ろに飛び下がった。
ああ、これでやっと自由になった。容赦なくぶん殴れるぞ。
「ご主人!! なんでそんなに怖い目で見ているの、でしょうかぁ? 謝るの、ですぅ。ごめんなさい、ですぅ」
俺からは真っ暗で輪郭ぐらいしか見えない、どうやら床で土下座をしているようだな。
楓からは俺の姿が見えているのか?
俺の目つきがわかるようだ。暗視機能もついているんだへぇー。
俺はゆっくりと上体を起こし起き上がる。
まだ、手足のしびれは少しあるが大丈夫だ、こいつをぶん殴る力ぐらいはもう出せるだろう。その前に部屋の明かりを点けた。
部屋が明るくなると楓の服装が見えた。その姿に俺は驚きを隠せずに唖然となった……
楓が身に着けているのは、半透明でスケスケのネグリジェだ。
赤いシースルーで中には何も着けていないようだ。背中からお尻まで透けている。アホかこいつは?
「なんだ? その酔狂な恰好は?」
「ご主人の大好きな衣装、ですよぉ。本を読んで参考にしたの、ですぅ」
「本だと……?」
「ご主人秘蔵の物を本棚3段目の奥で見つけた、ですぅ。昼下がりの○さな妻のひととき、15ページに出ていた、かづみさんの服装を……」
「んなぁぁ!!? 言うなぁ!?」
やめろぉ!?
「なんで、ですかぁ。ページに折り目もついていたの、ですよぉ。お気に入りなん、ですよねぇ?」
何てこった。こいつに発見されるとは。奥に隠したアートブックが、なぜ楓にわかったんだ?
確かに、あのページは俺のお気に入りだったことは否めないが……
違うんだぁ!? 俺が見たかったのは、楓のこんな姿じゃない。
「うぅ、くそっ!?……勝手に部屋をあさるなよ」
「他にもぉ、ですぅ。机の裏には、もっと凄いのが……」
なんでぇ、そこまでバレてんだよぉ!!
「そんなに見つめらてると照れる、ですぅ。お時間も、まだ四時半、です。余裕たっぷり楽しめるの、ですよぉ」
どうするか……
楓は勘違いしているようだが、こんな幼児体形が着て似合うはずがない。
そこそこ、胸の大きさはあるのだが童顔に扇情的な服装は単なる背伸びした子供にしか見えない。
こいつは、俺の見てはいけないものに触れた。
よし、さあ、ぶっ壊そう!!
「そんなに時間かからないよ、数秒だよ」
「そんなにお早く、ですかぁ。うふふぅ」
ああ、お前をぶん殴る時間は、それで充分だ。
とりあえず、タオルケットを楓にかぶせて、そのまま頭部にチョップを与えた。……!? ぐあぁぁっ!!
相変わらず頭が凄まじく固い。
俺の手に、またヒビが入ったかも知れない。……この後、この手も小尾蘆岐に治して貰う必要がある。
昨日に引き続きこれで、両手の第5中手骨、第5基節骨を損傷した。
どの骨だって? 小指側の骨だよ!?
「うぐぐぅ……ですぅぅ。」
タオルケットの中からは、くぐもった呻きが聞こえてくる。お前も痛いだろうが、俺はもっと痛いぞ!?
ダメだ、素手でこいつを壊せないぞ。
「……いつつ、なあ楓、どうやったらお前の記憶を消せるんだ? 金属バットとかでボコボコにすれば消えるのか」
「うもぐぅうぅ、でぇ……ぷはぁ。楓の記憶はファミコンじゃないの、ですぅ。そんなに簡単に消したり出来な……うぇぇ!?」
攻撃が出来るアイテムを探したが、バールとかハンマーのような打撃武器は部屋に無かった。
仕方がなく椅子の背もたれを掴んで振り上げる。
「ちょっ!? ご主人……楓は、ですねぇ。喜んでいただくために頑張ったの、です。だから……」
「ふん!!」
「うぎゃぁぁあっぁ!!!?」
スチールパイプの椅子で、楓の頭部を殴り付けた。
金属同士がぶつかるような乾いた音が室内に響き渡る。プラスチック製のキャスターが砕け、部屋の奥に転がって行った。椅子のフレームはひん曲り、より殴りやすい形状に変形した。
「なあぁ、消えたかなぁ?」
「うぐぅぅ、ちょっ、ご主人!?」
再度パイプ椅子だった物を振り上げて楓に降り下ろす。
スチールパイプが脳天にきれいに決まった!! お寺にある梵鐘を撞木で叩いたような音が響きわたった。いい音がするな。
「ぐぎゃぁぁあぁ、なんでぇ、でづぅ」
「あれぇ、まだダメみたいだな?」
今度は側頭部に決めるかな?
「ううぅ……はっ! これはご主人、もうすぐお約束のお時間、ですよぉ。おはようございます、ですぅ。昨日の夜からお久しぶり、ですよぉ」
楓は必死に頭部を抱え、涙目になりながらも演技を始めた。
これだけやればもういいだろう。もう、あの物に手を出すことはもう無いだろう。
それに、楓の頭部に対処できる良い武器が出来た。これは常に枕元に置いておこう。
「おう、楓じゃないか。少し指定した時間より早いんじゃないのか?」
「はい、です! ご主人のお着替え準備時間も考えましてぇ、ですぅ」
こうやって、素直に言うことを聞けば問題がない。
「聞こうじゃないか? お前の今の恰好は何だ? 俺が納得できるように説明してみろ」
「はっ!? なぜ楓はこんなみっともない恰好をしているの、でしょうかぁ? 不思議、ですぅ」
そう言って胸元を両手で掴み、シースルーの衣装を左右に引きちぎった。
衣類をすべて投げ捨てて、完全に真っ裸の楓さんが俺の前に現れました。
「……お前は恥じらいという感情を、どこかに忘れてきたのか?」
「ご主人の前では、楓はいつでも裸の気持ちでいるの、です。むしろ、衣服で隠す方が、恥ずかしいと感じております、ですぅ」
楓は軍隊式の敬礼を行う。
真っ裸で敬礼をしなくてもいいだろう? 本当にぶっ壊れているなこいつは……
「じゃあ、そのままでお出かけするか?」
「うぅぅ、ですぅ。……それは…ちょっと」
外に出るのにさすがに恥ずかしいようだ。
最低限の常識はあるみたいで安心した。まあ、こんな状態の楓を連れて外を歩いた日には、俺が確実に補導されるだろう……いや逮捕される可能性が高いか。
楓の場合は拾得されて、遺失物扱いになるのかな?
「もういいや。さっさと服を着てこい。俺も準備するから」
「平気、ですよぉ。もう準備は終わってます、です」
俺の枕元には、楓の着替えがきちんと折りたたんで準備されていた。用意周到だな。
「じゃあさっさと着替えろよ」
「はいぃ、ですよぉ」
完全に真っ裸で、鼻歌を歌いながら服を着始める。
今日の下着は上下で色が違う。ブラはピンクで、ショーツは白を着用した。
どうでもいい話をしてしまった。そして、楓が取り出した服を見て少し驚く。
「そんな服も持っていたんだな?」
「先日にひよりさまと買いに行ったの、ですよぉ。似合います、でしょうかぁ?」
それは、白いワンピースだった。色々な部分に黄色い花の刺繡がちりばめられている。
だが、どう見ても廃墟に出かける服装ではない。
どうでもいいので、それについては無視をした。
こいつに係わっていると俺まで遅くなってしまう。時間はまだ余裕があるのだが、早めに着替えて準備をしないと、長袖シャツにチノパンを衣装ケースより引っ張り出して着た。これなら多少の汚れは、気にしないでいい。
「ねぇご主人ぃ、ですぅ。どう、ですかぁ?」
楓は着用したワンピース姿を俺に見せるようにくるくると回りだした。
そういう行動は埃が舞い上がるので止めて欲しい。まあいいか……それより、朝ご飯はどうしようかな?
途中の駅でパンでも買って食べるか。いや台所になんか残っているかな?
「……ああ、いいんじゃないか」
「ああ嬉しい、ですよぉ。ひよりさま、ありがとう、ですぅ」
飲み物は途中のコンビニで買うかな……いや、冷蔵庫に確かペットボトルの買い置きが……
「ちなみにぃ、ご主人、どこが良いの、でしょうかぁ?」
「ああっ、そこだよ」
「ここっすかぁ、ですよぉ」
うるさいな!? 何だよさっきから、うっとおしいな。
もうすぐ待ち合わせの時間になりそうだ。そう考えた、そのタイミングで俺のスマホから着信音が鳴り響いた。
白物魔家電楓をお読みくださり
誠にありがとうございます。
投稿時間、時期、時間が”まちまち”になってしまって申し訳ありません。
そんな中もお越し下さる方々がいらっしゃる事は、非常に私の心の支えになっております。
これからも、どうぞ、よろしくお願いいたします。