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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検004

 ついに手に入れた、ですぅ。

 これが"あまいあまい"、ですねぇ。イチゴに白いクリームがてんこ盛りもり、です。


うまかぁ、です。

では、ご主人を探しに出発するの、ですよぉ。

「おいおい? なんだこれは……この動画はいったい!?」


小尾(こお)蘆岐(ろぎ)の見せてくる動画に俺は驚きを隠せなかった。


「そう、これが僕の趣味『廃墟はいきょ探索たんさく』だにぃ。キーチューバーとして廃墟があれば探検しに出向いて、それを動画撮影して投稿をするにぃ。これが結構な稼ぎにもなるし目的のためには有効なんだにぃ」


「廃墟探索だと? いったいそれはなんだ?」


 聞いたことがない単語だ。廃墟探索?


「千丈、廃墟は分かるかにぃ? もうすでに使われなくなった建物の事で、そこに僕は入り込んで内部を探索するのだにぃ」


「廃墟は分かったけど。廃墟に何をしに行くんだ?」


「そこにロマンがあるからだにぃ。時間の止まった世界の素晴らしいお宝を見つけ出すのだにぃぃ!!」


 だめだ、聞けば聞くほど理解不能だ。言っていることが訳分からん? なんで俺の周りに変人ばかりが集まるんだ。さっさと会話を切り上げるか。


「……うん、すごいね。ぜひ頑張ってくれ。おっと晩御飯のお買い物を頼まれているんだった。ありがとう有意義な時間を過ごせた。そろそろ俺は帰らせてもらうぞ」


「なぜだにぃぃ!?」


 冗談じゃない!? なんでみずから危険地帯に足を踏み入れるんだ? このままだと廃墟に連れていかれる。そんなのごめんだ。


「待ってだにぃ!? 僕の願いを聞いてくれる約束のはずだにぃ?」


「聞くとは言ったが、するとは言ってない! ふざけるな俺が怪我したらどうするんだよ」


「ああ、それなら心配はいらないだにぃ。治してあげるだにぃ」


「結構です。怪我しない事ならまだしも。廃墟なんて興味はありません」


 俺の言葉を聞いて小尾蘆岐はのんびりとチョコシェイクを一口飲んだ。その表情には余裕がある。

 なんだ、ニヤニヤしやがって?


「いいのかにぃ。千丈の誤解を解けるのは、僕しかいないだにぃよ」


 そうだった!?

 うーん、目前の危機を乗り越えるために、将来の危険を受け入れる。究極の選択だな。でも、それなら答えは決まっている。


 取り合えずの危険を回避!! これが俺の選択だ。


「わかった協力をしよう。小尾蘆岐!! 共に行こう廃墟が俺たちを待っているぞ」


「共感してくれて嬉しいだにぃ。早速だけど、千丈を誘った廃墟についてなんだけど……」


 俺はそれ以上の言葉を言わせる前に小尾蘆岐の手を握りしめた。そして目を見つめて話し始める。


「なあ、小尾蘆岐、お前の話を聞く事にしたんだから俺の誤解を解く方法について教えてくれないか?」


 手を握ると小尾蘆岐は急におとなしくなってうつむきだした。

 上目使いでこちらを見つめられるのは、男でもなんだかドキドキしてしまう。華奢で小柄、瞳が大きく睫毛も長い、まるで女の子を見ているみたいだ。いかんいかん。


「……もう千丈は、いいよ、分かっただにぃ。僕の友達にメッセージを送れば誤解を招くことはもうない。だって学校の半分近くが友達になっているだにぃ……」


 半分近くだと……ちっ。

 千人近くのフレンドだと?

 けっ! このリア充め。俺は家族含めて4人だ (霧先先輩を含む)。だが今は私情を置いておこう。


「そうか、ありがとう心強いよ。お前と知り合えてほんとうによかった。これで一安心だ、一時はどうなるかと思ったんだよ。で、早速だがそのメッセージで誤解を解いて欲しいのだが」


「えっ……今からかにぃ?」


 よし、もう一押しだ。


「なにしろ、お前は知らないだろうけど、俺は今クラス全員から”いないもの”とされているんだ。ああ、勘違いしないでくれ、別にいじめじゃないからな。空気として扱われるだけで別に嫌がらせをされている訳じゃないからな」


「さらっと、酷い状況の説明をされただにぃ」


「そんなわけで、今の心境は心中穏やかではないのだよ。だから、ゆっくりと話を聞いてお前と冒険に出かけるためには、心のつっかえを取り払いすっきりとした気持ちでいたいんだ。頼むよ小尾蘆岐さん」


 小尾蘆岐の瞳を真っすぐに見つめると目をそらすことなく見つめ返してきた。その頬はほんのり赤く染まっている。


「うん、分かっただにぃ。ちょっと待ってね、今、操作をするから」


 流しっぱなしだった動画を閉じ、アプリを起動してメッセージの書き込みを始めた。


「ほら、千丈これでもう大丈夫でしょう?」


 打ち込んだメッセージを俺に見せてきた。そこには今日の出来事が事故だった旨が記載されていて、読んだ人は俺の”ホモ疑惑”を払拭するように上手に配慮されている文章だった。

 これなら今後の学校生活に影響がないだろう。


「よし、さすがだ小尾蘆岐!! 送信してしまえ」


「ちょっと待つだにぃ!?」


 あと少しなのに何だよ!? これさえ送信させればもう用はない。

 約束? 知るか!? これで心置きなく帰れるってもんだ。


「どうかしたのか小尾蘆岐?」


「約束して欲しいだにぃ。僕の願いもちゃんと叶えてくれると」


 なんだこの真摯な瞳は、うぐっ、ちょっと心に響くぞ。

 だが……この要求は…危険すぎる気がするし、休日がつぶれるのも痛い。

 だが、残り一年半の学校生活も……


「わかっているさ、お前が守ってくれた約束だからな。出来ることは協力しよう」


「千丈……ありがとうだにぃ」


 小尾蘆岐は送信ボタンをタップした。これで俺の学園生活の安定は教室以外で確保された。


 俺は心の中で、”にやり”とほくそ笑んだ……


「じゃあ、俺はお買い物があるので失礼する」


「なっ!? 約束が違うだにぃ!!?」


 席を立とうとしたら、小尾蘆岐が素早く回り込んできた。そして俺の腰にしがみついてきた。

 ボックス席にしたのは間違いだった!?

 前にくっつかれると俺は通路に出れないので逃げることができない。


「待つだにぃ。ひどいぞ千丈!? 僕の願いを叶えてくれるはずなんだにぃ」


「冗談じゃねえ!? そんな危険地帯に俺のような凡人が行けるか。死んでしまうわぁ」


「だいじょうぶだにぃ、僕が必ず怪我は治してあげるだにぃ」


「その前に一度怪我するじゃねーか! 痛いのが嫌なんだよ!?」


 店内で騒ぐのは本意ではないが、こうなってしまえば仕方がない。

 力で脱出を図るか?

 押し退けようと思えば体重も軽い小尾蘆岐なんて持ち上げるのは簡単だろう。


「そんなに廃墟で怪我するとは限らないから平気だにぃ。僕は今までほとんど怪我なんてした事ないだにぃ」


「危ない事に変わりがないだろうが。それに、俺がそんな所に行くメリットが無い」


「ちゃんと千丈にメリットはあるだにぃ。僕との親睦を深めることが出来るさ。この友人が三桁はいる小尾蘆岐と仲良くすればいいことがたくさんあるだにぃ」


 むかっ!!


「おらあ!? 他のお客様のご迷惑だ。俺の上から降りやがれ」


 小尾蘆岐の脇に手を差し込んで、そのまま上に持ち上げようと力を込めた。すると小尾蘆岐も俺の腕を掴んで抵抗をしてきた。


「さあ、いいかげん降りろ。良い子だから」


「絶対に逃がさないだにぃ。僕を助けるだにぃ…」


「お前のお前のその熱意はなんなんだ。もっと他に向けろよ!!」


「だめなんだにぃ! これしか僕には方法が無いだにぃぃ」


 全体重をかけて小尾蘆岐はのしかかってくる。

 手の力は大した事がないのだが、俺の態勢がよくない。

 なにしろソファーから立ち上がろうとしていたので、腹筋だけで上体の維持をしている。これでは力が出せない。

 だが、腕の力だけで押しのけてやる!!


「いいから、降りろぉ!」


 力いっぱい腕を押し上げると小尾蘆岐の体が離れていく。俺の上半身が起き上がり更に押しのける事が出来そうだ。

 これで俺の勝ちだ! 俺は勝利を確信した。


「千丈…いいから僕の願いを聞いて欲しいだにぃ、さもないと…」


「さもないとなんだっていう……ん? あれ、なんだこれ!?」


 急に腕がしびれ始めた!? その感覚が徐々に広がりだしていって腕の感覚が薄れる。


「小尾蘆岐!? お前いったい俺になにしやがった!?」


「僕は回復の魔女と呼ばれているだにぃ。回復とは何か千丈は分かるかだにぃ?」


 なに、回復だと?


「どういう事なんだ?」


「回復とはだにぃ。他人の生体制御が出来るという事なんだにぃ。つまり、千丈の心臓も止めようと思えば……えっ?」


「いい加減にしろ、です。このちびっこがぁ、です」


 俺と小尾蘆岐の攻防に低く、重圧感がある声が聞こえてくる。それを聞いた小尾蘆岐の動きが止まった。



 白物魔家電楓をお読みくださりありがとうございます。

 昨日はpv910になりました。

 今までの最高記録を達成することが出来ましたこと感謝と共に、執筆を行う心の支えになっております。

 これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

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