表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第弐章 閑話 楓太古とのふれあい
34/115

楓太古とのふれあい(その四)

ご主人を抱きしめてしまいました、ですぅ。


し・あ・わ・せ、ですよぉ。

 **

  楓太古とのふれあい(その四)

  034


 壁側から重量物がゆっくりと動く音と。硬質で規則正しく床を鳴らす二つの音が聞こえてきた。俺の視界は楓に抱きしめられていて、音源の確認を出来ないでいる。


「楓、変な音がするけど、分かっているのかな?」


「音っすかぁ、です?」


 そろそろ離してくれないかな?

 なんだか危険な気配をお尻の下から感じる。伝えるのはベッキーが震える感触だ。


 だんだんと音源が近づいてくる。そして、ついに奇声が聞こえてきた。それは猛獣の低い警戒の唸り声のようだった。


「おいっ!? 本当に大丈夫なのか? 凄く危険な感じがするけど……なあ、楓ぇ、本当に離れろよぉ」


「うふふぅ、です。ご主人さまぁ」


 全力で引きはがそうとするが、まるで鋼鉄のパイプにがっちり固定されているようだ。押しても引いても動く気配が微塵もしない。むしろ、締め付けがきつくなってきた。


 聞こえてくる音もだんだんと大きくなっている。ベッキーの震えもより激しくなり、俺と楓を搭載したままで後ずさりをして距離を取ろうとしているのが感覚で分かる。


「いい加減にしろぉ!!?」


「むぎゃん!? ですぅ」


 痛ってぇぇぇ!!


 こりゃヒビが入ったかも!? ジンジンとした痛みが手に走った。だが、楓の後頭部に向けた"グーパンチ"は効いたようだ。拘束が遂に解けた。楓は自分の後頭部を涙目で押さえている。


「よし、離れた……ん? 何だあれは?」


「うぅぅ、ですぅ。ご主人ひどい、ですよぉ」


 楓をかまっている場合じゃない。こちらに向かってくる三メートルほどの"大きな鳥"がいる。


 それは、エミューでは最早(もはや)なかった。


 くちばしは、なくなって大トカゲのような頭部が見える。エミューの愛嬌があった顔立ちは微塵も残っていなかった。頚も太くなり、全体の大きさが1.5倍ぐらいにサイズアップをしている。


 後ろ脚でしっかりと立って、長さのある太い尻尾でバランスを取って歩いてくる。これをトカゲでなく、鳥と表現したのには理由がある。

 それは、”ほぼ全身が極彩(ごくさい)(しょく)羽毛(うもう)で包まれている”からだった。

 強靭な筋肉で覆われている脚部の先には、一本だけ、やたらと長い黒々とした鉤爪かぎつめがある。それが歩くたびに研究室の床に当たり、乾いた音を立てている。先程から聞こえたのは、この音だったのか…


「なんじゃこりゃ……めちゃくちゃ怖いぞ!? こっちに来るなぁ」


「へぇぇ、ついに出来ました、ですぅ。ご主人どうですかぁ本当だったでしょう、ですぅ。これは、ヴェロキラプトル・モンゴリエンシス、ですねぇ。たぶん、です」


「なんじゃそりゃ? おい、危険な生き物なのか?」


「さぁ? わかんない、ですよぉ。実物は初めて見ますから、です」


 危険かそうじゃないかは一目見れば分かる。けど、一応確認してみた。


 これはダメなやつです!?


 びっしりと生えた鋭い牙の形状が『ぼく肉食系です!! 』と、全力で言っている。もちろん言葉は喋らないけど。


「まあ、ご主人、危険かどうかは分かりませんが、良い顔つきしてるじゃない、ですかぁ。これは立派な戦力、でしょう!」


「いや、戦力とかどうでもいいよ!? 襲われたら、ひとたまりもないぞ」


「産みの親を襲うはずない、ですぅ。ほれほれぇ、こっちにおい、でよぉ」


 俺たちは絶対に産みの親でも、育ての親ではない。動物実験の産物だぞ!! どう見てもあの目は獲物を見つめる視線だろう……ん? 気のせいか…


 楓はベッキーより床に降りて片手を前に友好を図ろうとしている。相手は警戒のうなり声を発しながら、姿勢を低く楓を見つめている。

 対する楓は全くの無警戒で、むしろ微笑んでいる。まるで仔犬でも相手にしているようだが、楓の二倍以上の大きさがある。


「……気をつけろよ、楓」


「ご主人さまぁ!? 楓を心配してくれるん、ですかぁ!!?」


 俺の声に反応した楓は目前の"ヴェロエミュー"から、視線を外して振り返る。ちなみに、ヴェロエミューは、ヴェロキラプトル・モンゴリエンシスとエミューを()した名前を考えた。毎回こんな長い名前を書いていると、投稿文書量が増えすぎる。そんな事情で短縮しました。


 話がそれました、こちらを向いて目を"きらきら"させている楓は背後の警戒がゼロだった。そんな機会(チャンス)を見逃すヴェロエミューではなく。信じられない速度で飛びかかり、その大きな口で楓の頭部に噛みついた。

 楓の頭部は大きなヴェロエミューの口腔内に収まって、首から上は完全に見えなくなった。


「うげぇ、かっ楓!?」


「うもぅぐぅぅ、で…」


 こりゃもうダメだ、どうするか?

 だが、ヴェロエミューは楓を噛み千切ることが出来ないようで、ガリガリと口を動かしている。とりあえず、ひと安心かな?


 この状態なら、こっちに襲いかかることは出来ないだろう。


 その時、楓は両手を前に出してハンドサインを始めた。器用に指を、腕を動かし、また足まで使いながら意思を、最後の言葉を俺に伝えようとしている。


 なになに? 俺は同時通訳に挑戦した。


『これは取れません無理です。このまま逃げて下さい。楓の事には構わないで下さい』


 こんな感じかな? 声に出して話すと、俺に解釈伝わったのが嬉しいのか両手の平をこちらに向けて、腕をせいいっぱい伸ばし左右に激しく振っている!


 これは、きっと"バイバイ"だな!! 


 足まで激しく使っている。なんだよ、スカートがめくれちゃうぞ。別にどうでもいいけど。


「よし、ベッキーさあ行こうか、帰ろう」


 ベッキーとは、今まで意思疏通が出来なかったが、今この瞬間"しっかりと"心が繋がった。背に俺を乗せたまま力強い足取りで出口に向かってくれた。


 研究室を出て廊下を進む、振り返ると楓が必死にヴェロエミューの頭部を両手で掴んでいるのが見えたが、ベッキーはかなり早足で進んでいて、すぐに見えなくなった。


「ベッキー次の角を曲がれば外に出られるぞ、後少しだ」


 ベッキーは理解したのか首を回して俺を見つめた。そのとき、急にベッキーの目が一段と大きく開いた。そして、1度痙攣をして正面を向いて走る速度を上げた。なんだ!? そこで俺もおそるおそる背後を振り返った。


「むごをぉぉぉ、でしぅぅぅ!?」


 廊下を疾走する楓が、凄い速度で近づいて来る!!!???


 頭部にはヴェロエミューが食い付いたままだった。その頑丈そうな脚部で踏ん張っているのだが、楓の力に対処できず廊下に傷痕を長々と残している。

 楓は両手、両足を陸上選手のような華麗なフォームで走る……その姿は被り物をしているようで気持ちが悪い。


「ベッキーぃぃぃ!?」


 俺は全力で叫ぶ!! ベッキーは持てる最大の速度を持って逃げ出すも、所詮しょせん牛の走りだった。俺は振り返ったままで、化け物どもが近づくのを見つめ続けた。


 距離はもう数メートルも無かった……


 衝突はかなりの衝撃でかつ重量があった。一人と一台、二匹はそのまま、団子状になった。


 壁が目前に迫り俺は慌てて手を突き出す。すると、壁はぶつかる直前に青白く光り消失した。そして、ひとまとまりになったままで、俺たちは草の地面に転がった。

 俺は衝撃でベッキーの背から放り出された。青臭い草の匂いを満喫しながら滑る。


「ベッキー!? 大丈夫か!…」


 起き上がりまずは、ここまで運んでくれたベッキーに駆け寄った。

 うずくまるベッキーは、両足を格納して首も納めると普通のソファーに早変わりだ。ピクリとも動かなくなった。この瞬間、俺は必死にソファーに話しかける男となった。


「とりあえず、平気そうだな……そうだ、楓は?」


 先を見ると、少し下った斜面で、ヴェロエミューと楓の格闘が行われていた。頭部に食い付かれたままの状態で、両手を使い顎をつかんで胴体に蹴りを入れている。醜い争いだな。


 目の前でワニに襲われた人がいた場合、俺はきっと眺めるしか出来ないだろう。猛獣の戦いに入り込む余地はない。


 しかし、何が戦力だよ。めちゃくちゃ襲われているじゃないか。あの楓が噛みつかれたままで外せないのも驚きだが、蹴りを胴体に喰らって、ヴェロエミューが弾けないのもおかしい?

 なにしろ、楓の蹴りひとつで、コンクリートでもバラバラにしたことがある。


 そうすると……一つの仮説が脳裏に浮かんだ。

楓太古とのふれあい(その四)をお読みくださり誠にありがとうございます。

今回の内容はいかがだったでしょうか?


さて、今回は恐竜がついに復活しました。

ヴェロキラプトルは、有名な映画ジェラシック・パークに登場する、小型の肉食恐竜です。


じつは、発見された化石の大きさは、ちょっと大きな犬さんぐらいですが、物語上少し誇張して数倍の大きさになっています。そして、アジアで発見された化石なので、日本の本州付近まで来ていたかもしれません。(当時は、ほとんどが海の底ですけどね)


そして、全身を覆う羽毛は想像です。

近年、羽毛の痕跡のある恐竜化石が発見されているそうですが、ごくごく一部で、全部がそうだったかを知る方法は、本当に恐竜の遺伝子解析をして、復活させないとわかりませんね。


ただ、骨格や進化過程を見て鳥の先祖であったことは分かってきたそうです。

そう考えると、我々のイメージは大きく変わり、本文にあるような極彩色の恐竜がいてもおかしくないかと思えます。いたらいいな、そんな感じで書いてみました。


次回は楓太古とのふれあい最終回となる予定です。

投稿は週末となりそうです。

多くの方に見ていただけて前回は過去最高のPVを記録しました。

深く御礼申し上げます。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

菅康

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ