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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第弐章 閑話 楓太古とのふれあい
33/115

楓太古とのふれあい(その三)

うれしいなぁ、です。

楓の自信作のお部屋にご主人をご招待、ですよぉ。


喜んでくれる、ですかねぇ?

 **

  楓太古とのふれあい(その三)

  032


 ソファー牛改め、ベッキーの背に揺られて俺がたどり着いたのは、山荘の部屋からかけ離れた最先端の研究施設といった感じの場所だった。


「なんだか、すごく本格的な部屋だな」


「ハイ、ですぅ。頑張って作った、ですよぉ」


 室内は色々な薬品が入った瓶がならんでいる。そして奥にはガラスで出来た自動ドアもある。さまざまなモニターが設置されていて、画面は数字や、アルファベットが表示されている。

 俺は、楓が抱えている石に目を向けた。


「で、その石ころはどうするんだ? 時間でも巻き戻すのか?」


「何なん、ですかぁ。その時間を巻き戻すとは、ですぅ?」


「だから、石ころの時間を過去に巻き戻すんじゃないのか?」


 俺の質問が伝わると、楓は口角を引き上げてムカつく笑顔でこちらを見て発言をした。


「なんですか? その非科学的お話しは、ですぅ。うぷぷぅ。時間を巻き戻すなんて、出来る訳がない、ですよぉ」


 未来から来たお前が言うなよ……なんか恥ずかしくなってきた。


「悪かったな! じゃあどうするんだよ? 復活させるんだろ、それを……」


 俺は楓の抱きかかえる石ころを指さした。すると、楓は両手で頭上に持ち上げて、こちらを向き答えた。


「まさか、ご主人はこれがそのまま復活できるとでも思ったの、ですかぁ? さすがに魔科学でも化石を元に戻すことは出来ない、ですよぉ。時の流れは基本的に一方向、ですからぁ。手段は遺伝子いでんしの取り出しと復元ふくげん、ですかねぇ」


「遺伝子?」


「ハイ、ですぅ。遺伝子は誰でも持つ共通の設計図のようなもの、ですよぉ。バクテリアから、シロナガスクジラさんも、みな細胞内に持つの、ですぅ。」


「ふ…ふぅーん、知ってるよ」


 そのぐらい学校の授業で聞いた事がある、だが復元とは、どういう事なのだろうか?


「ふふふぅ、ですよぉ。その遺伝子の再現ができれば、卵ちゃんが何なのかは、そのうち分かるの、ですよぉ」


 化石から遺伝子の再現が出来るなら、恐竜が復活しているだろう。そんな事が出来たという話は聞いた事がない。


「で、どうするんだよ……」


「生物の遺伝情報は魔科学を使えば再現が出来ます、ですよぉ。そのためにまず、卵ちゃんを、”こいつ”にぶち込むの、ですぅ!!」


 楓は胸元のボタンを二つほど開けて、ガサゴソとまさぐった。ちなみにノーブラのようだった。谷間がはっきりと見えた。どうでもいいけど…


 そして、取り出した片手ハンマーで卵化石を粉砕し始めた。躊躇ちゅうちょなく、そして笑いながら破壊している姿は美少女造形と相まって、俺の背筋を凍らせた。


「うけけぇぇ、ですぅ。こつ化石かせきが出てきましたぁ、ですよぉ。ほうらぁご主人やっぱり恐竜さんの化石だったじゃない、ですかぁ」


 こいつが怖い。俺の感想はそれだけだ……

 尾てい骨だ、肋骨だの言いながらはしゃぐ姿はとてもヒロインではない。こんなの俺は絶対に認めない。


「ふうぅ、です。大体だいたいいい感じになりましたねぇ、ですぅ」


 楓は汗など一滴ひとしずくもかいていないのに、袖口で(ひたい)を拭うフリをした。


 そして隣にある怪しげな鍋? のような容器・・に”砕いた元卵ちゃん”を入れた。蓋をして軽くノックをすると、空中にディスプレイが現れた。叩くのが起動って、いったいどんな機械だよ? 昔のテレビか?

 青く発行するディスプレイには、アルファベットのA・G・C・Tの四文字が高速で上から下にスクロールしている。


「なんだそれ?」


「魔科学DNAシーケンサーですよぉ。これで遺伝子配列を読み取るの、ですぅ。化石化をした段階で、通常バラバラに破壊している遺伝子、ですがぁ。魔波動は残るの、ですよぅ。これはどんな生物でも、鉱物も含めて必ず起こる現象、です。微細に出続けるの、ですよぉ」


「……」


 ご免なさい、理解の範疇はんちゅうを超えました。何を言っているのか、全くわかりません。


「なぜ、ご主人はだんまりなさっているの、ですかぁ? まあいい、ですぅ。魔波動は遺伝子の活動が大きく影響する、ですぅ。残っている波動の分析を行えば、再現することも可能なの、ですぅ。」


「それなら、別に粉々にする必要がなかったんじゃ…」


「機械に入らない、ですからぁ」


 嘘をつけ!! どう見ても楽しそうにしていただろう。

 機械の大きさは中華料理の寸胴ずんどうなべぐらいある。化石が元の形のままで入れてもお釣がくる。そのとき、機械から電子音が聞こえてディスプレイが赤く光った。ERRORと表示されているのが見える。


 どうせ出来なかったんだろう。そんな事だと思った。


「なんで、ですかぁ?」


「残念だったな、本当に恐竜なのかもな? 骨の化石も入っていたみたいだし。もうそろそろ帰っていいかな」


「嫌ぁ、ですよぅ。ちょっと待ってくださいご主人、です。今すぐに復元しますからぁ、ですよぅ」


「もういいよ、十分に満喫したから」


 楓は聞いていないようだった。

 慌てて周りのキャビネットを開けて、色々な機材を追加設置して、薬品みたいなものを寸動鍋にぶち込みだした。


 おいおい、また、むちゃくちゃを始めやがった。こうなって良かったためしがない。嫌な予感が俺の脳裏をよぎった。


「おい、もう諦めろよ」


「ご主人、もうちょっと待っててくださいね、ですぅ」


 もうだめだ、だが逃げようにもベッキーの拘束があって付き合わざるをえない。俺はベッキーに暴力を振るえない。膝の上には頭が乗っている、すっかり懐いてしまった。このかわいいやつめぇ。


「こうなれば直接、ですよぉ」


 楓はディスプレイの前に立ち直接手動でいじり始めた。たちどころに複数のウインドウが立ち上がり両手を使って色々な作業を同時進行で行う。

 なんだか優秀な機械のような気がしてくるのが不思議だ。俺にはとてもこんな作業は出来ない、自分にできない事が出来るのは素直に凄いと思う。なあベッキー。


「ここが足りない、ですぅ。モウドクフキヤガエル遺伝配列で代用して……よっしゃービンゴォ、ですよぉ。ここも、うがあぁ、ですぅ」


「おいおい、危険な発言が聞こえるが大丈夫なのか?」


 だめだ、こいつ作業に集中して俺の話が聞こえていない。

 避難のためにベッキーを別室に誘導しようとするが、分かってもらえない。ただつぶらな瞳でこちらを見つて、頬ずりしてくるだけだった。


「ふう、出来たっす、ですよぉ。ほぼ再現が終わりましたぁ、です」


「…良かったな、これで終わりだな、じゃあ、もう俺は帰ろうかな」


「何いってるん、ですかぁ! これからじゃない、ですか。そもそも、遺伝情報の再現だけだと、どんな動物さんだったか分からないじゃないですか、ですぅ」


「いや、お前の凄さは理解した、もう沢山だ!」


「うふふぅ、ですよぉ。ご主人遠慮しないくてもいいん、ですよぉ。本当は見たいん、ですよねぇ」


 楓はスキップをして、奥の扉から何処かに行ってしまった。

 怪しげな研究室にベッキーと俺は取り残されてしまった。静かになると、そこら中から電子音に紛れて、カサカサ、ずるずると変な音がしてくる。大丈夫なのか? 俺は生きて帰れるのだろうか…


「お待たせいたしましたよぉ、ですぅ。」


 楓は大きなダチョウを連れて帰ってきた……


「なんだそのダチョウは?」


「ダチョウじゃない、です。これはエミュー、ですよぉ。ヒクイドリ目エミュー科の鳥類、ですぅ」


 知らんよそんなの……ベッキーが震えている、怯えているぞ。


「それで、なんでそんなの連れてきたんだ、ここは動物ランドか?」


「遺伝的に大型鳥類は恐竜に非常に近い親戚、ですよぉ。遺伝情報を組み替えるのに最適なん、ですぅ」


 ん? 組み替えると言ったぞ……嫌な予感が沸き上がる。


「おい……お前はそのエミューに何をするつもりだ?」


「先ほどの再現遺伝子をレトロウイルスに組み込んで注入します、ですよぉ。そしてエミューの遺伝情報を完全に書き換えて、幻の生命体を作り出すの、ですぅ」


「さらっと危険な発言をするのは止めろよ!? なんだ、お前はバイオハザードを起こすつもりか?」


「そんな、ちょっとした好奇心、ですよぉ。うふふぅ」


 だめだ、完全に壊れている。

 エミューさんは危険を察知したのか、先ほどから奇声を発しながら大暴れし始めた。だが、楓は全く動じずに首根っこを掴んで離さない。どんだけ握力があるんだ?


 そのまま、引きずってDNAシーケンサーの横にある機械を開けると、出てきたのは30㎝はある注射器だった……


「おい…それは、何なんだ…その注射器は…」


 注射器内部には、緑色の液体が詰まっていた。光り輝く液体は、まるで生き物のように蠢いている。


「これっすかぁ、です。これは先ほど解析した遺伝情報を組み込んだレトロウイルス、ですよぉ。魔波動を持つ特別製で、なんと通常のウイルスの数倍の速度で活動します、ですぅ。細胞の分裂を爆発的にハッスルさせる波動も放つの、ですよぉ」


「もしかして…それを……そのエミューさんに注入しようとしているのか?」


「もしかしなくても、です。それ以外に連れてきた意味がないじゃない、ですかぁ」


 悪魔じゃ、デビル楓がいます。

 何て事をしようとしているんだこいつは、おのれの好奇心で動物に取り返しのつかない虐待行為を働こうとしている。俺は聞かない方が絶対に幸せな質問をしたようだ。


「じゃあ、さくっと逝きましょう、です。間違えたっす! いきましょう、です。てへっ」


「いぃ!? …やめろぉ、楓ぇぇ!?」


「ぷすっとなっす、です!! うぬぅぅ」


 楓はエミューの頸筋に注射針を突き刺した。そのまま、全力でシリンダーの薬液を注入した。頸がだんだんと膨らんでゆき、エミューは白目を剥いて力なく首を垂れさせた。太くしっかりとした脚は携帯電話のバイブレーションを超えた痙攣を起こしている。


「中身はこれで無くなった、です。すぐに内部細胞の転換が始まる、ですよぉ。ここじゃちょっと狭い、ですねぇ。ご主人お外に行きましょう、ですぅ」


「い……嫌だぁ!! 帰らせてくれぇ!? もういい、頼むから」


 すると、楓はエミューを放り投げた。哀れな鳥は”ゴロゴロ”と床を転がり壁にぶつかって止まった。


 そして楓はベッキーの上によじ登り、俺の横に立った。座ったままの俺の頭部を両腕で、そっと抱きしめてきた。


「これも、ご主人の為なん、ですよぉ。これが成功すればきっと大きな力になるの、です。太古・・の戦力を得られるチャンスなん、ですよぉ」


 ごめんなさい、楓の言っている意味が本当に分かりません。

 どう考えても、自分の興味のおもくままに行動しているとしか……だが、楓に包まれて、優しいぬくもりと、ほのかなシャンプーの匂いに何故か安心させられた。


 そのとき、壁側より不気味な音が聞こえてきた……

楓太古とのふれあい(その三)をお読みくださり誠にありがとうございます。

今回の内容はいかがだったでしょうか?


さて、今回のお話では数点のあまり聞きなれない単語を使わせていただきました。

一つ目は”DNAシーケンサー”です。

DNAの塩基配列を自動的に読み取るための装置です。

これだけじゃわかりませんね。

テレビなどで遺伝子のお話があると必ず、二重らせん構造の図が出ます。

これがDNA(デオキシリボ核酸)です、この真ん中にアルファベット大文字でAGCTの四文字がいっぱい並んでいるのをご存知ですか?

これはDNAを構成する塩基が A=アデニン G=グアニン C=シトシン T=チミンの四種類を示しています。この配列が生物の固有の情報となります。生物ごとに違い、個別にも同一の物は存在しません。(同一種で細胞分裂して増えるクラゲは除きます)

この四種類の配列を読み取るのが、上記の機械なのです。


それと、楓がレトロウイルスを使ってエミューの細胞を太古の遺伝子に組み替えます。

ウイルスは遺伝子とそれを包む膜で出来ています。遺伝子の運び屋さんとして、もともとの病原性遺伝子を取り除いて、目的の遺伝子を組み込んで体内に送り込みます。

これが、”ウイルスベクターシステム”で遺伝子治療分野でも広く汎用されています。

本作の解説としていかがでしょうか?


最後に本文に”遺伝子”と書いてる部分は、実は”ゲノム”の事なん、ですねぇ。

遺伝子=生物の設計図になる遺伝情報(部分パーツ)、ですぅ。全体の意味では、本来はないの、です。


新聞でも、テレビでも遺伝子=DNAとなっていて、あまりゲノムと表記はされないの、ですぅ。

なじみが薄いので、本作は通称で書いてあります、ですよぅ。


本文の違いに気づかれた方はすごい、ですよぉ。

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