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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第弐章 閑話 楓太古とのふれあい
32/115

楓太古とのふれあい(その弐)

早く急いで着替えて帰りましょう、です。

ご主人を喜ばせてあげられるかなぁ、ですぅ。

きっと、強い兵隊になって突撃してくれる、ですよぉ。うふふぅ、ですぅ。

 **

 楓太古とのふれあい(その弐)

 032


 スイス山荘までの道を歩く。

 日本は午後だったがこちらは早朝だ。朝日が登りアルプス山脈を赤く照らしている。


 楓の忘れていった"石ころ"の大きさはサッカーボール程だが、けっこう重量があった。丸々とした形が掴みにくいので、抱き抱えるようにして持って歩く。


 なんだろうこれは? なんとなくだが生き物の気配がするような気がする。触った感覚は、もちろん冷たい、そして、少しツルツルした石だ。


「表面のヒビは、本当に卵みたいだな…」


 景色を眺めつつ、山荘まで歩く。正面の入り口は掌紋で開けられた。内部は前に来た時と変化がなかった。壁の剥製はくせいも同じで、ウインクをされてしまった。鼻息荒く、裏壁ドンをするのも同じだった。


「おおーい楓ぇ、何処だ!」


「はい、ですぅ。ご主人どうされたの、ですかぁ。ついに楓が待ちきれなくなったの、ですねぇ」


「いや違う! お前の忘れ物と、室内の換気のために一時避難してきたんだ」


「うぅっ、ですか……忘れ物、ですかぁ?」


「この"石ころ"忘れていっただろう、部屋に置いてあったぞ」


「忘れていった訳じゃない、ですぅ。置いておいたの、ですぅ。すぐに着替えて戻るつもりだったの、ですよぉ」


「こんなの置いていくなよ、それに今、俺の部屋はとても居られる状況じゃない、臭すぎる」


「何で、ですかねぇ? 不思議、ですよぉ」


「原因はすべてお前だよ!!」


 びくっと首をすぼめて、両手で頭を抱えた。暴力をすると思うなよ、楓をぶん殴ると俺のこぶしさんのほうが、やばいです。


「それでぇ、です。ご主人さまどうしましょうか、ですよぉ?」


「なんだ、どうするって、どういうことなんだ?」


「いやぁ決まってるじゃない、ですかぁ。この卵、ですよぉ。ほらぁ"もごもご"と言ってるじゃない、ですか」


 はぁ? 意味が分からんぞ。こんな石ころが、なにか言うわけがないだろう。怪訝な顔をしていると楓は話を続ける。


「信じてないよう、ですねぇ。いい、ですよぉ。ならばぁ本当に卵だと証明すればいいん、ですよねぇ」


「証明ってなんだよ? どこかの化石研究の施設にでも持ち込むのか?」


「そんな面倒な事しなくても平気、ですよぉ。復活させれば良いん、ですぅ」


「復活って、そんな事できるのか?」


「未来魔家電の実力ならお茶のこサイサイ、ですよぉ。魔科学研究所にご主人を招待する、です」


「魔科学研究所? なんだその怪しい響きは、危険は無いんだろうな?」


「危険? ですかぁ―」


 おいっ!? 首を傾げるなよ!? 本当に大丈夫なのだろうか? そもそも化石の復活なんかジェラシッ○パークじゃないんだから出来る訳ないだろう。


「まあ、頑張ってくれ。俺はここでくつろいでいるから、終わったら教えてくれ」


「ご主人も一緒じゃないと嫌ぁ、ですぅ」


 何でいつも面倒に巻き込んでくるんだ。リビングでゆっくりさせてくれないかな。


「早く行きましょうよ、です。卵ちゃんも早くと言ってる気がする、ですよぉ」


「絶対に言ってないだろう! お前が行きたいだけだろう。俺は疲れたんだ、誰かさんが部屋と廊下をヘドロまみれにしてくれたおかげでな」


「なんですと!? どこのドイツ、ですかぁ」


「EUの国家じゃねーよ!? お前だよ! 楓さんあなたです。お前が俺のジャージで川底をあさってくれたおかげで、俺の部屋がどろどろのぐちゃぐちゃになったんですよ。そして、その掃除をしたのは誰ですか?」


「あぁっ、ですぅ!?」


 口に手を当て、驚きの表情をしている楓に対して俺は言葉を失った。こいつは今初めて自覚をしたご様子だ。上目づかいでこちらを伺っている。


「ごめんさない、ですぅ。謝りましたからもうよい、ですよねぇ」


「世間一般論では、それは謝った内に入らないからな。後で俺の部屋をもう一度念入りに掃除しろよ」


 怒りの感情はこの姿を見て消えた。代わりに生まれたのは諦めの境地だ。どうせ言っても無駄だろう。


 ソファーに座ってのんびりと窓からの景色を眺めた。適当に時間をつぶして、1、2時間したら帰ろう。きっとその頃には室内の換気も終わっているだろう。


「なんだよ、ぼーっと突っ立って、さっさと研究所とやらに行けよ」


「ううっ、ですぅ。嫌ぁ、ですよぉ。ご主人が一緒がいいん、ですぅ。こうなれば実力行使を致します、ですよぉ」


 座っていたソファーが急に盛り上がり、俺の体を固定した!?

 なんだこれは? ただのソファーじゃないぞ。なんだか暖かく、呼吸をするかのように動いていると思ったが。まさか生きてるのか!?


「ソファーぎゅうくん、ご主人をご案内するの、ですよぉ」


「なんだとぉ!?」


 それは牛だった。俺は毛の長い牛の背中に座っていた。

 構造が見た目、触り心地にいたるまで完全にソファーだった。下から牛の脚部が出て、ついで頭部が起き上がった。

 

 つぶらな瞳でこっちを見るなぁ。ぶん殴れないじゃないか。


「地下の研究所(ラボ)にご案内するの、ですよぉ」


「止めろぉ!? 離せぇ! 楓ぇ、なんだこれは生き物なのか?」


「はい、ですよぉ。ソファー牛くん、ですよぉ。楓が作ったん、ですぅ」


「はあ? 作っただと…?」


「産まれたての子牛ちゃんをソファーの型に入れて、成長ごとに合わせて大きさを替えると……」


「止めろぉ、聞きたくないぞ!! お前、何てことしやがるんだ、この悪魔が!?」


 牛ちゃんの瞳に涙が光る、あぁ、なんだろうこの気持ちは。思わず頭を撫でてあげると擦り寄ってきた。


「やめろよ、舐めないでくれよ。こいつぅ」


「無事に交流も果たせたご様子、です。ちゃっちゃと行きましょう、ですぅ」


 楓は山荘の奥に向けて歩き出した。ソファー牛もその後に続く。俺は強制的に連行されて行く。


 ソファー牛ではあまりに可哀想だ。ベージュの毛並でふと思いついた。こいつは、ベッキーと名前を付ける事にしよう。


「お前の名前は今日からベッキーと呼ぶからな。問題を起こさない良い子でいてくれよ」


 ソファー牛、改め”ベッキー”は名前が気に入ったのか、俺に顔を擦り付けてくる。強く生きろよ、俺はお前を食べたりしないからな。安心しろよ。ベロベロ舐めるなよ、びしゃびしゃになるだろうが。


「なあ、楓さんや、その石ころから生命が誕生する訳ないだろう? 冷静に考えろよ、何年前の卵だと思ってるんだ」


「うーん、なんとも言えない、ですぅ。おそらくですけど8000万年ほど前の物でしょう、です」


「分かるのか?」


「正確に把握するには、放射線測定や浮遊性ふゆうせい有孔虫ゆうこうちゅうなどの測定方法があるの、ですがぁ。面倒なので楓の(かん)、ですよぉ」


「勘か……」


 だめだこいつ、所詮はポンコツか……

 石ころの喜劇に付き合うのもバカバカしいが、ベッキーの背に揺られる俺に最早(もはや)回避は不可能だ。あきらめよう……なあベッキー。でも、返事は無いけどね。


 こうして、俺は山荘内部の研究室とやらに連行された。

楓太古のふれあい(その弐)をお読みくださりありがとうございます。


本文の中で、化石の年代測定について放射線や浮遊性有孔虫(ふゆうせいゆうこうちゅう)について書きました。それについて、すこし書かせて頂きます。

放射線の年代測定はご存知だと思いますので、詳しくは省きますが、ただ放射線の年代測定法これは、実は6万年より前の年代は計れません(放射性炭素14法)。

放射性の同位体の年代測定が使われるのは、古代の遺跡とかにしか使えないんです。恐竜の年代測定は1億5000万年から6500万年前と桁が違います。

それで、一緒に見つかる化石から年代の特定を行います。これを示準化石(しじゅんかせき)と呼びます。代表される微化石(びかせき)は数多くありますが、その中で浮遊性有孔虫は大きさが一ミリから数センチまで数多くあり、また生活形式が浅い海から、深い海の底、川など幅広く。また、気温、水温、年代で形が違います。

化石の地層で一緒に見つかると、その形で当時の気候環境が分かり、種類で年代の特定まで出来るのです。現在も至るところにいますので、我々が化石となった場合にも指標とされるかもしれませんね。昔読んだ本の知識とネットで調べ直して書いてます。雑学としていかがでしょうか?


本文で違和感を覚えた人は凄いです‼

いひひ、ですぅ。

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