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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第弐章 閑話 楓太古とのふれあい
31/115

楓太古とのふれあい(その壱)

ついに、楓の新しい冒険が始まるっす、ですぅ。

ご主人の帰りを待つために家に向かう”けなげな”女性…くぅぅたまらんっす、ですぅ。

サクサクと家路を急ぐ楓に、聞こえてくるのは、かすかな声…


「何でしょう、です?」


草むらをかき分けて、そのまま進む楓の見つけたものとは…

かえで太古たいことのふれあいたん” が、始まります。

 **

 楓太古とのふれあい(その壱)

 031


 部屋に入ると、泥だらけの(かえで)が室内にうずくまっていた。泥だらけは比喩でない。畳には黒い線が何本も走り、それをたどると窓から続いていることが分かる。

 二階の窓から侵入しやがったな。鍵は掛けていたはずだが…


「なあ、楓さんやぁ、あなたは何でそんなに汚れていらっしゃるんですか?」


「ああっご主人、です。おかえりなさいっす、ですよぉ」


 答えろや!?


 ** <過去の回想>

 これが未来の自分から送られてきた白物(しろもの)魔家電(まかでん)、アンドロイドの(かえで)だ。見た目は小柄な美少女の造形(・・)をしている。


 ちなみに俺は、千丈(せんじょう)(いん)、高校2年生男子だ。

 魔家電は未来の生活必需品らしい。いわゆる洗濯機や、炊飯器等と同じような白物家電のようだ。


 ある夏休みの最終日深夜、部屋に現れた楓は未来の俺が書いた手紙を見せてきた。そこに経緯の全てが記載されていたが、現実離れしていて、いまいち信じられなかった。

 そんな俺に対し未来テクノロジー? と言うか不思議な能力を連発して、楓は窮地を救ってくれた。


 こいつの性格を一言で表すと"うざい"。そして、語尾に"です"をつけて喋るという、おかしな機械だ。


 手紙には、お茶目な妹メイドさんプログラムが、組み込まれていると書かれていたが、どこかで壊れたようだ。


 迷惑千万な存在で、いまだに居座り続けている。


 ** <回想おわり>



「俺の質問の意味は分かるかな、そのメモリーを分解して内部構造を解析してやろうか?」


「うふふぅ、ですぅ。そんなに楓の内面にご興味があるの、ですかぁ?」


 こちらを上目づかいで見上げる楓、もちろん口角を引き上げる"ムカつく笑顔"は忘れていない。このメモリー花畑のポンコツアンドロイドがぁ!?


「てんめぇ、ふざけんなよぉ!? 俺の部屋中が泥だらけじゃねーか!! ああっ! どうしてくれんるんだよ、なにしてくれてんだよ?」


「うえぇぇ、です。泥、ですかぁ? ああっ、これには浦賀(うらが)水道(すいどう)より深い理由がございましてぇ、ですぅ」


 東京湾と太平洋を繋ぐ船の街道、浦賀水道か? たしか平均水深は40メートルぐらいしかないじゃねーか!? いや、深いのか? うーん分からんぞ。判断に悩む例を持ち出しやがって…


「さっさと理由を言え」


「はい、ですぅ。実は近くの川原を歩いていると川の中から、何かが呼び掛けてきたの、ですよぉ」


 川の中からだと? それって未成年が水泳を強要されて起きた事件では…


「おい!? その()は大丈夫だったのか、救助したんだよな?」


()? ご主人何を言ってるの、ですかぁ?」


 ん? 人じゃないのか?


「それならいいけど……それと、お前は何を抱き抱えているんだ?」


 真っ黒になったジャージの両手に黒い塊が見えた。全身ずぶ濡れで畳に水が染み込んでいる。もちろん泥水だ。畳の差し替えが必要になるのだろうか? お袋に怒られるだろうな。嫌だなぁ。


「これから声がするっす、ですよぉ」


 そう言って、楓は真っ黒な塊をこちらに差し出した。

 ドロドロのそれは一体なんだろう? よくわからない。塊からはみずみずしい新鮮なヘドロが畳に垂れて新しい染みを作った。


「とりあえず、風呂でも入れよ。それに臭い…」


「うえぇ、臭いっすか、ですぅ?」


 楓は、自分の身体の匂いを嗅いで顔を強烈にしかめる。こんな表情もできるのだな。新たな発見だ。


 しかし、そのジャージはもうだめだな。元の色がもはや不明だ。グレーと黒の"まだら色ジャージ"などないだろう。

 そのジャージになんとなくだが見覚えがある気がする? 楓の体に全く合っていないし、袖も裾も捲っている……ん?


「そのジャージは俺のなのか!?」


「はい、ですぅ。お借りしている、ですよぉ。うふふぅっす」


 笑い事じゃねーよ!?


「お借りしたじゃねーだろ!? ああぁ! 俺の大事なジャージが……」


 楓は不思議そうに、こちらを首を傾げて伺っている。ただ、ジャージをダメにした自覚は無い事が分かる。


「ちょっと汚しましたがぁ、ですぅ。これを"ゲット"出来ましたぁ、です。すりすりっす」


「……」


 なにがちょっとだ!? それに、なにが"ゲット"だ。ポケ○ンじゃねーだろ。ただのドロドロの塊だろう? 頬擦りしている姿は異常としか思えない。


「いいから、さっさと風呂に入って、綺麗にしてこいよ。その間に、ここは掃除しておくから」


「はい、ですぅ」


 泥の塊を横に置くと湿った粘着質な音が聞こえた。

 楓はジャージのジッパーを開けて、ズボンも脱ぎ捨てた。真っ黒な……いや、元の色がわからない下着姿の楓が誕生した。


 実に堂々とした姿だ。小脇に黒い塊を抱えて階下のお風呂に向かい歩き出す。もはや何も言うことは無かった。俺は黙ってその背を見送った。

 一歩ごとに真っ黒い足跡が部屋に、廊下に刻まれる。くそっ掃除するのは俺なんだぞ……


 ビニール袋(大)を数枚と、バケツ、雑巾(ぞうきん)を準備して掃除を始める。悲しいかな、もはや雑巾以下と成り果て強烈な臭気を放つ存在となったジャージはビニール袋に詰めた……少しだけ涙が…今まで本当にありがとう、そしてごめんなぁ。


 生活家電が部屋を汚して、それを持ち主が掃除する。快適な生活を得るための存在が、より不便な生活を()いる物と化した。廃棄を決意する日は近いのか?


 窓枠から畳を丁寧に水拭き、乾拭きした。だが、悲しいかな強烈な臭いと黒ずんだ染みが残った。廊下はフローリングなので水拭きと窓を開ける換気でなんとかなった。風呂場からは陽気な鼻唄が聞こえてきて、ムカついた。


「いつまで入ってるんだよ。お前も手伝いやがれ!」


「なんすかぁ、ですぅ?」


 はいっ!? 浴室のドアがフルオープンしました。楓は一糸まとわぬ姿で登場だ。洗いたての髪からは水滴を(したた)らせ、湯気の立ち上る浴室より普通に出ていらっしゃいました。


「服を着ろよぉ!?」


「ご主人が脱衣場にいるんじゃない、ですかぁ。これでは、なにもできませんよぉ、ですぅ」


「くっ、居るのがわかってて出てきやがって…」


「なん、ですかぁ。よく聞こえない、ですよぉ。きゃあ、ですぅ」


 なぜ、言葉と裏腹に全く隠そうとしないのだろうか? 両手を後ろに回して脚を交差させるポーズを取った。こいつは…絶対に確信犯だ! 持ち家電になめられてたまるか!!


 とりあえず手近にあったバスタオルを投げつけた。


 風呂場でバケツの水を流し雑巾も一応洗ったが、再利用は不可能だ。強烈な臭いを放つボロキレとなった。やむ無くジャージと同じビニール袋に入れた。ついでに風呂場の床に脱ぎ捨てられていた楓の下着もぶち込んで、きつく縛る。


 後ろでは、タオルを胴体部分に巻き付けた楓が立っている。


「ご主人、準備万端、ですよぉ。これも、きれいきれい、ですよぅ」


 楓は風呂場で一緒に洗った”石ころ”を両手で掲げた。


「なんだそりゃ? ただの黒い石じゃないか…」


「石じゃない、ですよぉ。きっと卵の化石(・・)、ですよぉ」


 化石だと? そんなものがこの町の川にあるわけないだろう。今まで、そんなものが見つかった話など聞いた事は一度もない。

 まあ、引っ越してきてそれほど長く居るわけじゃないけど。ただ化石というのは、もっと有名な場所で見つかるものだろう?


「勘違いじゃないのか、ただの歪んだ丸い石にしか見えないけど?」


「そんなことないの、ですよぉ。ほら、ご主人も耳を近づけてください、ですよぉ」


「あぁ? 面倒だ!? どうでもいい。それよりさっさと服を着やがれ」


「本当なのに…ですぅ。それにこっちには楓のお洋服は無いの、ですよぉ」


 そういえばそうだった。楓の所持品は、ほとんどがスイスの山荘にある。なら、なぜこの風呂に来たのだろう? 俺の部屋から押し入れを通って山荘に向かえば、ここまでのヘドロ被害にならなかったはずだ。


「じゃあ、またな。バスタオルを返すのは明日でいいから、ちゃんと忘れずに持って来いよ」


「なんで、ですかぁ。山荘に一緒に行ってくださいよぉ、です」


 俺がなんで一緒に行かねばならんのだ。


「服を着替えたら、どうせここに来るんだろ?」


「そうですけど…寂しい、ですぅ。それにこんな"か弱い"女の子が独りで、しかもこんな格好で歩いて心細いじゃない、ですかぁ」


 か弱い? 心細い?

 どうも、理解の出来ない言葉で話しているようだ。

 サポートセンターが無いのは不便だな。


 俺は風呂場に掃除道具の片付けと、ファブ○ーズを取りに来たのだったな、あの強烈な臭いがこれで対処できるかは不明だが、あのCMを見る限りきっとなんとかなるような気がする。おかしな楓は無視をして歩き出した。


「ちょっとご主人なんで無視するん、ですか? 楓が何か悪いことでもしたの、ですかぁ」


 ちっ、追いかけて来やがった。


「心当たりがないならいいよ、じゃあな」


「ううぅ、すぐに戻る、ですよぉ」


 手を振り、楓をスイスの山荘に送り出す。

 部屋の消臭に全力を注ぐも畳や、壁に染み込んだ汚れに対して、ファブ○ーズでは戦力不足だったようだ。華やかな香りと、ヘドロの悪臭が混じりあって、よりカオスな香りが熟成された。


 そして、今回の状況を生み出した"石ころ"が、畳の上に置きっぱなしだ。楓のやつ忘れて行きやがって。


 座布団に座ると、悪臭により気分が悪くなってきた。


「うげぇ、たまんないなこりゃ。まるで下水溝の中でくつろいでいるようだ」


 仕方ない、嫌だが緊急避難の必要性を感じ、使い切るつもりで全力のファブ○ーズアタックを室内に行う、そして窓を全開にして押し入れに飛び込んだ。


 そのまま、スイスに移動した。ここは空気が澄んでいて爽やかだ。1面に咲き誇る小さな白い花からは、凄く良い香りがしてくる。


 俺は楓が忘れた"石ころ"を小脇に抱えて、山荘までの道を歩いた。

お読みいただいた方、まだこれからの方、ありがとうございます。菅康と申します。

初めにこれまでの経緯を少し入れましたので、ここから見ていただいても、なんとなく、分かるようにさせていただきました。これからも、白物魔家電楓かえでを、どうぞよろしくお願いいたします。

なお、これは、中間のお話で、お箸休めぐらいを考えております。

5回の投稿ぐらいで終わります。たぶん…

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