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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第壱章 白物魔家電との出会い
3/115

異次元への誘い

ご主人宛の旦那さまのお手紙をお渡しした、ですぅ。

真剣にお読みくださり楓は感激、ですよぉ。まだ、ご主人を喜ばせる秘密のプレゼントはこれから、ですよぉ。

精魂込めた楓のサプライズが炸裂する、でーす。

 **

 異次元への誘い

 003


 手紙を読み終えた今でも素直になんて受け入れられない。だが、どこからどう見ても俺の字が真実を物語っている。

 そもそも、見ず知らず人が(かえで)を俺に送りつけるメリットがあるとは考えられない。

 白物しろもの魔家電まかでんだって?

 たしか白物家電とは一般家庭で使われる冷蔵庫やエアコンなど、電化製品が白製品で製造出荷されることが多くあって一般名称として呼ばれるようになったと聞いたことがあるのを思い出した。


 目の前のメイド少女を見て、これがアンドロイドとは信じられない…

 ソフトバ○クのペッパー君との違いがありすぎだろう。

 じっと見つめていると目が合った。そして楓は口角を引き上げて卑屈に笑う“ムカつく”笑顔を始めた。


 初対面で、異性・ ・の笑顔にこんなに“ムカついた”経験はない。だが、俺の本能が大声で“ムカツク”と叫んでいる。

 ああ、そもそも異性・ ・ではないか…

 機械に性別などないだろう。見た目がそう出来ているだけだ。


「なあ聞くけど、この手紙ってなんだ?」


「旦那様に、ご購入いただいた際に添付してもらった、ですぅ。追加指示オプションで笑顔を設定して貰いました、ですよぉ」


 なるほど、この余計な設定はオプションなのか。

 ちっ、余計なことを……それと、もう一つ確認するか。


「なあ、毎回会話の後に"です"を付けるの止めないか?」


「ですぅ? なんのこと、ですかぁ?」


「それだよ、それ!! 絶対わざとやってるだろ」


 首をかしげて、”ムカツク”笑みをたたえていやがる。嫌がらせなのか? よくわからん。


「それよりもご主人様、楓は何をすればよろしいのでしょうか、です?」


「知らねーよ! それより、この部屋にはどうやって入った?」


 黙って部屋の奥を指差した。そこは引き戸で普段使わないものを入れている通称『押し入れ』と呼ばれる室内設備だった。

 あそこには予備の布団と段ボールに詰めたアルバムが入っているだけだが?


 当然、人の通れるような隙間なんてないけど……


「押し入れだと? ここが何だって言うんだよ」


 俺は押し入れを開けた。


「あれれぇ?」


 押入れの中はベニヤの床があって、その先は壁の筈だ。だが、壁のあるべき場所は暗闇くらやみだった。

 そこからは、涼しい風が蒸し暑い室内に吹き込んでくる。

 今は8月末、夏休みの最終日、日々の気温は過去最高記録を塗り替える猛暑が続いている。だが、押入れの中よりくる風は心地よい爽やかさがあった。


 じっと暗闇を見続ける。すると、ずっと先にうっすらと灯りが見えた。

 目を凝らして見続けると徐々に目が馴れてきてそれが何なのかわかった。


 丸太で出来たログハウスが見える……



 **


 襖を閉めた。そして、ゆっくりとした動作で楓を見た。

 いい笑顔でこちらを見ている……俺は息を大きく吸い込んだ


「おいっ貴様ぁ! 俺の予備の布団と、大事なおもいでが詰まったかけがえの無いアルバムを、どこにやりやがったぁ!?」


「想いでですか、ですぅ!?」


「この押し入れの中にあった物だよ!」


「それなら、あの山荘に収納しておきましたのでご安心下さい、ですぅ。あそこはスイスで木々を伐採してがんばって作りました 、です。周囲は切り立った断崖絶壁で1000ⅿ以上の高地なので誰も立ち入ることは出来ない、ですぅ。二人だけの秘密の場所、ですよぅ」


 楓は鼻息を荒くして真横にくっついてきくる……すごく良い香りが漂ってくる。

 だが、顔はあの口角を歪めた“ムカツク”笑顔だった。


「なぜスイスと俺の部屋が繋がっている。そして、あの山荘は一体何なんだ? 」


「空間を繋ぐのは結構大変だったん、ですよぉ。まあ、白物魔家電である楓にかかれば、あのくらいの作業は造成から建築含めて1年で終わります、ですぅ」


 1年だと? こいつは1年もかけてあんなものを俺の部屋と繋げてたのか……


 思い起こせば、今年の夏は扇風機を動かす必要がないぐらい涼しく過ごせている。

 そして、冬は凍えるほどの寒さで辛かった事を思い出した。そうか、全てが分かった、こいつの仕業だったのか…


「そうかぁ、俺の部屋とスイスを繋ぐか。なんて言っていいのか悩むな。俺の気持ちはとても一言ひとことでは言い表せないな」


「そんなぁ、楓は当然の事をしたまで、ですよぉ。うふふぅ」


 楓は上目使うわめづかいでこちらを見つめてきた。口許が見えないと、さほど“ムカつか”なかった。

 これは、新たな発見だ!


 よし、俺の気持ちを伝えよう。


「そうか、じゃあ塞げ。だが、その前に俺の荷物を回収してこい」


「へっ」


 驚くと“です”が付かないようだ。


「嫌ぁ、ですぅ。秘密の山荘をどれだけ妄想して作ったと思うの、ですかぁ。あの吹雪の夜に凍結しながらも基礎を造り、嵐の最中で雷に打たれながら外壁を組み立てました、です。ご主人との生活を想い続けて、ですよぉ。それに子供が6人でもお部屋割りで困らない9LDK以上なん、ですぅ。根性でボーリングもして温泉を引きました、ですよぉ」


 温泉か……それはいいな。それ聞くともったいない気がしてきたぞ。

 子供6人の発言は正直どうでも良いが、9LDKは広いなぁ、別荘としてはどうなんだろうか?


 だが、外国の土地で勝手にこんな物を作り、しかも入国手続きを無視した通路がある。

 間違いなく違法入国だ。問題になりそうな案件を放置する訳にいかない。


「そもそも、外国にあんな目立つ建物を作って、誰かに見つかって大騒ぎになるんじゃないのか?」


「ご心配ありません、ですぅ。周りの断崖は表層に正拳をくまなく打ち込んだのでかなり脆くなっているの、ですぅ。クライミングでの到達は不可能、ですよぉ。上空からも魔家電防壁を張り巡らして見えなくしてありますので安心、です。たとえ””で過ごしてもパパラッチされない、ですぅ。軌道上に入る軍事衛星も念のためにスペースデブリをよそおって破壊が済んでいるの、ですぅ」


「……」


 なんだ、この念入りな隠蔽いんぺいは。

 断崖を正拳で脆くした? 魔家電防壁を張り巡らす? それに軍事衛星を破壊しただと?


 これは、本格的にヤバイ……

 巻き込まれた感が凄まじくする。


 こんなの世界的な紛争の火種となってしまう。何とかしないとこちらに被害が及んでしまうぞ。俺は無関係だ。


「お願いしますご主人様ぁ、ですぅ。二人の秘密を守って下さい、ですよぉ」


「わかった、お前の熱意は充分に伝わった。取り合えず布団は良いから、想いでのアルバムを取ってこい、話はそれからだ」


「ありがとう、ですよぉ。すぐに取ってきます、ですぅ」


 押入れに飛び込み楓が山荘に向けて走り出した。

 肘から先の腕を外側に振り、脚をくねくねさせて走る『ぶりっ子スタイル』に心の底から、イラッとした。

 楓はすぐに暗闇にのまれて姿が見えなくなった。


「よし、行ったな」


 俺は襖を静かに閉めた。

 そして、踏ん張り棒を溝にはめ込む。これでスイス側から開ける事は出来なくなる。


「スイスで達者に過ごせよ。かえでというアンドロイドの事は覚えていてあげよう」


 そのまま部屋の片隅に畳んであった布団を敷いた。


「おっと、部屋の電気を忘れずに切っとかないとな」


 夏休みはもうすでに終わっている。

 高校2年生の俺にやるべき事など……特に無いなぁ。

 あいつのお陰で平穏な日常の大事さを充分に理解することが出来た。少々の想いでと、予備の布団で疫病神やくびょうがみを精算出来るなら安いもんだ。


 電気が消えた静かな自室。布団に入った俺は直ぐに夢の世界に旅立った。

 だが、その平穏は、想いでの詰まった段ボールを片手に抱えた楓が、部屋とスイスを繋ぐ襖の向こう側に戻るまでのつかの間の時間だけだった。

なお、最新投稿は、Twitterで投稿時期をお知らせして行きます、です。http://twitter.com/yasusuga9

ご意見、ご感想は"楓"が責任を持ってご主人に良いことだけお伝えするっす、ですよぅ。

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