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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第弐章 予備備品室の幽霊譚
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予備備品室の幽霊最終章(終演)

 また、なんか新しいのが出てきたっす、ですよぉ。あの雰囲気は、なんか危険な臭いがする、ですぅ。

 五条ごじょう二弦にげん先輩は旅立った…

 どこにいったのか? それは俺にはわからない。


 だが、五条先輩は満足して行ってしまった。

 最後の表情が忘れられない、忘れることなどできるはずはない……


 悲しみにくれる霧先先輩と俺に、体育館の2階キャットウォークより声がかかる。


 いったい誰なんだ?


 **

 予備備品室の幽霊最終章(終演)

 027


「かより、もういいでしょ?」


 それは、幼い舌たらずな声で話す。


 暗く見通せないが、キャットウォークの手すりの高さからして身長は高くなさそうだ。

 発言後、その人物は手すりをよじ登り、体育館床に飛び降りた。

 着地音をほとんどさせずに降り立ち、こちらに向かい歩いてくる。


「えぇ、ごくろうさま、ありがとう助かったわ…」


「いいよ、それが、僕とした約束・・だからにぃ」


 その人物は、小柄で野球帽をかぶっている。

 目深まぶかにかぶった帽子、薄暗いせいで表情は読み取れない。


「ところで、そちらが千丈さんですよね? 自己紹介をしないとね、僕は小尾盧岐こおろぎりんといいますにぃ、以後よろしくにぃ」


「はあ? 千丈蔭です、俺の事はご存知なのですか?」


「もちろん、有名人だからにぃ。それと、同学年だから敬語なんていらないにぃ」


 こんなの、同学年にいたかな?

 まあ自分のクラスをほとんど出ない俺としては、知らないのは当然だろう。

 正面に来て初めて顔つきが見えた。見た目は幼い顔つきをしていて、ショートカットの髪は帽子にほとんど隠れている。


 苗字の”小尾盧岐こおろぎ”も一度聞いたら忘れないだろう。


「じゃあ、そうさせてもらうよ、小尾盧岐だね。君はなぜここに?」


「僕はかよりに依頼されていたんだ、結界を張って外部の干渉を抑えていたんだにぃ。おかしいと思わなかったのかなぁ、あれだけ盛大に暴れていて、誰も駆けつけないなんてありえないだにぃ」


 そういわれれば、そうだな。


 旧校舎とはいえ、教室を一つ完全に破壊しつくして、おまけに体育館もかなり損傷させてしまった。

 普通に考えれば、かなりの数の人が飛んでくるだろう。

 いや、警察沙汰は間違いない。


 今でも物音一つしない、誰も訪れない状態が続いている。


「そうよ、凛には結界を張ってもらって、邪魔が入らないようにお願いしたの、結果は願った通りにならなかったけど、助かったわ、ありがとう。おかげでちゃんとお兄様にお別れが出来た」


「それは、よかったにぃ。身を削り、労を尽くした甲斐があったってもんだにぃ、ところでそろそろ限界になりそうだ、もちろん僕にも、もらえるんだよにぃ…」


 そういって、小尾盧岐は俺の方を向いた。


 こいつ目が、目付きがヤバイ。

 それは、飢えた肉食獣のようで、帽子のつばに隠れている双眸そうぼうらんらん々と輝く、獲物を見る目でこちらを凝視している。


「何を言っているんだ? …小尾盧岐さん」


「小尾盧岐でいいよ、僕も千丈と呼ぶからにぃ…」


 小尾盧岐は両手を左右に開いて、こちらににじり寄ってきた。


(かえで)ぇ」


「はい、ですぅ」


「小尾盧岐を止めてくれよ」


「うぇぇ、まだ働くっすかぁ、ですぅ」


 ちっ使えない(もの)だ。

 楓に構っている隙に、俺の背中全体に触れる感触があった。


「……!? ぎゃぁぁあぁ」


「うわぁたまんない、独り占めはだめだにぃ、かより」


「あんまりやり過ぎないで。それに千丈くんは疲れているから」


 霧先先輩のお言葉は(かばう)うのか、そうでないのか判別がつかない。それに霧先先輩の声は、イラついているように聞こえる。


 そして楓は拳を握りしめている。

 駄目だぞ、ぶん殴ってはいけない。

 同学年の生徒が一人赤い水溜まりになってしまう。


 慌てて手で楓の動きを抑えた。


「ふう、ごちそうさまでしたにぃ。じゃあ千丈、座って……って! 準備がいいね、もう座ってるにぃ」


「うぐぅ…」


 ごっそり抜かれて、立てないんだよ!?

 すると小尾盧岐は俺の背中に掌を当てた。


「…!?」


 背に感じる暖かな感覚に驚く。

 自分のムチャな行動で作った擦り傷の痛みが消えてゆく…


 ずきずきとしたものが抜けてゆく…


「もう平気だね、よくあんな無茶して、よくこの程度ですんだにぃ」


「小尾盧岐なんで? お前はいったい…」


「ああ、僕も魔女なのさ、かよりとは違った能力をもつにぃ。さて、次はそこのだ、えっとかえでちゃん、だっけ?。こっちに来てにぃ」


「……? なんなんですかぁ、です、楓は別にお前に助けられなくてもへっちゃら、ですぅ」


「まあ、よくそれでへいきだにぃ。ずいぶんと"ぼっきり"いってるじゃないかにぃ、直してやるからにぃ」


 楓はいぶかしそうにして、俺の方を向いた。

 そのまま左腕が折れたままなのは、さすがに支障をきたすだろう。

 自動的に修復されるのかわからないが、直してもらえるなら、なおしてもらったほうが俺的には助かる。


「楓、お願いしろよ、そのままでは問題があるだろう」


「うっ、です。時間をかければこの程度は、ですぅ……」


「はいはい、楓ちゃん折れた腕を出してにぃ」


 その場を動かない楓に、小尾盧岐が自ら動いて折れている左腕に触れた。すると、楓は表情をゆがませる。


「うぇぇ、ですぅ」


「楓ちゃん、もう少しだからがまんしてにぃ、こんなのやったことないから難しいだにぃよ」


 ずっとぶらぶらして痛々しかった楓の腕は、元の位置に固定された。いったい、これはどういう事なんだろう?

 そんな俺の疑問に霧先先輩は答えてくれる。


「凛はね、癒しの魔女なのよ…こういった傷や心を癒したりする能力を持つのよ」


 癒しの魔女? また新しいのが出てきたな。

 視通(みとお)す魔女に、(いや)しの魔女とは……

 どうなってんだ? どんどん深みにはまっている気がする。

 どうした? 先週までの日常はどこに行った?


 だが、悩んでもしょうがない、なるようになるだろう…


「はあ、なんとなく分かりました。小尾盧岐ありがとう」


「礼の言葉は別にいいだにぃ、これからも定期的に”力”を貰えればそれでいいだにぃ」


 やはり、代償は付くのか。

 ギブ&テイクは世の基本(ルール)だな。


「じゃあ、これで、僕の役目は終わりだにぃ、気をつけて帰るんだにぃよ」


「ええ、ありがとう凛、私たちも、もう帰るわね」


 小尾盧岐は背を向けて体育館の出口に向かい歩き出した。

 出口付近で、両手の平を合わせ打った。するとガラスが割れるような音が響き渡る。


 きっとこれで、結界とやらが解除されたのだろう。

 楓はじっと立ち去る小尾盧岐の背を見つめていた……


「それじゃ私たちも帰りましょう」


「はい、分かりました」


 霧先先輩の手には、大事そうに五条先輩の”自転車”で唯一(ゆいいつ)残ったサドルを抱きかかえている。


 もう二度と五条先輩に会うことはないだろうか?

 俺の生きているうちはきっと…


 死んだ後の事は知るすべがない。


 だが、俺はもう一度、五条二弦先輩に会うような予感がしている。

 根拠のない直感だが、時々この直感は当たる事もある…


 楓はまだ、小尾盧岐のいなくなった、出て行った体育館の入り口に目を向け続けていた。


「楓帰るぞ…」


「はい、です。二人のご新居にですよねぇ、ですぅ」


「いや、お前の帰る先は外国だろうが!?」


「? ですぅ」


 ふざけるなよ、今日は本当に疲れた。こいつは強制送還して、魔法の踏ん張り棒を使う必要がありそうだ。


 先に歩き出した霧先先輩、その後を俺が歩く。

 続いて楓がついてきた。


 怪我は小尾盧岐に癒してもらったが、破けた制服はそのままだ。

 どうしたもんかな? まあ、なってしまったものは仕方がない。

 人生諦めが肝心だ。素直に怒られよう。


 楓が体育館の扉をくぐり、俺は誰もいなくなった室内を振り返る。ちょうどそれに合わせて、ひとつだけ灯っていた水銀灯が光を喪う。


 真の闇に包まれた内部は何一つとして見えなくなった。

 ここでの全てが今、終わった。

**

いかがでしたでしょうか?

ここいらで第弐章『予備備品室の幽霊譚』本編は終わります。

次回"エピソードその後"を入れます。そちらもどうぞよろしくお願いいたします。


ご意見や、ご感想等、どんな些細な事でも入れて頂ければ、作成者としてこれほど嬉しいことはございません。

心よりお待ちしております。


最後にお読みいただきありがとうございます。

皆々様のお力でこのお話がここまでこれました事、深く御礼申し上げます。


菅康(すがやす)

**

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