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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第弐章 予備備品室の幽霊譚
24/115

予備備品室の幽霊最終章(その壱)

 ご主人の身をお守りするのは今。


 これから、どのようなことが起こっても…

 **

 予備備品室の幽霊最終章(その壱)

 024


 真っ暗な体育館に足を踏み入れた。


 照明は当然落ちている……

 だが、体育館上部の水銀灯が、ただ一灯だけ点灯している。


 スポットライトのように丸く、明るく、幻想的に照らしている。それはまるで舞台照明であった。


 照明の元に、ただ独り(たたずむ)む人影がいる。同じ学校の制服を着ている。数時間ぶりの再会。

 そう、五条(ごじょう)二弦(にげん)が、ひとりそこに立つ。


 彼は下を向いて動かない。


 そして姿、形は変わっていないように見えた。

 だけど、ひとつだけ、大きく変わったところがあった。


 それは、身に(まとう)う気配だ…

 威圧的(いあつてき)で、かつ重厚(じゅうこう)な、濃密な気配。


 俺には、はっきりと五条二弦の周りに渦を巻き、漂う気配を感じ取れる。正直に言えば手足が震えそうだ。


 それを抑えているのは、俺の後ろにいる存在が大きく影響している。


 同行(どうぎょう)四人(よにん)……いや、2人と1台だから違うな。

 忘れてくれ……そのぐらいに俺は心強く感じている。独りではとても立っていられる自信はない。


 いつまでも五条二弦先輩を待たせるわけにはいかない。


 待っているのかは、わからない。だが、こちらの動向に注意を払っている。


 下を向いているが、確実(・・)に、こちらが()えている…


 理由はわからない、だが俺に視線が突き刺さる。そう、今もここ、体育館に足を踏み入れた瞬間から…ずっとだ。



 **


「お待たせしました、五条先輩……」


「……」


「ずいぶん、身に(まと)う雰囲気が変わりましたね、お返事をしてもらわないと、まるで独り言を言ってるみたいですよ」


「……」


 変化は起きない。このまま近づいて始めるか?

 俺は声を潜めて、背後の楓に確認をとる。


(かえで)


「はい、ご主人…」


「そのまま、()けるか?」


(むずか)しいとお伝え致します。すでに、あれが持つ量は、楓の最大蓄積量を大きく上回ります、このままでは目的(・・)に達する事ができません。ご主人の魔波動を少しいただければ、粉砕(ふんさい)するのは可能ですが……」


 それじゃあ、意味がない。


「それは、絶対(・・)に、認められない。それ以外で方法はないのか」


「……楓の蓄積限界は決まっております。せめて、あれが、今の半分ほどになれば、なんとかなるかと考えます」


「半分……」


 どうするか、霧先先輩にお願いするか……いや、だめだ。

 あれの攻撃を受ければ、たとえ楓でもダメージを受けるだろう。


 生身の先輩が、相対(あいたい)してなんとか抜き取るのは難しいと言わざるをえない。逆に取られる可能性が高い。


 やはり、楓に『力』を与えて滅ぼすしかないのか……何のために、ここまできたのか…


「ご主人、よろしいでしょうか…」


「ん? どうした…」


 楓が耳元で(ささや)く。


「楓の蓄積容量は決まっていると、先ほど発言を致しましたが。それは、ご主人には当てはまりません。正直に(もう)しまして、あの程度(・・)のエネルギーは、ご主人の普段お持ちの魔波動より、(はる)かに(おと)ります」


「…なに?」




「ご主人が『引き寄せれば』よろしいかと。さあ、"深呼吸なさって、意識を集中して下さい"。この場所の魔波動は千丈(せんじょう)(いん)さまに必ず従うでしょう」




「……深呼吸?」


 楓の話に従い、俺は深呼吸を行う。深くする度に視界が変わっていった。


 体育館内部のエネルギーが、まるで蛍の群れのように輝き始める。そして、俺に向けて動き始めた。


 ひとつ光の粒が、俺の手の(こう)に触れた。次の瞬間、手の甲の内側に吸い込まれるように消えた。

 そして、(こう)にほんのりとした温かみが残った。これが『引き寄せる』と言うことか…


 近い光は集まるが、五条先輩の周りに漂う物は、そのままだ。


「これだけじゃだめだな」


「はい、共に()かせてくださいませ」


 楓の言うことは分かる。

 あれに、近づく必要がある。


 だが、俺にできるだろうか?


 楓には、"重量制御分の力"しか与えてはいない。近づけば、"取り込む"事ができる自信はある…


 五条先輩は、そのままじっとしていてくれるだろうか?



 思い悩むその隙を五条二弦先輩は見逃さない。

 目を離したつもりはなかったが…気がつくと正面に立っていた。


 そのとき、五条先輩の左腕に光が集まるのが見える。俺はとっさに左側に動く。


 先ほどまで、俺が立つ位置を暴力的な力が走り抜ける。五条先輩の腕は、体育館の木製床を破壊した。


「なっ!?」


「ご主人、次が来ます」


 目を凝らして五条先輩に注目する。今度は、五条先輩の左足に強い光を感じる。


 その脚の方向に向かって走る。寸前(すんぜん)で、また避ける。


 体の構造上、振り上げる腕や脚は、肩など基点からみて半円状又は、直線の動きとなる。


 事前(・・)に分かる今なら、()けることは無理じゃない。


 それに、五条先輩が行う攻撃は、大量の『力』を放出している。近くで()けるたびに、俺は"取り込む"事ができる。


 ただ…


 代わりに1度でも触れれば、腕の1本や2本は、持っていかれるだろう……


 **


 これで何度目だろうか?

 五条先輩の攻撃は単調だ、避けて、かわしてを繰り返す。


 振りかぶった腕で殴りかかる。脚で蹴りあげるなどを続ける。そのたびに"取り込ん"できた。

 だいぶ、減らすことができたように思うが。霧先先輩の合図はまだない。


「霧先先輩、あとどのくらいですか」


 俺は体育館の入り口付近で、こちらの動きにずっと注視している、霧先先輩に確認をとった。


「まだよ、ずっと見ていると、あと12回ぐらい()ければ、だいたい半分位になるわよ」


 あと、12回だ…と!? 具体的な回数が明示されたのは良いのだが。ちょっと多くないか?その時、変化が起きた!?


 その変化は……


「うあぁぁあぁぁあぁ」


「なんだぁ?」


 ずっと沈黙の攻撃を行っていた、五条先輩が呻きだした。その()の雰囲気が変わる。


 下を向いたままだった五条先輩は、正面を向く。相貌が、両眼がこちらを見つめる。


 その目は、恐ろしいまでに……


 濁っていた…まさに白眼で視られている、凝視されていた。


「おいぃいぃ、なんだぁぁお前はぁ……」


「……なんだ? 急に変わったぞ」


「はい、周りの力が内部に集約しております」


 楓の助言(じょげん)(どお)り、五条先輩の周りに漂っていた『力』は消え失せた。これでは、放出した"力"を取り込めない。


「んぁぁあぁん…ああぁあぁぁぉおお」


「なにぃぃ!?」


 先ほどまでの動きと変わり、体全体を使う行動を起こした。


 その白眼で、俺の動きを注視(・・)する。たったそれだけで、こんなにも違うのか……


 腰を使う動きが(ともな)う。それは、五条先輩が行う攻撃の"範囲と距離"を大きく増大させた。


 先ほどまでは、体を"ずらす"、"かわす"だけで、なんとかなった。


 だが、()のこの攻撃は駄目だ!?


 地に伏せてギリギリで回避する、前方に飛んで転がる。まさに必死になって逃げ回るしかない。


「千丈くんっ!?」


 慌てる俺は、霧先先輩の声が聞こえるも、返す返事もできない。

 (こぼ)れだす"力"も微々たるもので、取り込んでもそれは(わず)かだ。


 すでに転げまわる俺の体は、五条先輩が破壊してきた、ささくれ立つ床や、飛び散った残骸のおかげ傷でだらけだ。


 シャツは破れているし、スラックスは裂けている。こりゃ帰れれば母親から大説教が確定だ。


 背中にくっついただけの楓は、大丈夫だろうか?


 あいつは、いまだに体操服のままだ。露出(ろしゅつ)度合(どあ)いが俺より多い。


「うわぁ!?」


 五条先輩の放つ蹴りをかわすために下がった。

 足元の削れた段差に脚を取られて、楓を背中にして仰向けに俺は倒れた。ヤバイ!?


「うがぁあぁぁあぁ」


「ご主人!?」


 五条先輩の脚は覆い被さるように、俺を踏み潰すように、真っ直ぐに俺の胸元……胸部中央に向けて迫る。


 このままでは、最悪の一撃を受けてしまう。防御は破れかけのシャツ1枚、非常に心もとない。


 周りの破壊された体育館の床を思い出す。大穴が開いて、完全に貫通していた…


 それに勝る強度は、俺の胸にないだろう。


 迫り来る五条(ごじょう)二弦(にげん)先輩の足裏を、俺は見上げ続けた。

お読みいただきありがとうございます。


お願いしていた、ブックマーク登録が40件を超える事ができました。そしてなんと、42件にも達しました。ひとえに皆々様のお力の賜物でございます。感謝です、ありがとうございました。


最新投稿はTwitterでのお知らせ、報告をさせていただきたいと考えます。http://twitter.com/yasusuga9


ご意見やご感想は"楓"が責任を持ちまして、ご主人にお伝えするお約束をいたします。

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