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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第弐章 予備備品室の幽霊譚
23/115

驚愕の変貌(その五)

 ご主人は、楓の事をちゃんと考えていてくださいました。


 これほどの嬉しいことがあったでしょうか?

 いや、ありません。


 造られてから、初めての…この気持ち。たとえ、粉々に破壊されても、失うわけにはまいりません。


 旧校舎内から、楓を無事に回収することができた。

 外に出ると『ヤンデレ楓』が霧先先輩と口論を始めた。仲良くするように(さと)した、俺に対して急に楓は噛みついてきた。


 そして、霧先先輩も参戦して俺は臨死体験をしてしまった。


 そんなこんだで、もう夕暮れを通り越して、薄暗くなり始めた。

 校舎からは物音ひとつない。早く五条先輩のところに向かわねば……


 **

 驚愕の変貌(その五)

 023


「じゃあ霧先先輩、五条先輩の所まで案内してもらえますか?」


「え…えぇ、もちろん……こっちよ」


 霧先先輩は先頭に立ち、案内を始めた。背中に楓を装着した俺は、その後に続く。

 いったいこの先どうなるだろうか?

 俺の考えが間違っていたら…ふと考えると、不安が尽きることは無かった。


 校舎内部に入るためには、先ほどの元予備備品室内に戻り、瓦礫を片付けながら入り口まで行くか、外周を通り正面玄関に周るしかない。正直、両方手間がかかる。

 幸いにも、霧先先輩が選んだのは、校舎に沿って歩いていくことだった。


「ここね、中にいるわ」


 そこは、夕闇が訪れた体育館だった。

 正面入り口の扉は閉まっていたが、まだ施錠はされてないようだった。太い金属製の鎖と、大きな南京錠(なんきんじょう)が取っ手に掛かったままになっている。


「ご主人、ここからは楓が先に入らせていただきます」


「いいんだ、俺が先に入るよ、楓はそのままでいてくれ。……えっと、霧先先輩は相手の力を視ることができるんですよね。そう、話してくれましたよね」


「ええ、相対するものがどのくらい『力』を持つか、わかるのよ。それが、私の持つ"魔女の力"ですもの」


「心強いです、実は先輩には、見極(・・)めて欲しいんです」


見極(みきわ)める?」


「五条先輩は『力』の過剰摂取状態で自我を失っているはずです。朝もそうでしたから。そして、夕方に出会ったときは意識がしっかりしていて、意思疏通が図れました。つまり、それが適量(・・)だと考えました」


「確かにそうだったわね。その状態にすれば、もう一度兄さんは戻れる、そうことなの?」


「恐らくです。なので、なんとかしてその状態(・・)に戻します。そうしたら、ここまで運んだ"これ"で、もう一度安定をさせます。その際ですが、減らし過ぎないように、注意して下さい」


 俺は、ここまで運んできた、例の()を横に置く。


「…ええ、わかった。その状態にまで、お兄さまの力を減らすのね。そのタイミングを千丈くんに伝えればいいのね」


「流石です! それでお願いいたします」


 楓は黙って背中に張り付いたままだ。そろそろ説明が必要だろう……


「わかっております」


 考えていることを見通すのは凄いな。


「じゃあ頼んだ。タイミングは俺から合図する」


「はい」


 よし、これで、今できる準備は終えた。

 後は実践あるのみだ、全てが予想の行動だが動き出した以上やり遂げるしかない。一人と一台(・・)の協力があっての成功と心に誓い、全力を尽くそう。

 俺は物音がしない、誰もいない体育館に通じる、重厚な鉄製の2枚スライドの扉に手をかけた……


 **


 ここに至るまでの間に色々あった……本当に。

 困惑(こんわく)疑念(ぎねん)猜疑(さいぎ)孤立(こりつ)驚愕(きょうがく)

 人生の中で、これ程までに濃密な出来事が集中したことは、1度もなかった。これが全て、1日で起こった出来事だ……今でも信じられない。


 困難?、トラブルゥ?、だいっ嫌いだぁ!?

 平穏無事。昨日の続きに当たり前の今日がある。非日常を考える必要のない毎日を過ごせるのが、俺の(ねが)いだ。


 だが、この願いのために、目の前の問題から目を背けるような気持ちは……今はできない。

 知り合ったばかりの、霧先かより先輩、幽霊になっている五条二弦先輩に関わり、考えを変えるきっかけをもらった。


 二人の兄妹(けいまい)を見てしまった。


 二人の(きずな)に触れてしまった。


 先輩の優しさに触れて、そして……


 俺に"力"の事を、五条二弦先輩は教えてくれた。自分の最後の時間を削ってまで…もう充分に、俺が動く理由(・・)が揃っている。


 さあ、最終局面だ! 長かった、文字量が90.000字にもうすぐ達する。

 開けてしまった、扉を今こそ閉じよう。


『予備備品室の幽霊譚』に決着をつけようじゃないか。最強のメンバーが俺の横に揃っている。

 心強さを感じて、俺は最初の1歩を真っ暗な体育館内部へと踏み入れた。

最新投稿はTwitterでのお知らせ、報告をさせていただきたいと考えます。http://twitter.com/yasusuga9


ご意見やご感想は"楓"が責任を持ちまして、ご主人にお伝えするお約束をいたします。

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