驚愕の変貌(その四)
ご主人さまは、楓を置いてあの女と二人で仲睦まじく出て行かれました。
確かに、楓を置いて避難をと、言いました。そのように申しましたがぁ…
本当に置いて行かれましたぁ~寂しいです…悲しいです…うっぅぅうぅ…暗いです。
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驚愕の変貌(その四)
022
「楓ぇぇぇ、どこだーいぃぃ」
「うぐぅぅぅ、わぁぁん」
俺の足元で大号泣をしてました。
泣くほどの事なのか……
ちょっとだけ…忘れていただけなのに。
公園にサッカーボールを忘れた程度の感覚だったけど。
「よしよし、じゃあ楓、お外にお出かけしようか」
「うぅぅ、ご主人、ぅう、酷いです、残酷です、動けない楓を置いていかれましたぁあぁぁん」
ちっ、この『ヤンデレ楓』も面倒だな。
「わかった、じゃあ行くぞ。ほら立てよぉ」
「うぅぅぐすっ……楓はぁ頑張ってますかぁぉぅう、ご主人のお役にたてておりますでしょうかぁぁ?」
言っていることは何となく分かる。
だが、なぜ今ここでこんなこと言い出すんだろう?
「ああ、そうだな、助かった事もあるな」
「うぐぅぅ、迷惑なんですかぁ」
そうだな、正直に言えばそうだ。
楓の転入初日、今日俺はクラスのカースト下位から、さらにランクダウンをした。
そこは、異世界だった。
だってクラスで言葉が急に通じなくなりました。
驚いたよ…
知らない世界を体験することになるとは。
異世界転移したようだった。
明日からが正念場だ、きっと帰れるはずだ。
そのきっかけは昼休み……
ああそうじゃない、俺はその時間、職員室で説教を受けていて教室にいなかったな。
その後だ…
午後の授業の合間に、まとわりつく楓を無下に扱った。
そうした行為を見ていたクラスメイトは、俺に大非難を集中させて……ああぁぁ。
四面楚歌は俺だった……
俺の対応が悪いんだよなぁ…
なんだか納得いかないけど…本当に俺が悪いのかな?
すぎた事はもう、仕方がない。
覆水盆に帰らず。
「迷惑な面は多少ある……だけど今は、おまえが必要なんだ」
「ううぅ、ぐすっ……必要なんですね、本当に……もう返品するとか、言いませんよね」
言えないなぁ……
返品するなら有償の廃棄回収を依頼しないとな。
返品期限など、とっくのとうに終わっているだろうし。
「ああ、言わない、約束しよう」
「うう、ぅぅ、本当ですね…」
しつこいな、そんなに心配なら、俺の前でむちゃくちゃな行動をしなければいいのに。
「そもそも、楓がいなくては、俺の考える五条先輩を何とかする計画が破綻するんだよ、時間もあまりないから早くしてくれ」
「はい……わかりました。それでご主人さま…」
「なんだ?」
なんだか言いにくそうにしているな。
ほんのり頬が紅潮して……
「……力を使い果たして動けません」
だろうな! 見れば分かる。
ひっくり返ったままだし。
「また背中にくっつけばいいんだろ、ほれ」
俺は楓に背を向けてしゃがんだ。
『のそのそと』ひじょうにゆっくりとした動きでくっついてくる。楓セッティング完了っと。
短い、一人立ちだった…
時間にして約15分ぐらいだったかな。
「それで楓、力を吸い上げるのはいいんだが、できれば最低限で堪えてくれ」
「ええっ!? 楓はお腹が空きましたよぉ」
「あとで、いっぱい与えるから、たのむ、今は我慢をしてくれ。理由があるんだ」
「理由ですか?」
「おまえ体重の制御ができるだろう」
「ご主人、女性に対してそのようなお話は…ご遠慮くださぃ…」
なんだぁ、楓は女性かぁ?
容が、そうなっているだけだろう。
「ああ、もういいからできるのか、できないのか答えてくれ」
「はい、魔波動量にもよります、多少ですが……軽減できまぅぅ…」
「それなら大丈夫だ。体重が軽くできるならいい、だいたい数キロ以内になれるか?」
「? …はい、もう少しいただけましたら、エネルギーを重量制御に回すことができます。それ以外に、楓はどのようにすればいいのでしょうか?」
「とりあえず、軽くするだけでいい。それ以外は、『エネルギーがかつかつ』状態でいてくれ」
よし! これで、ひとつセッティングができた。
俺はここに入るために通り抜けてきた、壁の穴を抜けて外にでた。
「早かったのね、もういいのかしら」
「霧先先輩すみません、お待たせしてしまって」
「べつにいいのよ、楓さんも無事に回収できたみたいね。良かったわ」
「ふーんだ。あなたに心配してもらう謂れはございませんよーだ」
「こらっ! 楓ぇ、先輩に失礼だろ、そう言った言動は慎めよ!」
「いやぁですよぉ、なんで楓が気を使うのでしょうかぁ?」
面倒だな、やはり置いていくかな。ここに…
だが、そうすると五条先輩に対して、切り札を失う事になる。
判断に悩んでしまう。
面倒を切り捨てるか、我慢するか。
俺の真価が今、問われている気がする。
なんてね、サクサク行こう、気にしたら負けだ!
「ずいぶんと嫌われているのね。なにかし……たのよね、千丈くんから生命力を、抜き取ったから……」
「べっつにぃぃ、そんなことはどうでもよいのです。ご主人はその程度すぐに回復されますよぉ。余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)ですねぇ」
それは、楓にとって、どうでもいいことなんだな……
実はけっこう辛かった……
今さら言えないけど。
「じゃあなんでなのよ、そんなに怒らせるようなことは、私は楓さんにしてないわよ」
「言いませんよーだ、自分のぉ、そのでっかい胸にでも聞いてみるがいいのですよ」
おいおい、霧先先輩の胸は、しゃべらないぞ。
ブラウスが、はち切れそうになるほどの自己主張をしている二子山は、まっこと素晴らしい、逸品としか、言い表せなぁぁあぁぁいぃぃぎゃぁぁ。
「はあぁあむぅっぅうう」
「うがぁぁaぁぁaぁっぁぁぁ、痛ってぇeえぇeぇ」
噛むなよぉ、喰らいつくなよぉ。
本気で痛いんだから。
「ちょっと止めなさいよ!?」
おおっと、ここで霧先先輩が参戦しました。
楓の、後ろ髪を引っ張ります。
はい先輩、より痛みが倍増しております。
実に2倍以上です。後方に引っ張られる力が加わる……
「むぅぅぅむぅ」
楓は、なにを言っているのでしょうか?
…分かりません。
「このぉ離れなさいよぉ!?」
霧先先輩は、止めさせたいのでしょうか?
…だが、逆効果と言わざるを得ません。
俺は、ずいぶんと冷静だって…
ああ、先ほどからドローンのように、上空から俯瞰して見ているからね。
もう痛みは感じません。
俺の体は大事に扱ってほしいと願う。
頭『ガクガク』手足は『ぶらぶら』自力で立つことはできません。
倒れそうな俺を支えるのは、楓の脚です。
それは、リュックサックを前面に装着したようだった。
まるで、大きな熊のぬいぐるみだな。千丈くん等身大の…
**
「とりあえず、二人とも落ち着いてください。ここで争っている場合じゃないんです」
なんとか、肉体に戻れました。
「はあむぅぅ!!」
「じゃかあしいぞぉ!!!」
おらっあぁぁ。
「きゃんっっ!」
『グー』で"ぶん殴り"ました。もちろん手加減はしました。
だって破壊されるのは俺の拳ですから。
でも、痛ってぇぞ!?
だが……口は離れたぞ。
「だって、楓さんが」
「シャーアラップゥ!!!」
怒鳴りましたぁ。
霧先先輩に暴力はいけません。
これが、俺の精一杯です。
「おらぁ、座れやぁ二人ともぉ!」
『ビクッ』として大人しく従う"一人と一台"を前に、ちょっと優越感を感じる俺がいた。
霧先先輩は前で正座、楓は背中で"気をつけ"の姿勢です。
将来は先生になろうかな。癖になりそうです。
「はい楓さん、言うべき事はなにかな?」
「この女が悪いんですよぉ」
「はい、何が悪いのか先生には、まったく分かりません」
つぎぃ。
「はい、霧先先輩は言うべき事はなんですか?」
「だって千丈くんが襲われていたから、つい」
「はい、残念な結果ですけど、おかげさまで、俺は死にかけました」
飛んじゃったからね。上から俯瞰ですからね。
幽体離脱体験をするとは……
「我々の目的はなんですか?」
「「だって、この、悪くない、あれが、そうですよぉ」」
「うっるさあいぃぃ、これから五条先輩のところに向かい対処に行くんでしょう、なんで協力できねーんだよ!」
「ご主人が悪いんですよぉ……」
何が悪いんだ?
ちょっと霧先先輩の魅力的な部位を眺めただけだよ。
「それです、楓の心は、もう抑えきれないです…」
キレれやすいアンドロイドだな。
「落ち着け、ただの男性の生理現象だ、そもそも俺は、大きな物と、心の広い人が好きなんだよ」
『心の広い物がすきぃ……』
『千丈くん……そんなにも私が』
ん? なんだ、急に二人が大人しくなったぞ。
この二人の考えは、まるっと分かりません。
もう夕暮れを通り越して、薄暗くなり始めた。
校舎からは、物音ひとつしない。
早く五条先輩のところに向かわねば……
最新投稿はTwitterでのお知らせ、報告をさせていただきたいと考えます。http://twitter.com/yasusuga9
ご意見やご感想は"楓"が責任を持ちまして、ご主人にお伝えするお約束をいたします。