驚愕の変貌(その三)
ご主人は、この女に対してかまいすぎです。
なんなんですかぁ、ちょっと肉付きがいいからってぇ。
きっとご主人が、楓をかまってくださらないのは……
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驚愕の変貌(その三)
021
「楓、探し物を手伝ってくれ」
「探し物ですか?」
楓はいぶかしそうにしながらも、文句ひとつ言わずに俺に続いて崩壊した教室の中、散乱した瓦礫をどかし始めた。
詳しい説明をしていないが、問いかけてくることなく探し始めたのは、また俺の心を読んだのだろう。ある意味手間がかからないで助かる。
「千丈くん、いったいどうしたの?」
「霧先先輩はちょっと待っててください。探し物を見つけたら説明します」
目的の探し物は、中々見つからない。
机や、椅子のスチールパイプ、砕けたベニヤをどかし続けて、5分程経っただろうか、ついに俺は埋もれた瓦礫の下から目的の物を見つけた。
「楓、あったぞ。取り出すのを手伝ってくれ」
「さすがは、ご主人さまです。了解致しました。それでは、危のうございますので少しお下がりくださいませ」
「へ?」
いや、別に上のベニヤ片とか、スチールパイプをどかして取り出すだけだけど。楓の目が『マジ』だったので数歩分、俺はその立ち位置を下げた。
「もう平気でございます。ちっ……」
楓の高速で繰り出す、右足の蹴りによって、瓦礫が吹き飛んだ。
俺の目前を通りすぎる大量の物質は……前髪を台風中継のアナウンサーのように揺らす。
それは、強力で暴力的な物質の爆流だ、衝撃により砕け、破砕した残骸のなれの果てが進行上の全てを巻き込んで突き進む。
備品室の窓は、1枚も残らず割れてサッシもひん曲がっていたが、残骸のなれの果てが通過して、窓どころか壁に大きな穴があいて、開放感のある教室ができあがった。
「おいぃぃぃぃ!? 楓ぇ、何してんだぁ、てんめぇぇ」
「はい、ご主人いかがいたしましたでしょうか?」
「ちょっとだけ残骸を動かして、下の物を取り出すだけだろうに、誰が外壁ごと退かせと言ったんだよぉ!!」
「手が……」
「ん…手ぇ?」
「汚れるじゃないですか」
そうだな、あんなに沢山の瓦礫をひとつづつ、どかしながら作業したら時間もかかっちゃうしな。
って、ふざけるなよぉ!?
確かに、目的の物は、無事に取り出す事は出来たかもしれないが…
外壁はオープン状態だ。うーん。
それに何か忘れている気がする……
あっ、霧先先輩はどこに?
確かさっきまで、こっちの方にいたよなぁ……
振り返った俺が見たのは、床材がめくれあがって、コンクリートが剥き出しとなった元部屋の一部と、外に向けて開放感溢れる元壁だった。
霧先先輩の立っていた場所は……跡形も無くなっていた。
正に文字通りだ。
それよりも楓が放った、あの残骸の散弾を浴びれば骨も残らないぞ。大変だ!?
「きっ……霧先先輩ぃぃ」
「ううぅ……」
良かった生きている。
霧先先輩はあの爆風を横に飛び退く事で無事に生き延びたようだ。
「ちっ、ご主人に近寄るなっつーの…」
今の楓は、『マジ』で遠慮がない。
前の『うざい』方が社交的な気がしてきた。
俺が霧先先輩の体に触れると首筋に噛みついてきた。妄想したら、肩を握り潰そうとした。
極めつけは、霧先先輩をさっき『消そう』とした。
ヤンデレ要素を組み込むなよ!?
未来の白物魔家電メーカーさんよぉ。
「良かった生きてますよね、怪我はないですか?」
「ええ……かなり驚いたわよ。危うく消し飛ぶところだったわ」
あんなことされて、怒鳴りつけないなんて。
霧先先輩は人間ができているな……俺には、無理だけど。
「じゃあ時間もないので、移動しましょう。歩けますよね」
「ええ、平気よ、膝小僧を少し擦りむいただけだから」
よくあの暴風を避けて、この程度で済んだものだ。
俺は楓がどかした瓦礫の下にあった物を引き出した。
「……なにをするのかしら、今さらそんなものを持ち出して」
「必要なんですよ、これがあれば、なんとかなるかもしれないんです。ただ、俺の勘ですから…必ずというわけではないんですけど。」
「いいわよ、もう千丈くんの良いようにして、すでに私は、失敗したのだから…」
俺の力を使い、五条先輩を留めようとした試みの失敗は、予想以上に霧先先輩の心を挫けさせている。
俺がなんとかできればいいのだが、正直言って分からない。五条先輩の話した通り、もう手段がないのかも知れない。だが、できることをするべきだ。
「わかりました、できる限りのことはします。ところで霧先先輩、五条先輩は、今どこにいるのか分かりますか?」
「ええ、今は、あそこにいるわよ…そこはね……」
俺は霧先先輩に五条先輩の居場所を聞いて。
そこに向かうことにした。もちろん例の物を手にして…
廊下側は大量の瓦礫が山積していて、通ることはできそうにもない。
なにが幸いするのか分からない、先ほど、楓がぶち破った外に通じる外壁は人はおろか、ワンボックスカーでも余裕をもって入れるほどの穴が空いている。
そこから出て、目的地に向かうことにした……
旧校舎、予備備品室から通常ありえない方法。
壁を通って外に出た俺は、違和感を感じて立ち止まる。
……なんかまた忘れている。
そして、なぜか霧先先輩は俺の腕を掴んでいる?
「霧先先輩、どうしたのですか?」
「気にしないでくれるかな」
別にそこまでしなくても逃げませんよ。
俺に対する信頼感が足りないのかな?
それにしても、なにかが不足している気がする。
霧先先輩に、俺だろ、それと、室内からちゃんと例の物も持ち出したぞ……あと……ん!?
楓がいないぞぉ!?
「霧先先輩!? 楓を見ませんでしたか?」
「さあ? 知らない……」
「いや、さっきまで居たじゃないですか?」
「しらないのぉ、ほっとけば!」
おいおい、どうなってるんだ。
霧先先輩の腕を掴む力が上がったぞ、目が、視線がなんだか怖い。
ひょっとして、さっきの楓の爆風で消されかかった事を根に持って……
「はやぁく、いきましょう千丈くん」
やはり、根に持っているぞ…
女性は怖いな、などと考えていたら霧先先輩は『グイグイ』と引っ張りだした。
「ちょっと待って下さいよ。さすがに楓が居ないと、俺のプランは成り立たないんですよ」
「プラン?」
やっと引っ張るのを止めてくれた。
首を傾げて不思議そうにしているが、今の状態の楓がいないと、どうしようもない。手詰まり確定となる。
「どうしても必要なの?」
「はい、五条先輩のために絶対に必要です…もちろん霧先先輩もです」
「……わかったわよ、さっきの所でひっくり返ってるのよ、なんとか動ける『ギリギリ』しか力が残ってないのに、いきなりあんなことするからよ」
「霧先先輩ありがとうございます」
「ううん、早く拾ってきてね」
霧先先輩は、俺の腕を離して、両手で背中を押してくれた。
一緒に戻る気はないんですね。わかりました、忘れ物を拾ってきます。
先ほど通りぬけた教室の穴をくぐり、室内に戻った。
夕暮れ迫るこの時間、照明設備は全て破壊されて室内は薄暗い。
楓はいったいどこに……
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