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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第弐章 予備備品室の幽霊譚
21/115

驚愕の変貌(その三)

 ご主人は、この女に対してかまいすぎです。


 なんなんですかぁ、ちょっと肉付きがいいからってぇ。

 きっとご主人が、楓をかまってくださらないのは……

 **

 驚愕の変貌(その三)

 021


(かえで)、探し物を手伝ってくれ」


「探し物ですか?」


 楓はいぶかしそうにしながらも、文句ひとつ言わずに俺に続いて崩壊した教室の中、散乱した瓦礫をどかし始めた。


 詳しい説明をしていないが、問いかけてくることなく探し始めたのは、また俺の心を読んだのだろう。ある意味手間がかからないで助かる。


「千丈くん、いったいどうしたの?」


「霧先先輩はちょっと待っててください。探し物を見つけたら説明します」


 目的の探し物は、中々見つからない。


 机や、椅子のスチールパイプ、砕けたベニヤをどかし続けて、5分程経っただろうか、ついに俺は埋もれた瓦礫の下から目的の()を見つけた。


「楓、あったぞ。取り出すのを手伝ってくれ」


「さすがは、ご主人さまです。了解致しました。それでは、危のうございますので少しお下がりくださいませ」


「へ?」


 いや、別に上のベニヤ片とか、スチールパイプをどかして取り出すだけだけど。楓の目が『マジ』だったので数歩分、俺はその立ち位置を下げた。


「もう平気でございます。ちっ……」


 楓の高速で繰り出す、右足の蹴りによって、瓦礫が吹き飛んだ。


 俺の目前を通りすぎる大量の物質は……前髪を台風中継のアナウンサーのように揺らす。


 それは、強力で暴力的な物質の爆流だ、衝撃により砕け、破砕した残骸のなれの果てが進行上の全てを巻き込んで突き進む。


 備品室の窓は、1枚も残らず割れてサッシもひん曲がっていたが、残骸のなれの果てが通過して、窓どころか壁に大きな穴があいて、開放感のある教室ができあがった。



「おいぃぃぃぃ!? 楓ぇ、何してんだぁ、てんめぇぇ」


「はい、ご主人いかがいたしましたでしょうか?」


「ちょっとだけ残骸を動かして、下の物を取り出すだけだろうに、誰が外壁ごと退かせと言ったんだよぉ!!」


「手が……」


「ん…手ぇ?」


「汚れるじゃないですか」



 そうだな、あんなに沢山の瓦礫をひとつづつ、どかしながら作業したら時間もかかっちゃうしな。


 って、ふざけるなよぉ!?



 確かに、目的の物は、無事に取り出す事は出来たかもしれないが…

 外壁はオープン状態だ。うーん。


 それに何か忘れている気がする……


 あっ、霧先先輩はどこに?

 確かさっきまで、こっちの方にいたよなぁ……


 振り返った俺が見たのは、床材がめくれあがって、コンクリートが剥き出しとなった元部屋の一部と、外に向けて開放感溢れる元壁(・・)だった。


 霧先先輩の立っていた場所は……跡形も無くなっていた。


 正に文字通りだ。


 それよりも楓が放った、あの残骸の散弾を浴びれば骨も残らないぞ。大変だ!?


「きっ……霧先先輩ぃぃ」


「ううぅ……」


 良かった生きている。

 霧先先輩はあの爆風を横に飛び退く事で無事に生き延びたようだ。


「ちっ、ご主人に近寄るなっつーの…」


 今の楓は、『マジ』で遠慮がない。

 前の『うざい』方が社交的な気がしてきた。


 俺が霧先先輩の体に触れると首筋に噛みついてきた。妄想したら、肩を握り潰そうとした。



 極めつけは、霧先先輩をさっき『()そう』とした。


 ヤンデレ要素を組み込むなよ!?

 未来の白物魔家電メーカーさんよぉ。



「良かった生きてますよね、怪我はないですか?」


「ええ……かなり驚いたわよ。危うく消し飛ぶところだったわ」


 あんなことされて、怒鳴りつけないなんて。

 霧先先輩は人間ができているな……俺には、無理だけど。


「じゃあ時間もないので、移動しましょう。歩けますよね」


「ええ、平気よ、膝小僧を少し擦りむいただけだから」


 よくあの暴風を避けて、この程度で済んだものだ。

 俺は楓がどかした瓦礫の下にあった()を引き出した。


「……なにをするのかしら、今さらそんなものを持ち出して」


「必要なんですよ、これがあれば、なんとかなるかもしれないんです。ただ、俺の勘ですから…必ずというわけではないんですけど。」


「いいわよ、もう千丈くんの良いようにして、すでに私は、失敗したのだから…」


 俺の力を使い、五条先輩を留めようとした試みの失敗は、予想以上に霧先先輩の心を(くじ)けさせている。


 俺がなんとかできればいいのだが、正直言って分からない。五条先輩の話した通り、もう手段がないのかも知れない。だが、できることをするべきだ。


「わかりました、できる限りのことはします。ところで霧先先輩、五条先輩は、今どこにいるのか分かりますか?」


「ええ、今は、あそこにいるわよ…そこはね……」


 俺は霧先先輩に五条先輩の居場所を聞いて。

 そこに向かうことにした。もちろん例の()を手にして…




 廊下側は大量の瓦礫が山積していて、通ることはできそうにもない。


 なにが幸いするのか分からない、先ほど、楓がぶち破った外に通じる外壁は人はおろか、ワンボックスカーでも余裕をもって入れるほどの穴が空いている。


 そこから出て、目的地に向かうことにした……


 旧校舎、予備備品室から通常ありえない方法。

 壁を通って外に出た俺は、違和感を感じて立ち止まる。


 ……なんかまた忘れている。


 そして、なぜか霧先先輩は俺の腕を掴んでいる?


「霧先先輩、どうしたのですか?」


「気にしないでくれるかな」


 別にそこまでしなくても逃げませんよ。


 俺に対する信頼感が足りないのかな?

 それにしても、なにかが不足している気がする。


 霧先先輩に、俺だろ、それと、室内からちゃんと例の()も持ち出したぞ……あと……ん!?


 楓がいないぞぉ!?


「霧先先輩!? 楓を見ませんでしたか?」


「さあ? 知らない……」


「いや、さっきまで居たじゃないですか?」


「しらないのぉ、ほっとけば!」


 おいおい、どうなってるんだ。

 霧先先輩の腕を掴む力が上がったぞ、目が、視線がなんだか怖い。


 ひょっとして、さっきの楓の爆風で消されかかった事を根に持って……


「はやぁく、いきましょう千丈くん」


 やはり、根に持っているぞ…

 女性は怖いな、などと考えていたら霧先先輩は『グイグイ』と引っ張りだした。


「ちょっと待って下さいよ。さすがに楓が居ないと、俺のプランは成り立たないんですよ」


「プラン?」


 やっと引っ張るのを止めてくれた。

 首を傾げて不思議そうにしているが、今の状態(・・)の楓がいないと、どうしようもない。手詰まり確定となる。


「どうしても必要なの?」


「はい、五条先輩のために絶対に必要です…もちろん霧先先輩もです」


「……わかったわよ、さっきの所でひっくり返ってるのよ、なんとか動ける『ギリギリ』しか力が残ってないのに、いきなりあんなことするからよ」


「霧先先輩ありがとうございます」


「ううん、早く拾ってきてね」


 霧先先輩は、俺の腕を離して、両手で背中を押してくれた。

 一緒に戻る気はないんですね。わかりました、忘れ(かえで)を拾ってきます。


 先ほど通りぬけた教室の穴をくぐり、室内に戻った。

 夕暮れ迫るこの時間、照明設備は全て破壊されて室内は薄暗い。


 楓はいったいどこに……

お読みいただきありがとうございます。


お願いしていた、ブックマーク登録が30件を超える事ができました。そしてなんと、32件にも達しました。ひとえに皆々様のお力の賜物でございます。感謝です、ありがとうございました。


最新投稿はTwitterでのお知らせ、報告をさせていただきたいと考えます。http://twitter.com/yasusuga9


ご意見やご感想は"楓"が責任を持ちまして、ご主人にお伝えするお約束をいたします。

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