表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第弐章 予備備品室の幽霊譚
20/115

驚愕の変貌(その弐)

 あの女にご主人が触れた瞬間に沸き上がるこの感情は一体…?


 楓はこの(ほとばしる)る、感覚を押さえきれません…はむうぅぅぅうぅ。

 霧先先輩に抱きつかれて、俺は意識を失った。

 目覚めて、見たものは荒廃した室内と、俺を守るために体内に溜めていたエネルギーをほぼ使い果たし、性格が大きく変貌した楓だった。


 その後、崩れた瓦礫の中から見つけ出した霧先先輩に意識はなかった。だが、ちょっとした『出来事』によって意識を取り戻した。


 **

 020

 驚愕の変貌(その弐)


「霧先先輩、良かった、気がついたんですね」


「……えぇ、千丈くんなのよね?」



 どうしたんだ? 微妙に後退りして俺との距離を少し開けた。これだけでガラスのハートは傷ついてしまうぞ。


「…はい、そうです。千丈ですよ」


「ごめんね、どうしても私は、兄さんを諦めたくなかった、諦めることなんて、できるわけないじゃない」


「……」


 おそらく、霧先先輩が気にしていることは、俺から力を吸出した件だろう。


「その件については、もういいです。謝罪よりも、何があったか教えてもらえますか? 」


「ええ、それについては説明させてほしいの、でも……その前に、噛みつかれていて、痛くないのかしら?」


 噛みつかれて?

 ……んんっ?

 

 うぅおおっ……!?


「おまっ!? 楓ぇぇ! いったい、いつまで首筋に喰い付いているんだぁ!!!」


「ほなしま…せにゅう、ごしゅにんはほなもみぬにこ…」


「おまえは、いったい何て言ってるんだよぉぉぉ!?」


 忘れていた!?だが不思議だ?

 噛みつかれた瞬間は強烈な痛みを感じたが、今は痛みがない。それどころか首の感覚がまったくない。


「どうやら、本気で怒っているようね」


「何故に、先輩はそれほど冷静なんですかぁ!?」


「だって、私はなんともないもの」


 そうですね、ちきしょーどうすれば…

 俺のとれる手段は少ない、最後の切り札の対処方法(・・・・)を取ろう。


「楓さん、ごめんなさい」


 素直に謝りました。すると楓は、口と体を俺の背中から離して、一歩後ろに立つ。


「ご主人、分かって頂ければそれで良いのです」


 ついに、楓との長かった連結が解かれた。


 長かった…そして良かった。

 離れたということは、とりあえず楓のエネルギーはなんとかなったようだ。


 しかし何故、楓は怒ったのだろうか?


 ちょっと、霧先先輩の太股とブラウスに触れて、その感触を味わっただけなのに。


「おわかりいただけ、ないようですねぇ……」


「本当にぃぃぃ、ごめんなさいぃぃぃ…」


 俺の肩にぃ、楓の手が食い込むぅ。うがぁ骨がぁ、関節が外れちゃうよぉ。


「あまり、変なこと考えないでくれるかしら…」


 こちらにも、恐ろしい目をしたお嬢様がおられます!? 背後の暴力、前面の冷遇に挟まれて……漏らしそうです。


「それより、説明させてもらうわね、千丈くんから()った力を兄さんに注いだの、そうしたら...」


 あげてません。怖いから言わないけど…


「初めは安定したの、でも急に苦しみだしてね、そこから覚えてないのよ」


 ……は?


「えっと……どういう事ですか?」


「本当にわからないのよ、気がついたときは、千丈くんが覆い被さってたし」


 覆い被さってません。

 霧先先輩の頭部と大腿部を持ち上げようとして、その途中で落としたんです。


 霧先先輩の話を聞くかぎり、新たに得られる情報はない。分かったのは、五条先輩を助けようとした事ぐらいだ。ここの情報は、先ほど楓から聞いた内容と一致する。それとは別に霧先先輩に一言(ひとこと)、言いたい。


 だから、用法と容量に注意と言ったのに。ずっと心の声でだけど……


(かえで)


「はい、説明をもう一度させていただきます。こちらの女性は吹き飛ばされまして、瓦礫の中に突っ込まれました。そして霊体は室内中を暴れまわり、先ほどまでは入り口側の影で呻いておりました」


「なるほど………ん!? 先ほどまでぇ?」


「はい、先ほど教室から出ていきました」


 おいぃっ!!


 なんだってぇ! 暴走状態で五条先輩は校舎内に解き放たれたってことか。そういえば…さっきまで入り口付近から聞こえていた呻き声が、全く聞こえなくなっているぞ。


「あぁ、にいさん……」


 霧先先輩、状況わかってますか?

 遠い目をしている場合ではないです。


「楓なんで、教えてくれなかったんだよ、早く追いかけないと」


「ご主人、私の優先度はあなた様を第一に考えております。危険が立ち去るなら、それでよいのではないですか?」


「いや違うぞ……良くないぞ楓、五条先輩は誰かが止めないと、他人を怪我をさせてからじゃ遅いんだ」


「千丈くん…」


「ですが、ご主人さま」


「わかっている、俺らしくないんだろ、だけどあの状態にしたのは俺の力だ。だとしたら止めないときっと五条先輩も……」


 ちくしょー、五条先輩は自分の残された時間がわかっていながら、俺に『力』の説明なんてして、身内の妹より優先させるような『おひとよしな』先輩だ。


 もちろん、今も意識があるかどうかなんて、わからない。だが、きっと人を傷つける事を望んだりは……しないはずだ。


「とにかく俺は追いかけてみる、楓は霧先先輩を守るため、ここにいてくれ」


「平気よ、私も行くわよ。だって私が……妹が始めたことですもの、お兄様を助けて…」


「楓はご主人と共に、たとえ、この身が砕けようともお尽くし致します」


 楓は魔家電アンドロイドだ。つまり機械だ。


 だが俺の指示に盲目的に従うわけではない。普段も普通に『嫌だと』返答を行う。


 どうも楓は、俺の考える基準に適合しないアンドロイドのようだ。

 未来の家電ではこれが普通なのかもしれないけど、それは、まだ分からないことだ。考えてもしょうがない。


 だが、楓は俺が危険な目に遭いそうなとき、直前の行動は()として、必ず駆けつけてきた。そして今回もそうだ。


 俺は楓に対して初めて感謝した。本人には調子に乗るので絶対に言わないが。


 それに、霧先先輩も実兄について、放っておくわけにはいかないだろう。


「ありがとう、かなり厳しいけど、きっとなんとかできる、全力を尽くそう。ただ、その前に何点か霧先先輩に聞きたい事がありますいいでしょうか?」


「ええ、もちろんよ、なんでも聞いてちょうだい」


「前に複数の五条先輩の式神、と言いますか、薄い存在が居ましたよね。あれは本当に、ただのエネルギーだったのですか?」


「うん、そうね。そう言われると自信ないけど、形に残る程の核はなかったわ」


「そうですよね、『千丈くんB』については、お札のような物を五条先輩は作っていましたよね、そして式神が消えると同時に消えましたね」


「そうね、兄さんの術は依り代を使って、それに力をからめるのよ。えっと……『千丈くんB』って?」


 ああ、『千丈くんB』それはどうでもいいです。

 依り代とは、つまり中心にくる()だろう。


 俺の周りに漂うこの気配と言うか、『力』だったな、こう何度も関わると、なんとなくだが、わかり始めた気がする。


 風が吹いていない室内でも、対流を感じる。

 何かが引っ掛かる。これを集める方法に五条先輩は、中心(コア)を作り絡める……


 なら、五条先輩と言う存在(エネルギー)はなんで、形を一年も保ちつづける事ができたのか?


「ご主人様いかがいたしましたでしょうか?」


 楓が心配そうにこちらを見ている。顔つきからまるで、今の楓は別人。いや、別のアンドロイドだ。


 だいぶ消耗させてしまった。後でしっかり『力』を与えないと。


 ん、与えないと?

 そうだ!! 五条先輩は、俺をタンクローリーに(たと)えていた。

 満載のタンクが空なら、また満たせばいいはずだ。


 その『力』は何処に行った?


 そう、先ほど教室から出ていった。


『力』を与えられすぎて、自我が崩壊した五条先輩として。


 朝もそうだった。


 そして、楓の攻撃で消耗して……ある程度(・・)の『力』になった時、自我を取り戻した。


 そして、ここ崩壊している予備備品室にあった、あれにだろう。


 それなら分かるし、納得ができる。ヒントは最初っからわかっていた。ただ、俺が気がつかなかっただけだ。五条先輩の幽体は恐らくもう限界だろう。間に合えばいいが、直ぐに行動に移そう。

最新投稿はTwitterで投稿時期のお知らせ、報告をさせていただきたいと考えます。http://twitter.com/yasusuga9

ご意見やご感想は"楓"が責任を持ちまして、ご主人にお伝えするお約束をいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ