白物魔家電との出会い
ついに、ご主人と初顔合わせをする、ですよぅ。
感動の出会いにうれしさ爆発、ですよぉ。
ここから始まる、白物魔家電の秘密や、楓の動向にくびったけ、ですぅ。
帰宅した室内に平伏した状態の人物がいた。
それは、白いブラウス、漆黒のフリルエプロンを着ている謎の存在。
現状を整理しよう……
ちょっと外出し部屋に帰ると、見覚えがないメイド服姿の少女が深々としたお辞儀をしている。
これは、いったい何のドッキリだ?
深々とお辞儀をしているので表情がわからない。
もちろん誰かが訪ねてきている可能性など考えられないし、メイドさんがお部屋に来るサービスを頼んだ記憶はない。
そもそも、未成年の俺がそのような出張を依頼できるはずがないだろう。
「おかえりなさいませ、ですぅ」
完全に硬直している俺を解き放ったのは彼女からの言葉。
それは、俺の帰宅を迎えるあいさつだった。聞こえてくるのは、甘ったるく、そして甲高い子供のような声。
そして、一つどうしても気になる事がある。それは、語尾に”です”を一区切り置いて、発言した事だ。
彼女はゆっくりと顔をこちらに向けて初めて表情を見せた。
年の頃は10代前半。大きな瞳に顔の中心にある低い鼻、ぷっくりとした淡いピンクの唇、小さな口。
それら一つひとつのパーツが、最適なバランスで小顔に収まっている。なぜだか、俺は人形と対峙しているような不自然さを感じる。
「……なんだ、お前。いったい誰なの?」
深夜の不審人物に対して危機感のない発言かもしれない。
だが、本当になんとなくだけど、こいつには危険な感じがしないのだ。根拠はないけど。
「楓のことぉ、でしょうかぁ? 覚えておられませんか、ですよぉ」
なんだろう? すごくイラっとします。
「お前は一体何なんだよ。からかってるのか。…よし、おちょくってくるなら上等だ、警察呼ぶからちょっと待て」
「すみません、謝まったので警察はご勘弁ください、です。楓とお呼びください、ですよぉ」
それは絶対に謝ってないだろう……
いきなり名乗られても対処に困る。どうしたもんかな?
俺は取り出したスマートフォンと、目の前の人物を交互に見てとりあえず……名前を呼んでみた。
「えっと、楓さんだな……」
「いえ、か・え・でぇ。ですぅ」
「いきなり呼び捨てを希望するか?」
「はい、ですぅ。楓がこれからずっとお仕えするご主人なの、です。水臭いじゃない、ですかぁ」
……なれなれしいな、こいつ。
「お仕えするだと……なんだそりゃ? それに、ご主人とは俺の事か。もしそうなら、そんな呼ばれ方は拒否する」
「そう言われましても……じゃあ、旦那様とお呼びさせていただきましょうか、ですぅ?」
「もっと嫌だよ!」
本当になんなんだ? 存在を含め、すべてが意味不明だ。
そもそも、こんな見ず知らずの存在から、ご主人と呼ばれるのはおかしいだろう? なにかの冗談なのか。
俺は、楓とやらを、改めて見つめた。
こちらを見つめる続けるその真摯な瞳をみると、冗談を言っているように感じなかった。
「呼び方はどうでも良いから、なんで俺の部屋に居るのかさっさと言え」
「今さっき着いたばかり、ですよぉ。うふふぅ」
「だからぁ!! なんで俺の部屋にいるのかって聞いてるんだよ!」
初対面だけど、人をイライラさせる何かがこいつにはある。それは直感でわかるぞ。
「説明が足りず申し訳ありません、ですぅ。実は……」
「楓はこの時代に送られてきたの、ですよぉ」
「……はぁ?」
「ですから旦那様がぁ、ご主人様の未来のために私を贈ったの、ですよぉ」
「……」
旦那様って誰なんだ?
「何故、ご理解いただけないの、ですぅ?」
「わかるかよ! えーと、なんだ、その旦那様とやらが、この俺に対してお前を贈り物として送ったと?」
「さすがはご主人様、ほぼ正解、ですよぉ」
楓は拍手をしながらこちらを見つめている。
バカにしているのかと思ったが、表情を見る限り大真面目だ。尊敬の視線すら伺える。
「……なあ本当に、お前は俺をからかっている訳じゃないんだな?」
「ご主人様に対して、からかうなど、とんでもないの、ですよぉ。あぁっ! そう言えばお手紙をお出ししておりません、でしたぁ。申し訳ありません、ですよぉ」
お手紙? なんだそりゃ?
悩む俺に対し、楓は胸元のボタンを1つ外す。そして、ブラウスの合わせ目から胸元に手を突っ込み、服の中を探し始めた。そして、そこから取り出した物は一枚白い封筒だった。
しかし、何故そこに入れるんだ? ここから見てわかるエプロンにポケットがちゃんとあるだろう?
「ほんのサービス、ですよぉ。それでは、こちらをご覧ください、ですぅ」
心を読まれた!?
そして、手渡された封筒は妙に生暖かった……
室内の蛍光灯に透かせて見ると中に手紙が入っているのが分かる。
封筒を開けて中の便箋に目を通した。書かれている文章を見て、俺は背筋が凍る思いがした。
手紙には文章が書かれている……それは当たり前のことだが。驚いたのは書かれている文字だ。
どう見ても俺の字にしか見えない。だが、こんな手紙を書いた記憶はもちろんない。
左利き特有の跳ねた字や、ざっとみた感じの文章の節々に、見覚えのある癖がにじみ出ている。極めつけは、手紙の最後に俺の名前。"千丈 蔭"の署名があった。
違和感を感じながらも、俺は最初からその手紙に目を通し始める。
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拝啓 千丈蔭
まあ、自分から過去の俺に手紙を書くのは初めてだ、落ち着いて読んでほしい。
実は宝くじで50億円位当選したので、ちょっとお買い物をしてみた。
魔家電量販店で、購入したアンドロイドを過去の自分に送った。
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なんだ!? この文章は?
書いてある内容を理解できない。魔家電量販店? アンドロイド? 悪い冗談としか思えない。
その時、俺を見つめる視線を感じ、横を向く。そこには首を傾げてじっとこちらを見つめる楓がいる。目が合うと、口角が上がって”にやっと”した。
その顔が無言で語ってくる『さっき言った通りだったろ、ですぅ! 』と…
その顔に対し……心の底からのイラっとした。
俺はそんな楓を冷めた目つきで見続ける。すると、口角と目尻が徐々に下がって”しょんぼり”とした。
その姿を見て、なぜだか解らないが、自分の中の荒ぶる気持ちが消失していった。
手紙はまだ続いている、読み進めよう。
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そこそこ使える、未来の魔家電がプレゼントされたと思ってくれ。
こいつは、過去のテクノロジーを遥かに凌駕した『白物魔家電』だ。そして、未来の生活必需品だ。
魔家電について、簡単に説明しよう。
こいつらの動力は電気じゃない。魔波動のエネルギーを原動力として活動する。
魔波動はよくわかっていないエネルギーだが、科学の分野で応用され始めた。そして二つが融合して魔科学が新しく誕生したわけだ。
今はわからない事だらけだろうが、いつかわかるときがきっと訪れる。
それまで、がんばって生き残ってくれ。俺の話は以上だ。幸運を祈っている。
追伸
楓はかなり抜けているが、きっと、そのうち笑えるようになる。
メーカーのカタログでは”お茶目な妹”が組み込んであるそうだ。
だが、俺の手元にきた楓は、そんな可愛らしい存在ではなかったように思う。
おそらく転送の影響で、データの破損が起こったのだろう。少しばかり挙動が怪しいけど、優しい目で見てほしい。
そのうち、信じられない程の性能を発揮し始めるから平気だ。
そこだけは、壊れていないことを保証する。
尚、クーリングオフは効かないので大事に扱うように。
千丈蔭。
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手紙を握ったまましばらく動く事が出来なかった。
どのくらい時間経過したのだろうか? 視線を感じて目を向けると、俺の事を黙って見つめ続る楓がいた。
最新投稿は、Twitterで投稿時期をお知らせして行きます、ですぅ。http://twitter.com/yasusuga9