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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第壱章 白物魔家電との出会い
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白物魔家電との出会い

ついに、ご主人と初顔合わせをする、ですよぅ。

感動の出会いにうれしさ爆発、ですよぉ。


ここから始まる、白物魔家電の秘密や、楓の動向にくびったけ、ですぅ。

 帰宅した室内に平伏した状態の人物がいた。

 それは、白いブラウス、漆黒のフリルエプロンを着ている謎の存在。


 現状を整理しよう……

 ちょっと外出し部屋に帰ると、見覚えがないメイド服姿の少女が深々としたお辞儀をしている。


 これは、いったい何のドッキリだ?



 深々とお辞儀をしているので表情がわからない。

 もちろん誰かが訪ねてきている可能性など考えられないし、メイドさんがお部屋に来るサービスを頼んだ記憶はない。

 そもそも、未成年の俺がそのような出張を依頼できるはずがないだろう。


「おかえりなさいませ、ですぅ」


 完全に硬直している俺を解き放ったのは彼女からの言葉。

 それは、俺の帰宅を迎えるあいさつだった。聞こえてくるのは、甘ったるく、そして甲高い子供のような声。

 そして、一つどうしても気になる事がある。それは、語尾に”です”を一区切り置いて、発言した事だ。


 彼女はゆっくりと顔をこちらに向けて初めて表情を見せた。

 年の頃は10代前半。大きな瞳に顔の中心にある低い鼻、ぷっくりとした淡いピンクの唇、小さな口。

 それら一つひとつのパーツが、最適なバランスで小顔に収まっている。なぜだか、俺は人形(・・)と対峙しているような不自然さを感じる。


「……なんだ、お前。いったい誰なの?」


 深夜の不審人物に対して危機感のない発言かもしれない。

 だが、本当になんとなくだけど、こいつには危険な感じがしないのだ。根拠はないけど。


「楓のことぉ、でしょうかぁ? 覚えておられませんか、ですよぉ」


 なんだろう? すごくイラっとします。


「お前は一体何なんだよ。からかってるのか。…よし、おちょくってくるなら上等だ、警察呼ぶからちょっと待て」


「すみません、謝まったので警察はご勘弁ください、です。楓とお呼びください、ですよぉ」


 それは絶対に謝ってないだろう……

 いきなり名乗られても対処に困る。どうしたもんかな?


 俺は取り出したスマートフォンと、目の前の人物を交互に見てとりあえず……名前を呼んでみた。


「えっと、楓さんだな……」


「いえ、か・え・でぇ。ですぅ」


「いきなり呼び捨てを希望するか?」


「はい、ですぅ。楓がこれからずっとお仕えするご主人なの、です。水臭いじゃない、ですかぁ」


 ……なれなれしいな、こいつ。


「お仕えするだと……なんだそりゃ? それに、ご主人とは俺の事か。もしそうなら、そんな呼ばれ方は拒否する」


「そう言われましても……じゃあ、旦那様とお呼びさせていただきましょうか、ですぅ?」


「もっと嫌だよ!」


 本当になんなんだ? 存在を含め、すべてが意味不明だ。

 そもそも、こんな見ず知らずの存在から、ご主人と呼ばれるのはおかしいだろう? なにかの冗談なのか。


 俺は、楓とやらを、あらためて見つめた。

 こちらを見つめる続けるその真摯しんしな瞳をみると、冗談を言っているように感じなかった。


「呼び方はどうでも良いから、なんで俺の部屋に居るのかさっさと言え」


「今さっき着いたばかり、ですよぉ。うふふぅ」


「だからぁ!! なんで俺の部屋にいるのかって聞いてるんだよ!」


 初対面だけど、人をイライラさせる何かがこいつにはある。それは直感でわかるぞ。


「説明が足りず申し訳ありません、ですぅ。実は……」


「楓はこの時代に送られてきたの、ですよぉ」


「……はぁ?」


「ですから旦那様がぁ、ご主人様の未来のために私を贈ったの、ですよぉ」


「……」


 旦那様って誰なんだ?


「何故、ご理解いただけないの、ですぅ?」


「わかるかよ! えーと、なんだ、その旦那様とやらが、この俺に対してお前を贈り物として送ったと?」


「さすがはご主人様、ほぼ正解、ですよぉ」


 楓は拍手をしながらこちらを見つめている。

 バカにしているのかと思ったが、表情を見る限り大真面目だ。尊敬の視線すら伺える。


「……なあ本当に、お前は俺をからかっている訳じゃないんだな?」


「ご主人様に対して、からかうなど、とんでもないの、ですよぉ。あぁっ! そう言えばお手紙をお出ししておりません、でしたぁ。申し訳ありません、ですよぉ」


 お手紙? なんだそりゃ?

 悩む俺に対し、楓は胸元のボタンを1つ外す。そして、ブラウスの合わせ目から胸元に手を突っ込み、服の中を探し始めた。そして、そこから取り出した物は一枚白い封筒だった。


 しかし、何故そこに入れるんだ? ここから見てわかるエプロンにポケットがちゃんとあるだろう?


「ほんのサービス、ですよぉ。それでは、こちらをご覧ください、ですぅ」


 心を読まれた!?

 そして、手渡された封筒は妙に生暖かった……


 室内の蛍光灯に透かせて見ると中に手紙が入っているのが分かる。

 封筒を開けて中の便箋に目を通した。書かれている文章を見て、俺は背筋が凍る思いがした。


 手紙には文章が書かれている……それは当たり前のことだが。驚いたのは書かれている文字だ。

 どう見ても俺の字にしか見えない。だが、こんな手紙を書いた記憶はもちろんない。

 左利き特有の跳ねた字や、ざっとみた感じの文章の節々に、見覚えのある癖がにじみ出ている。極めつけは、手紙の最後に俺の名前。"千丈(せんじょう) (いん)"の署名があった。


 違和感を感じながらも、俺は最初からその手紙に目を通し始める。


 +++++


 拝啓 千丈蔭


 まあ、自分から過去の俺に手紙を書くのは初めてだ、落ち着いて読んでほしい。

 実は宝くじで50億円位当選したので、ちょっとお買い物をしてみた。

 魔家電まかでん量販店(りょうはんてん)で、購入したアンドロイドを過去の自分に送った。


 +++++


 なんだ!? この文章は?

 書いてある内容を理解できない。魔家電量販店? アンドロイド? 悪い冗談としか思えない。


 その時、俺を見つめる視線を感じ、横を向く。そこには首をかしげてじっとこちらを見つめる楓がいる。目が合うと、口角が上がって”にやっと”した。

 その顔が無言で語ってくる『さっき言った通りだったろ、ですぅ! 』と…


 その顔に対し……心の底からのイラっとした。


 俺はそんな楓を冷めた目つきで見続ける。すると、口角と目尻が徐々に下がって”しょんぼり”とした。

 その姿を見て、なぜだか解らないが、自分の中の荒ぶる気持ちが消失していった。


 手紙はまだ続いている、読み進めよう。


 +++++


 そこそこ使える、未来の魔家電がプレゼントされたと思ってくれ。

 こいつは、過去のテクノロジーを遥かに凌駕りょうがした『白物(しろもの)魔家電まかでん』だ。そして、未来の生活必需品だ。


 魔家電について、簡単に説明しよう。

 こいつらの動力は電気じゃない。魔波動まはどうのエネルギーを原動力として活動する。

 魔波動はよくわかっていないエネルギーだが、科学の分野で応用され始めた。そして二つが融合して魔科学が新しく誕生したわけだ。


 今はわからない事だらけだろうが、いつかわかるときがきっと訪れる。

 それまで、がんばって生き残ってくれ。俺の話は以上だ。幸運を祈っている。


 追伸


 楓はかなり抜けているが、きっと、そのうち笑えるようになる。

 メーカーのカタログでは”お茶目な妹”が組み込んであるそうだ。

 だが、俺の手元にきた楓は、そんな可愛らしい存在ではなかったように思う。

 おそらく転送の影響で、データの破損が起こったのだろう。少しばかり挙動が怪しいけど、優しい目で見てほしい。


 そのうち、信じられない程の性能を発揮し始めるから平気だ。

 そこだけは、壊れていないことを保証する。


 尚、クーリングオフは効かないので大事に扱うように。


 千丈(せんじょう)(いん)


 +++++


 手紙を握ったまましばらく動く事が出来なかった。

 どのくらい時間経過したのだろうか? 視線を感じて目を向けると、俺の事を黙って見つめ続る楓がいた。

最新投稿は、Twitterで投稿時期をお知らせして行きます、ですぅ。http://twitter.com/yasusuga9

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