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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検080

 夢を視ているのか……いや、観せられているのかな。誰にって? そうだな()いて言うなら、それは俺かな?


 記憶の奔流が、脳内のシナプスを駆け巡る。睡眠の間で海馬に溜まった一時記憶が、大脳皮質に移って長期記憶に変わっていく。その際に夢を視るらしい。

 ……そう教えてくれたのは誰だったかな?

 まあ、いいや。それより闇の中で黒い影を感じる。


 楓か?

 そう(いぶ)かしんで目を細めたが視えない。でも気配がまったく違うのに気づく。

 まぁ、こんなところに誰が……ん? なぜ俺は違和感を覚えるのんだろうか? わからん……


「ここは何処だ?」


 場所なんて関係ないか。たしか睡眠中で夢を自覚する事を、明晰夢(めいせきむ)というのだったかな?


「……ふぁあぁ……」


 それにしても強烈に眠い。

 まったく、俺は夢の中なのに、どれだけ寝る事に貪欲(どんよく)なんだろう。


「だめだぁ……もう少し……」

 

 意識が棒漠(ぼうばく)として、時間や前後関係が曖昧だ。大切な何かをしていた気がするが思い出せない。


「はぁ、なんですか?」


 目の前に立つ()()が手を伸ばす。反射的に握り返そうとすると座った状態の身体が引き起こされる。そのまま引っ張られてしまう。


『……さあ、行こう』


「何処に……ですか?」


『……しっかりするんだ。帰るべき場所は、もうすぐそこだ』


「帰る場所。えっと、どこにですか?」


『……君たちの……だ』


「はぁ? よく聞こえませんし、それより凄く眠いんですけど」


 しかし強引な夢だな。

 どうせ引っ張られるなら、素敵なお姉さんの方が断然嬉しい。が、本心は別なのかも知れない。俺は年上の男性に引っ張られたい願望でもあるのだろうか? だとしたらちょっと嫌だな。

 夢とは普段、表に出ない深層心理の感情が引き起こすと言う。フロイトだったかな?


『……君にはお礼を言わせてもらおう。ありがとう』


「えっと、なんの事です……か?」


 改めて男性を見ようとするも焦点が合わない。どうも、ぼんやりとだが洞窟のような場所を歩いているようだ。

 

『……君達は私のやり遂げられなかった事をしてくれた。そして、かけがえのない大事な人達を、()()から救ってくれた』


「えっと……何の事ですか?」


『……謙遜しなくて良いぞ』

 

()()って何ですか?」


『……起こりえる災害を未然に防いでくれた』


「はぁっ?」


 俺はなんて夢を見てるんだ?


『……この地下空間に(のこ)された装置の暴走が、街への大災害に繋がるはずだった』


「地下? 何ですかそれ? それに装置って何ですか?」


『……過去の遺物を君達は見たはずだ』


「い、遺物?」


 なんだこの変な夢設定は……?


『……旅館を覚えていないのかい?』


「ん? りょ、りょかんって、急に何を……」


 あれ?

 聞き覚えがある気がする。それも、つい最近…… ダメだ思い出せない。でも、大事な事だったような。


『……あれは誰も想像すらしてなかった。防衛装置も暴走を起こし黒いモノが溢れかえった。君達が退けた奴等だよ』


「く、黒い存在? 退けた……」


 なんだ? 俺は焦りを感じてるんだ。けど、その脳裏に浮かぶこの光景は……現実離れした景色は?

 溢れかえる黒い存在達に、濃密な高温蒸気……


 “ どんな状況でも諦めないで足掻くの、です。そう教えてくれたのは、ご主人じゃない、ですかぁ? ”

 

 あぁっ!?

 そうだ楓に俺が頼んだ。あいつは暴走し始めた装置に向かって……


 “楓は万能ではないの、ですよぉ。ただ、泳いで追いつくから平気なの、です。危ないので先に行って欲しいの、です”

 

 ……そう、だった。

 それで、俺は地上に向けて真っ暗な中を移動……


『……そろそろ時間のようだな』


 そうか、

 俺は誰かの助けを求めていたんだな。それが形で現れた。しかし長い夢だ。


「黒い存在を防ごうとしました。地下に向かったのは、それが理由です。そこで、()()は装置を見つけてしまった。黒い奴らが発生する防衛装置は……」


 頭上で熟睡する小尾蘆岐が頑張って止めてくれた。

 その後で、大きな白い化け物が現われて白楓が……


「しかし、よく寝てるな」


 力なく垂れさがった小尾蘆岐の細い腕が揺れていた。白楓は寝たまま脇腹にしがみついている。

 本当は後ろにもうひとつ存在があった。……だが、今はいない。


「それに、こいつらだけじゃなく、頑張ってくれた奴がいるんです」


 それは置き忘れてきた()()だ。さっさと回収しなくちゃいけない。その為に暗い通路を歩いてきた。

 きっとこの夢は、俺の焦りと、願望が観せているのだろう。そろそろ現実に直面する時間だ。

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