表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
111/115

楓湖城の探検076

「お前も能力を使い続けて、さすがに疲れただろう……悪いな」


 能力を行使し続ける小尾蘆岐に対して、(ねぎら)う言葉を掛けた。それに対する返事は……


「ちゃんと千丈から補給してるから、別に平気だにぃ。気分的に足りなくなった気がしたら、補給タイムだにぃ」


 ……実に曖昧(あいまい)だ。そして、元気いっぱいだった。


「まあ、俺は全然平気だから気にしないでくれ」


「当然、美味しく頂いているだにぃ」


「うなぁ……」


 ……白楓もだな。


 それは、少し前からだった。

 白楓と触れた部分から、力を吸い取る感覚が伝わる。これでもう、口に指を突っ込む必要がなくなり安心した。

 ……そもそも、この行為はあくまで緊急措置だったと言わせて欲しい。幼女の口に指を突っ込むような趣味嗜好など、俺は持ち合わせてない……と思う。

 ……そんな考えをしていると、白楓の頭が動いて顔がこちらを向いた。そんな感覚が伝わり、次の瞬間に声を発する。


「ああぁ……」


 思考を読んで、白楓が抗議してきた……

 ……のかと思ったけど、どうやら違ったようだった。


「ふむぅにぃ! その先に天井から伸びた岩があるみたいだにぃ。僕がぶつかるから位置を低くするにぃ。早くだにぃ!」


「はいはい……そう言ってたのね」


  ……あービックリした。


 その後も、時折発せられる白楓の声を案内にして、洞窟の奥へと足を進める。やがて、前に入った時と同じ広い場所まで辿り着く。

 ……だが、俺達の歩みはここで止まる事になった。



「くそぉ! うぐぐぅぅ……」


「……ねえ、どうしたにぃ?」


「扉が閉まってるみたいだ……」


「それって、奥にあったやつかにぃ?」


「……だと思う。こいつが開かないと、先には……すっ、進めねぇぇ……」


 洞窟の奥にあった両開きの扉。それが完全に閉じていた。

 そこにある僅かな引っ掛かりを掴む。

 なんとか開けようとして、懸命に力を掛け続ける。だが……


「だめだ。押しても引いても動かねぇ。おらぁ!」


 苛立つ感情を込めて蹴りを放つ。

 俺が出せる全力だったけど、それでも微動だにしなかった。


「なんでだよ? さっきは開いていたのに……」


 **


 物の輪郭すら全くわからない漆黒の中。

 片側の壁に手を添えながら歩き続けて、ここまでは来れた。


 どこまで進んだのか、途中でわからなくなる。

 ただ前に向かって、足を動かし続けるしかなかった。そして壁に沿って何度目かの方向変換をした時に、白楓が通り過ぎていると教えてくれる。


 そこで洞内の最奥で見た、扉の存在を思い出す。

 嫌な予感を感じながら、慎重に戻り始めて壁面を調べて行く。すると、岩の切れ目と違う材質、そこに垂直な溝があるのに気づく。

 続いて、あきらかに人工的な突起物に手が触れる。

 そこで扉が閉まっているのだと理解した。


 調べた扉には、通り抜けられそうな隙間などなかった。

 あるのは重厚な木材を繋ぐ、金属部分の僅かな突起だけだった。


 なぜ閉まっているのか悩む。

 そこで、ある出来事が脳裏に浮かんだ。


 ……それは、少し前の事だった。

 楓が制御装置を水で埋めるのに、洞内の一部を破壊した。そのとき発生した大きな揺れの影響で、閉まってしまった可能性が高い。……そう感じた。


「ちきしょう! これでどうだぁ」


 俺は続けざまに、大き目の岩を握りしめて振りかぶる。

 徒手空拳での破壊は諦めて、他の手段を試みた。だが、打ち付けた扉は壊れる様子はない。

 むしろ、手にした石の方が砕け、小さな破片と化して指の間からこぼれ落ちてしまう。


「……だめだ、やっぱり壊せない」


「ねえ、千丈? 扉を開けられないと……」


「外に抜けられないし。密閉空間に閉じ込められた状況だ。ここまで別の穴とか、分かれている場所なんてなかっただろう?」


「うげぇだにぃ……確かに一本道だったにぃ」


 入り口は崩落していて、地下空間に戻るのも不可能だった。

 そうすると、ここを通る以外に外部へ通じる道はない。ただ、それも行き止まりとなっている。

 残された最後の手段は……


「白楓に破壊を……それも、まだ難しいか……」


「そうだにぃね。そんな力は、とても出せないにぃ」


「うなぁ……」


「いいから、まだ無理するなよ」


 俺の声を聞いた白楓は、動こうとしてもがき始める。

 だけど腕に少し力を入れただけで、抜け出せない。


 こんな状態では、とても破壊など出来る訳がなかった。

 だけど、扉を壊せる可能性は、圧倒的な膂力(りょりょく)を持つ存在に頼るしかない。

 ……それも、今は望めなかった。


「あとで力を取り戻した白楓に、破壊してもらわないと進めないか……」


「……そうだにぃね」


「うなぁ……」


 俺はその場に腰を下ろして座る。

 動かない扉を背にして寄り掛かった。


 ここに来るまで、ほとんど休息をしなかった。

 腰を落ち着けると途端に疲労感に包まれる。自然と、瞼が重くなってきた。

 小尾蘆岐の能力でいくら癒して貰っても、疲れは蓄積しているようだった。


「ここは熱すぎないし、寒くもないな。おまけに静かだ……」


 ……俺はそう呟く。

 だんだんと意識が漠然としていった。


「そうだにぃね。ずっと駆け続けていたにぃ。千丈は……」


 ……お前は、ほとんど頭の上だったな。

 ふぁあぁ……


「少し休んでるから、その間に白楓の治療を頼む。終わったら、白楓に働いてもらう……しかないな……」


「うなぁ……」


 返事を行う白楓を撫でる。

 ……後で頼むな。そんな気持ち込めると、ちゃんと伝わったようで、俺の胸に寄りかかっておとなしくなった。


「千丈は、休んでいてだにぃ。僕は白楓ちゃんの治療を続けるにぃ」


「あぁ、頼むよ……」


「悪いけど、ひとつ聞いていいかにぃ。なんで千丈はここが地上と繋がっていると思ったにぃか?」


 そんな質問を小尾蘆岐から受ける。

 ……そういえば、ここまで来て制御装置に引き返した。

 根拠の説明をしてなかったのを、思い出して口を開く……


「理由か。……そうだな。前に来た時、ここで黒い塊を踏んだんだ……」


「黒い塊?」


「そう、正確には降り積もって小山になった場所を踏んだ。そこに昆虫の脚とか、バラバラになった部位があった……」


「……でも、ここの地下空間では、虫を見かけなかったんじゃないのかにぃ?」


「そうだな。気がつく範囲で、大きな虫を一匹も見かけなかった。だから、ここにある理由を考えると、外部から持ち込まれたと考えるのが自然だろ」


「……にぃぃ? 虫が外から迷い込んできたのかにぃ?」


「それは違う。もしそれだと一塊(ひとかたまり)になっている説明が付けられないだろう」


 迷い込んだなら、もっとバラけている。

 洞内の至る所にある筈だった。だが、それを一度も見てはいない。

 そこで答えに悩んだ小尾蘆岐の代わりに、白楓が声を上げた。


「なぁあぁ……」


「白楓はなんて言ってるんだ?」


「……ふむ、なるほどにぃ。動物がやったと言ってるにぃ! ……でも、どんな?」


「なぁあぁ……」


「あはは、わかんないにぃね。僕と同じだにぃ!」


 今の白楓の発言は、わからないという意味だったようだ。

 まったく同じに聞こえるけど、違いは細かい発音だろうか?


「……まあ、半分正解だな。おそらくだけど、上に蝙蝠(こうもり)が住み着いていたのだろう。その(ふん)が溜まったと推測した」


「それは、この上に今でもいるのかにぃ?」


「さぁな? もう、いないかもしれない。ただ過去にいた事だけは確実だ。そして、外部と通じていたからこそ足元に昆虫の未消化部分が積もっていたんだ」


「なるほどだにぃ。外部で捕食した(昆虫)が、ここで糞になったにぃね。それで外と通じていると、千丈は判断をしたんだにぃね」


「……そういうこと……だ」


 そこまで説明して、眠気が限界に達する。

 今の時間はわからないけど、きっと深夜になっているだろう。


 抱きしめている白楓の体温が、実に心地よかった。温もりを感じつつ、目を閉じると急速に意識が持っていかれる。


 ……深い闇へと沈んでいく感覚が訪れて身を任せる。

 消え入る意識の最後に声が聞こえた気がした。

 ……それは覚えのないここにいない誰か……だった。そこで、俺の意識は完全に途絶える……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ