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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検075

「今度ふざけたら、マジで置き去りにするからな」


 小尾蘆岐がいるだろう位置を予想して声を掛ける。


「せっ、千丈ぅ……どっちだにぃぃ?」


 すると小尾蘆岐は、洞内で反響する声に混乱して明後日(あさって)の方向に向かい始める。徐々に離れていく感覚が伝わった。

 ……ちっ、面倒だな……


「うなぁ……」


 そう思ったタイミングで白楓が声が上がる。

 それを聞いた瞬間に反転して、一直線に近づき始めた。這いずる際に出る音が大きくなってくる。

 ……何故だ! なんでわかった?


「ありがとうにぃ。場所をちゃんと教えてくれてにぃ……」


 どうやら白楓が送った合図は伝わるようだ。

 ……ほんとうに、あれでよくわかるな。


 この小さい存在同士は、ちゃんと意思の疎通が出来ている。

 疎外感を感じているのは、俺だけなのだろう。

 ……そんな事を考えていると、小尾蘆岐が足に縋り付いてきた。


「千丈、発見だにぃ。もう離さないだにぃ!」


「なあ? そこにくっつかれると歩けないんだが……」


「また僕を置いて行く気だにぃ! 絶対に離れるもんかにぃぃ」


 ……ふむ、反省の色がないようだな。

 試しに脚を動かしてみる。ちょっと重たいが、問題なく歩けそうだった。

 ……よし、これなら行ける。


 小尾蘆岐を足に装着した状態で、奥に向かって進む。

 引きずっているけど、俺は気にすることなく歩き続けた。すると小尾蘆岐が騒ぎ始める……


「こらぁ! この人でなしにぃ。引きずるのは止めるだにぃ!」


「だから、歩きにくいって。離れて隣を歩けばいいだろう?」


「いぃぃ、嫌ぁだにぃ……」


 ……楓か?


「……じゃあ、どうすればいいんだよ?」


「腕を組んでくれるなら、歩いてもいいだにぃ」


 ……それは嫌だな。


「白楓を抱えているから却下だ。お尻がすり減るだろうけど、たいしたことないだろう? 自分で治療しろよ」


「僕が傷物になるだにぃ。責任を取ってもらうにぃ!」


「責任? ……お前は八百屋の果物なのか」


 ……商品の傷みを理由にして、買い取りの要求をしてくるなど恐ろしい。この悪魔店長め……


「僕の肌は桃より繊細なんだにぃ。だから、責任を取るのは当然だにぃ!」


 ……あぁ、そうですか。……って、知るかぁ!


「どうせザックリいったって綺麗に治せるだろ。いいからさっさと離れろよ。……そもそも、さっきだってどっかに行ったのはお前だろうが。俺は()()()ないんだぞ」


 数歩分だけ下がって、位置を気取られないように黙っていたのは言わないでおこう。

 ……別に嘘はついてない。


「うぅ……詭弁(きべん)だにぃ!」


「それは違う。これは詭弁ではない事実だ。ちゃんと言葉の意味を把握して話せ」


「うぐぅ………」


 反論の出来なくなった、ショボい魔女は黙り込んだ。

 ちなみに詭弁とは、相手を欺く虚偽の論法の事である。

 ……うん、事実を()()()、都合の良いことだけを言う。これは詭弁でしたね! てへっ。


 これで少し静かになるかと思ったけど、結局キレ気味になって叫び始めた。……けっ、乱暴者が。


「そっ……そんなことよりぃ! いい加減に歩みを止めるだにぃ。繊細なお尻が摩擦で、あっちっちなんだにぃ」


「だから、手を離せば良いだろうが。それで解決だ」


「置いていかれるのは、本当に嫌なんだにぃ……」


 ……この、寂しがりやめ。


「わかったよ。置いていきません」


 はぐれた場合は、不可抗力ということで……


「意図せず、置いていくのもなしだにぃ」


 相変わらず勘が鋭い。

 こいつは、俺の表情を見て判断しているような事を言ってたけど、こんな暗闇の中でも把握が出来るのだろうか?

 まったくもって謎だな……


「返事がないだにぃ……」


「あぁ、わかったよ……」


 仕方なしに、その場で立ち止まる。


「じゃあ、よいしょっとだにぃ」


 すると立ち上がって、リュックをよじ登り始めた。そして、いつも通りの位置(かたぐるま)に収まる。


 小尾蘆岐はご満悦のようだ。

 表情は伺えないけど、わかってしまう。慣れって凄い。視覚に頼らずとも支障がない。

 ……実に普段通りだった。


「やっぱり、そこに落ち着くのか……」


「僕の定位置だにぃ!」


 これ以上の言い争いは時間の無駄だ。そう考えて歩き始める。

 すると白楓が声を上げた。


「うなぁ……」


「ふむだにぃ! 千丈その先で、洞窟が左側に曲がっているにぃ」


「はァっ? なぜわかるんだ」


「白楓ちゃんが、教えてくれるにぃ」


 ……見えてるんだ。伊達に赤い眼をしてない。

 楓ばりに感知できない何かが見えているようだった。そして、小尾蘆岐の翻訳スキルが上達している。

 ……いつの間にレベルアップしたんだ?


「うなぁ、あぁ……」


 もう一度叫ぶ。だけど、小尾蘆岐が黙っているので、何を言ってるのか理解できない。

 ただ翻訳をしないので、緊急性のない事だろう。そう思う事にして……


「ありがとうな。教えてくれて」


 とりあえず褒めて。頭を撫でる。


「うあぁ……」


「なんで誉めるにぃ?……」


 そうすると白楓は嬉しそうに、身体を擦り付けてくる。

 ……小尾蘆岐の反応を聞くと、俺の返答は見当違いだったようだ。

 ……だが、どうでもいい。


 白楓の掴まる力はだいぶ強くなってきたが、自力でしがみついてはいられないようで、俺が押さえていないと落ちそうだった。

 ……完全回復には、まだ時間がかかりそうだな。


「なあ。白楓の体は、どのくらいで治るんだ?」


「さすがにあれだけの怪我は簡単には治らないにぃ。もうしばらくかかるにぃ。……あとは骨芽細胞(こつがさいぼう)が骨形成を終えれば、ある程度の力が出せるはずだにぃ。今暴れると、ぐちゃぐちゃになっちゃうにぃ」


「よくわからんけど。俺の骨折は、すぐに治ってなかったか?」


「損壊状況が違うにぃ。千丈は生きた組織が断裂したにぃ。死んだ細胞は僅かだにぃ。対して白楓ちゃんは、大半の組織がダメになっていたにぃ。一度その細胞を分解して再構成する必要があるにぃ」


「そりゃ、大がかりになりそうだな……」


「そうだにぃ。固まる前の粘土と、硬化した後の粘土をイメージして欲しいにぃ。柔らかい状態なら、形が崩れてもすぐ整形できるにぃ。だけど硬化した粘土は、崩壊すると簡単には直せないにぃ」


 ……割れて波打った部分(死んだ細胞)整形(取り除いて)して、新しい粘土(細胞)で形を再造形する。再び硬化する前に動かせば、固い部分を残して分解してしまう……そう小尾蘆岐は話した。

 

 それを聞いて、白楓の負担を軽減するべく、腕を回してしっかりと抱きしめる。

 ……あともう少しの辛抱だからな。

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