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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検074

 どのくらい、その場でじっとしていたのだろう?

 数分とも、数十分とも感じる時間が経過して、沈黙は白楓の声で破られる。


「うぁぁ……」


「白楓ちゃん、どうかしたにぃ? ……あれっ、音がやんだにぃ」


 体の奥へ響くように聞こえ続けていた音が聞こえなくなっていた。いつの間にか揺れも収まっている。

 そこにあったのは、本当の静寂だった。


「崩壊が止まった? ……終わったのか」


「そうみたいだにぃ。……ねえ千丈、これからどうするだにぃ?」


 どうするか? ……そうだな、ここにいても楓が来るわけがない。

 この大量の土砂が隔てる向こう側にあいつはいる。今の俺達は、どうすることもできない。

 ここにじっとしていても仕方が……そうだ。


 一度地上に戻って旅館まで行ければ、さっきの地下空間に降りられるかもしれない。

 そう考えれば早く行動に……あれっ?


「うぇえ……なんだか明かりが薄暗くなってないかにぃ?」


「……なあ? 動力源は制御装置の中だったよな。もし稼働しなくなると……」


「……あうぅあぁぁ」


 白楓の上げる声は、なにを伝えたいのか理解ができない。だけど……小尾蘆岐が翻訳してくれる。まさに、その通りとなった。


「白楓ちゃんは、照明(あかり)が消えると言っているにぃ!」


 そう喋るのと同時に、洞内を照らしていた明かりが完全に消失する。

 ……なんてこった。


「……なあ、踏んだり蹴ったりだな」


「そうだにぃね。でも、これで動力源が完全停止したということにぃ。もう爆発の危機は……」


「なくなったのか……」


 ……あぁ、やり遂げてくれたんだな。


「おとうさん、……もう安心だにぃ。ありがとう楓ちゃん」


 小尾蘆岐の言葉を聞いて、本当に良かったと思う。

 ……残すは楓をもう一度迎えに行くだけだ。それで帰ろう。あの街に……


「うぁあぁ……」


 帰ろうと考えたら返事があった。

 ……こいつも俺が考えていることをわかるのか? それとも野生の勘だろうか。まあ、好きに解釈すればいいや。


「よし、白楓も帰ろうな。俺の部屋は狭いから覚悟しとけよ」


「うなぁあぁ……」


「楽しみだと言ってるにぃ!」


 ……こいつマジで凄いな。


「なあ、小尾蘆岐? 本当に白楓が言っていることがわかるのか?」


「わかる…… 気がするにぃ。そう解釈をしているだにぃ」


 ……なんだ、山勘(やまかん)か。

 それでも間違っている気がしないのが、不思議な感覚だった。

 ……おっ?


「うあぁ……?」


「急に来ると、びっくりするだろう……まあ、別にいいけど……」


「ふあぁ……」


 白楓は満足げな声を発しながら、胡坐(あぐら)をかいている膝の上に乗る。

 俺は、そのまま抱えるようにして立ち上がった。小尾蘆岐も横で立ち上がった気配がする。


「しかし、何も見えないな」


 完全な闇の中。

 これでは、目を開けている必要性がまったくない。

 閉じていようが、開けていようが同じだった。


「完全に光源がない状態だにぃ。月のない夜でも多少の光が地面で反射するから、感覚を鋭くすれば見えるけど、こうなるとさすがにだめだにぃ。たとえ増幅式の暗視装置があっても役に立たないにぃ」


 ……そう言えば小尾蘆岐の能力が発動しているときは、かなり良く物が見えていた気がする。

 もう一度、懐中電灯のお世話になるとは思わなかった。


「じゃあ、懐中電灯を使おうぜ」


「千丈が背負ったリュックの横に入っているだにぃ……今取り出す……にぃぃ?」


「どうした?」


「えっと、な……ないだにぃ……? あれぇ逆だったかにぃ……」


 確かに入れたはずだと呟いて、小尾蘆岐は探し続けた。

 背中のリュックが揺れる感覚が伝わる。だが、しばらくすると、溜息が聞こえてきた。


「はあ……どうも途中で落ちたみたいだにぃ。これだけ探しても見つからないから、たぶん、そう言う事だにぃ……」


 ……さて、困ったな。

 右も、左もわからない漆黒の中。ライターでも、マッチでもいいから、光を発する物が無いと、この先どうしようも……あぁ、そうだ……


「スマートフォンのバックライトを使えば……」


 ポケットから取り出して電源ボタンを押すが、明かりが灯る気配はない。

 壊れてしまったのか、電池切れなのか判断ができなかった。


「電源が入らないぞ。小尾蘆岐の……」


「……僕のもダメだにぃ。いったいどうしてにぃ?」


 ……この手段は駄目か。

 どうやら高温蒸気の影響で、壊れてしまったのかもしれない。


「代わりになるものを、リュックサックに入れてないのか?」


「うにぃ? ……かわりにぃね……」


 小尾蘆岐がそう呟くと、再びリュックに手を突っ込んだ感覚が伝わる。

 待つことしばらくして、なにか取り出した。そして、大声を上げる。

 どうやら取り出した物を、高々と(かか)げている気がする。見えないけどわかるのが不思議だった。でも、よかったこれで……


「ライト交換用のバッテリーが、あっただにぃ!」


 ……電池だけあってもだめじゃん!

 それを聞いて、音を出さないように細心の注意を払って後退(あとずさ)りする。

 すぐに背中が壁に触れて、腰を落とす。

 白楓の頭をそっと撫でながら、声を出さないようにそっと口を塞ぐ。


「これさえあれば、なんてにぃ! …………うにぃ? ……せっ千丈、どうしただにぃ?」


「……」


 ……ボケが。ふざけやがって。


「ちょっ、ちょっと何処だにぃ? ……冗談はやめるにぃ……ねえぇぇぇ?」


 辺りを動き回る小尾蘆岐の挙動がわかった。

 どうやら四つん這いで動いているようだ。その音は、どんどん離れて行く。

 ……さて、どこに行くのかな?


「冗談はやめるにぃ……ねぇ? ……ぎゃあ! 痛ったいぃだにぃぃ……うぐぅぅぅ……ぐすっ、うぅぅ」


 ……ふむ、ちょっとは反省したかな?

 焦って動き回って、壁に衝突したようだった。凄く良い音がここまで届く。

 ……しかも泣き出したようだな。


 モゾモゾと白楓が動いているのは、小尾蘆岐を心配しているのかもしれない。

 ……さて、もういいか。

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