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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検073

「やばいぞ。掴まってろよ!」


「うあぁぁあぁぁ……」


 駆け出した瞬間に白楓が外れる。

 空中に浮き上がって斜面を落ちかけた寸前で足首を掴む。そのままの態勢で入り口を目指す。

 ただ、こんな不安定な状態はバランスが非常に悪い。


 このままでは崩落が到達する前に、入り口まで辿り着けそうになかった。


「痛ったぁあぃぃだにぃ!」


 大小様々な小石が降り続ける。

 頭上を占拠している小尾蘆岐が被害を受けて、悲鳴を上げた。


「我慢しろ小尾蘆岐、白楓を頼む……」


「にぃぃ! 白楓ちゃん」


 小尾蘆岐は手を伸ばして、白楓の足首をしっかりと掴んだ。

 そのまま引き寄せて俺の後ろに納まった。


 小尾蘆岐の両足は、俺の首にしっかりと組み合わさって姿勢を安定させている。

 ……よし、これならもう大丈夫だ。


 俺は空いた両手と両足を使って、崖を駆けあがる速度を上げる。顔に小石や砂が当たるけど、気にしている場合じゃない。

 入り口に向けてがむしゃらに登り続けた。


 巨石は粉塵の中で、半身を隠しながら転がり続ける。

 もはや間に合うかどうかの判断がつかなかった。だけど、諦める訳にはいかない。

 残り少ない時間で見つけた、唯一の脱出路だ。他を探す余裕など最早ないだろう。

 ここに辿りつけなければ脱出の道は閉ざされる。


 力を込めた全身から冷や汗が(ほとばし)り、意識が吹き飛びそうなほど頭に血を上らせる。

 ただひたすら入り口を目指し、姿勢を低くしたまま舞い上がる砂塵の中を突き進んだ。


「小尾蘆岐ぃ、頭を低くしろぉぉ!」


「だにぃぃ……」


 入り口目掛けて、粉塵の中へ突っ込んだ。

 視界が茶一色に包まれるも、それはすぐ突き抜けた。洞内に飛び込みこんで、地面に身体をしこたま打ちつける。

 その直後に入り口を囲う四角い岩が崩れた。衝撃が起こって弾き跳ばされる。


 風圧をまともに受けて、洞内を転げ回る。

 小尾蘆岐と白楓が、俺から離れて、前方へ転がっていくのが見えた。

 

 なんとか斜面の崩壊が到達する前に、内部へと避難することに成功する。

 勢いが収まってから、両手をついて上半身を起こす。そして入り口を振り返りながら転がった二人に向けて、声を掛けた……


「ふう、なんとか間に合ったな。へい……」


 最後まで話す余裕はなかった。

 崩れた入り口付近から、不気味な音が響いてくる。それは、天井に幾筋もの亀裂が入った事を知らせる警告音。

 一気に頭上を破滅の線が追い越していく。奥に扇状に広がりながら伸びていった。

 端からは崩落の連鎖が始まる。


「くそっ! 小尾蘆岐ぃ?」


「うあぁ……」


 下敷きになった白楓の声は聞こえるが、意識を失ったのか小尾蘆岐からの返事はない。

 すぐに駆け出して、白楓と一緒に脇に抱えて転がった。


 直後、その場所には崩れた天井の一部が落下した。大小様々な破片を舞い散らせながら砕ける。

 間一髪で下敷きは免れた。

 ……だが崩壊の連鎖は続いている。すぐ起き上がって駆け出す……


「頼むから起きてくれぇ……」


 当然、意識を無くした小尾蘆岐の能力は発動しない。

 普通の男子高校生が、いくら小さいとはいえ、二人分の重量物を抱えて走るのは無理がある。


 それに薄暗い洞内は平坦ではなかった。

 足元を見ている余裕はとてもない。大きな突起が無いのがわかっていても、このままだと小さな段差で蹴躓(けつまず)く可能性が高かった。


「崩れるのは止めてくれぇ……生き埋めはごめんだぁ……」


 嫌な死因第一位は水死だ。だけど、圧死もごめん被りたかった。

 死を前にすると、人は火事場のクソ力が出るとはよく言ったものだ。ガクガクと震える脚でも、速度を保つことが出来ている。だけど……限界は近い。


「ふぁあぁ……」


「はぁはぁ……応援……ありがとう。なぁ……頼むよ、小尾蘆岐を起こしてくれぇぇぇ……」


「うあぁ、いぃぃ!」


 白楓は小尾蘆岐の顔を叩き始める。

 掴んだ手を伝わる振動で、そうしているのがわかった。

 ……だけど目を覚まさない。


「おいぃ、小尾蘆岐ぃ! さっさと起きないと……ぶっ!」


 拳大の岩が脳天を直撃する。

 目の前に火花が散るとはこの事だった。視界が強制的に下方へスライドし、一瞬だが真っ暗となる。

 意識が吹き飛びそうになるも、脚の動きを止められない。つんのめりながら走り続ける。

 ……そこでやっと待望の声が聞こえた。


「……いたぁ……だにぃ……」


「うあぁ……」


 やっとお目覚めの小尾蘆岐から声が上がった。

 安堵した白楓の声も聞こえる。すかさず俺は叫ぶ。


「こっ小尾蘆岐ぃぃ、……も、もう限界だ……」


「はっ、なにごとだにぃ!」


 すぐに小尾蘆岐の能力が発動。

 手足の虚脱感が消失して、力が込められるようになった。巻き込まれつつあった崩壊の渦中から抜け出し始める。


 速度が上がって、立ち込める粉塵は目に見えて薄くなった、洞内の明かりがはっきりと感じられるように変わり、崩れてくる岩の一つひとつが認識できるようになる。避けながら駆け続けた。 


 やがて崩壊の連鎖は、入り口から数十メートルの地点で止まる。

 最後の崩落を避けると、明かりの灯る洞内で立ち止まることが出来るようになった。だが、ここまで来ても制御装置のある方向からは、くぐもった音と、振動が伝わってくる。


 ……本当に大丈夫なのだろうか?

 こんな状態は水蒸気爆発と変わらないのではないだろうか? ……そう思った。

 そしてダムが無事だと良いのだが、俺がそれを知る術などない。

 それに取り残した存在が脳裏に浮かぶ……


「くそっ! このままだと楓が……」


 崩れた瓦礫に取りついて、手近な石を持ち上げる。

 かなり乱雑に積みあがって、ひとつを動かすと上部からは新たな崩壊を招く。

 これでは崩落箇所を取り除いて、戻る事は不可能だった。


「駄目だにぃ……どんどん崩れて……」


「なんとか……くっ、そおぉぉぉ……!」


 俺の叫び声が洞内に(とどろ)いて、反響しながら小さくなっていく。

 耳に入るのは、崩れた奥から聞こえてくる破壊音のみ。

 岩を掴んだまま握りしめて、崩落した壁を見続ける。


 小尾蘆岐と白楓は横に座ったまま動かなくなった。

 誰も喋らない時間が訪れる……


 ……待ってれば追い付くんじゃなかったのかよ?

 ……なぁ楓、これからどうすればいいんだ。ここにいるのは俺達だけじゃねぇか。お前も一緒に帰るんじゃなかったのかよ?

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