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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検067

「うぅ、まんま洞窟だにぃ。カマドウマがいそうだにぃ……」


「そういえば、ここでは虫を見かけないな。……えっと、それって蟋蟀(コオロギ)みたいなもんじゃないのか、仲間だろ?」


 ……別名は便所コオロギだ。暗くて狭い場所を好む。

 洞窟の天井などに数百匹単位で張りついて、長い触覚を動かす。見る者に相当な恐怖体験を植え付ける虫だ。

 ……そんな想像をしていると、頭上の小尾蘆岐が暴れ始めた。


「僕はあんな虫じゃないだにぃぃ。名前も漢字が違うだにぃ!」


 そんなことわかって……って、おいぃっ! 頭髪を引っ張るなぁ。


「大事な友達(かみのけ)が減っちゃうだろうが、髪の毛はマジで止めてください。小尾蘆岐(こおろぎ)と同じ読み方だから、からかってみただけだって」


「二度と言うなだにぃ! ……ちなみに頭髪を増やすのも、減らすのも自由だにぃ……僕のご機嫌はとっておくべきだにぃ」


 ……それは、実に夢のある話だな。

 その時が訪れたら頼もう。父親を見ていると焦りを感じてしまう時がある。

 さて……


「よし、そろそろ中に入るぞ。さっき流れてきた蒸気の影響も少なくなっただろう」


「……そうだにぃね……はぁ」


 どうやら、ため息をつく様子を見る限り、虫がかなり苦手なようだな。

 今度から常に携帯しておこう。実に名案だ。


 そんなことを考えながら洞窟内部に入る。

 そこは高温の蒸気が通り抜けた影響で、かなりの熱気を感じた。だが、火傷を負うほどの熱量ではない。

 そのまま奥へと足を進めた。


 ここ地下空間は、制御装置の内側から発生する熱で、全体的に気温が高かった。

 洞穴も熱気が流れ込み続けているせいで、奥に進んでも涼しさを感じない。


「どこまで続いているのかにぃ?」


「さあな? 楓がいれば方角と深度がわかるだろうけど、俺にはさっぱりだ」


「楓ちゃんに頼りっきりだにぃ!」


「仕方がないだろ、それが楓の性能だからな」


「性能?」


「細かい事は気にするな……」

 

 本当に外部に通じているか不安を感じつつ、足を進める。

 その足下は(つまづ)くような大きな突起は削られて、歩く際に支障はない。

 ……どうやら自然の洞窟を改修をして、通路にしたようだった。


 歩く続けると、少し広い部屋のような場所に辿り着いた。

 ただ部屋といっても、ちょっと壁が窪んで、通路が大きくなった程度。


「ずっと空気の流れを感じる。どこかに繋がっていると考えて間違いなさそうだな」


「そうなのかにぃ? よくわかんないけど、千丈がそう言うならきっと合っていると思うにぃ。それと、ここはなんだにぃ?」


 ……うーん、なんだろう?

 さっきは部屋に感じたけど、どうやら少し違うみたいだった。

 通路は少し先で元の大きさに戻っている。

 目を凝らして見たときに気づいた。その両端には扉が設置されている。床には半円状の溝が扇状に続いていた。


 その扉の色合いは周りの壁とまったく同じで、薄暗い洞内では注意をしていないと見逃しただろう。

 ……しかし、なんでこんな所にあるのだろうか?


「ここが地下空間の正面玄関だったりして?」


 ……ドアチャイムはないのかな?

 などと冗談半分で考えて、見回すが扉以外に何もなかった。

 

「じゃあ、旅館側は勝手口なのかにぃ?」


 ……規模のでっかい民家だな。

 見上げる上部は、暗い開口部となっていて天井は見えなかった。だが、声がすぐ反響している。それほど高くなさそうだ。

 ……ふむ。


「まあ、入口だとすると、そうなるのかな? 来客を迎えるにはちょっと寂しい玄関だけど……さて、もう少し奥を……」


 その時、足裏が何かを踏んだ。

 軽く砕けた感覚に慌てて足をずらした。すると、その下にあったモノが視界に入る。


 ……それは黒く小さな塊だった。

 それらが集まって小さな小山を形成している。よく見ると床の至るところに点在していた。その一つを踏んでいた。

 ふむ、なるほど……


「よし、小尾蘆岐。この先はもういいから制御装置に戻るぞ。そろそろ楓が、白楓を連れて戻っているだろう」


 残り時間はだいぶ少なくなってきている。

 それに最悪の場合。この扉を閉めれば爆風を幾許(いくばく)かでも防げるだろう。

 そのぐらいしっかりした造りをしている気がした。


「そうだにぃね。白楓ちゃんが無事だといいだにぃ」


 小尾蘆岐の同意を得て、外部に通じる道を地下空間に向けて戻り始めた。


 未知の場所は進むより、戻る方が圧倒的に早い。

 (わず)かな時を置いて入り口まで戻る。すぐ制御装置を見渡せる(ふち)に辿り着いた。

 その内側は、相変わらずの蒸気に包まれて、様子を伺えない。

 ……だが、なんとなく薄くなっているように感じる。


「さっきより蒸気がちょっと減ってないか?」


「減っているというより、蒸気が薄くなった感じがするだにぃ。そして、熱っちいぃぃ、にぃぃ……」


 そう、洞穴に入った時と比較して、明らかに体感温度が上がっている。

 流れ出した汗は、一段と激しさを増す。

 危険な状態だと直感が訴えてくる。


「おおーい。楓ぇ、どうだぁ?」


 中心に向かって大声で呼びかける。だが、反応はなかった。


 内部に向けて意識を集中させる。 

 俺は力の流れが見えてきた。この中で濃度の差を見分け続ければ、必ず違いがあるはず。

 それを……見極める。


「楓と別れてどのくらい経ったのかわかるか?」


「二十分ちょいだにぃ……」


 もうそんなに経過したのか。

 そう考えるとリミットは三十分ぐらい……急ごう。


 蒸気は濃度の高い力を含んでいる。だが密度に差がある。

 違いがある場所はどこなんだ……違和感を見つけろ……


 視点を広く、全体を眺める。

 ……低い場所になにか惹かれる気がして視線を下げた。目を凝らして見つめる。

 力の流れが、かすかだがゆがんでいる場所がある事に気づいた。

 それは楓なのか、俺の視力では判断できない。

 ……だがきっとそうだと、微かな繋がりを感じる。……助けを呼んでいる気がした。


「小尾蘆岐見つけたぞ! 悪いがここで待っていてくれるか? ちょっと迎えに行ってくる」


「残念だにぃ! 僕はここを離れるつもりはないにぃ。さっさと行くだにぃ」


 全くこいつは本当に……


「頼りにしているぜ。ちょいと熱いけど我慢しろよ」


 頷く感覚を頭上に感じながら、斜面を飛び降りた。

 暑さも小尾蘆岐の能力で制限をされている。それでも体感的にかなりの熱気を感じ続ける。

 目前の光景はゆがんで、かなりの高温状態になっていた。


 腕で顔を覆いながら進む。

 沸き上がる蒸気の壁に近づくにつれて、皮膚に突き刺さるような感覚を感じる。その皮膚は真っ赤に変わっていた。

 より姿勢を低くしながら、這いつくばるようにして移動を行う。

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