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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第三章 楓湖城の探険
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楓湖城の探検066

 制御装置は半円形の窪地最奥部、中央壁側にあった。

 窪地全体の大きさは、大体の目測で数百メートル以上。

 

 ただ、今は白く全体を覆い尽くす高温の蒸気により、全体像の把握は出来ない。当然、そんな中の横断はできないので、右側か左側、どちらかの壁面を選ぶしかなかった。


 日本人に多いのは、左を選ぶ傾向が強いと聞いた事がある。


 それは車が道路の左側を直進する理由だったような、武士の刀とぶつからないよう左側を歩く習慣が名残りだとも、聞いた気がした。

 ……真偽は不明だけど、ご多分にもれず俺もそれに従う事にしよう。


 向かっている最中に、時折高熱の蒸気は斜面を乗り越えて流れてくる。

 うっかり突っ込んでしまわないように注意しながら、壁の近くまで辿り着く。壁面を見上げる……


「うーん、穴が無数に開いてるんだな……」


 そこには岩の切れ目や、四角く縁取りされた人為的な入り口など複数あり、総数は見える範囲でも、かなりの数に(のぼ)る。全部を調べている余裕はとてもない。

 ……どうすっかな?


 じっと見ているだけで、出口が見つかる筈はない。

 しかし、このような状況で焦って選ぶと、必ずハズレを引く自信が俺にある。

 ……えっへん!


「なんで急に胸を張っているのだにぃ? また変な事を考えているにぃ……」


「気にするな。……よし、お前の勘が鋭いのはわかった。どこがいいか選べ。選び放題だぞ、よかったな。……あと、間違えたら全員死ぬぜ。あはは!」


「ふっ、ふざけるなだにぃ! なんで、ここにきて僕に選ばせるだにぃか。……うぅ」


 小尾蘆岐の視線が壁面をせわしなく移動する。だが、決定できる場所は見つからない様だった。


「うぅ……やっぱりわからないだにぃ……」


 ……そりゃそうだろうな。

 当てずっぽうに言わないところが実にこいつらしい。

 では、脱出路の条件だ。


 ひとつ、人が充分に通れる大きさである。

 ふたつ、外部と通じている可能性が高そうな()()が認められる。


 とりあえずは、この二つに絞る。

 そう考えると、まず人が通れそうな大きさは、見えている範囲で半分ぐらい。そして、外部と通じているかについては、さっぱりだな……


「せっ、千丈ぉぉ、危ないだにぃ!」


 沸き上がる蒸気の一部が、斜面を登って向かってくる。

 いち早く気付いた小尾蘆岐が、警戒の叫びを発した。


「おおっ、いぃっ、ぃぃ……」


「ぎにゃぁあぁあぁぁ!」


 蒸気の速度は想像以上だった。

 瞬時に巻き込まれて、視界が真っ白になる。横に転がって難を逃れた。


 ほんの数秒の出来事だったのに、触れた皮膚は真っ赤に変わり、熱傷を負ってしまう。だけど痛みは感じない。

 ……暑さは感じるけど、不思議だな。


「わりぃ、大丈夫か!」


「うぅ……熱かったにぃぃ。なんとか平気だにぃ。今治すから……」


「俺はいいから、自分を優先……」


「ん? どうかしたかにぃ」


 沸き上がる蒸気は壁にぶつかり、壁全体をを覆う……


 脱出路ふたつ目の条件。

 それは外部に通じている事だ。文字通りどこかと繋がっている必要がある。つまり、内部から外部へ気圧の差が生まれれば、必ず対流が生まれる。

 ……そう。これが、きっとそうだ。


「よし、見つけたぞ……」


 俺は口元を引き上げて笑う。

 それは他と違って四角かった。あきらかに人為的な出入り口だ。

 ……これは盲点だったな。


 なんとなくだけど、こういった場合は隠された通路とか、秘密の鍵穴を見つけて開けて外部に通じる、なんてミステリーのような展開を期待してしまうだろう。

 だけど、別に今までに隠されていた場所なんて、どこにもなかった気がする。

 ……考え過ぎは良くないな。素直が一番だ。


「ねえ、悪だくみを思いついたような、含み笑いを続けてないで、さっさと僕にわかるように説明するだにぃ」


 悪だくみの含み笑いって、どんなだよ?

 ……頭を揺するな。視界が揺れるだろうが。うざいな。


「別にそんな笑い方なんてしてねえだろう。……ほら、あそこに蒸気が吸い込まれているだろ。きっと、どこかに繋がっているはずだ」


「ああ、そういう事かにぃ。いつも千丈は説明が足りないだにぃ。でも、内部に広い空間があるだけかも知れないだにぃよ」


 うっ! 確かにその可能性もあるのか……

 だけど、継続的に吸い込み続けているから間違いないと思うけど、確証はできないか。


「だったら見に行くぞ。だいぶ蒸気も薄くなってきた」


「その方がいいだにぃ。あそこなら入り口も狭くないから安心にぃ」


 残る蒸気に触れないように注意しながら、穴に向かって斜面を登る。そこで、白楓がいるだろう制御装置の方を振り返るが、やはり何も見えなかった。


 無事に連れて帰って来てくれ。頼んだぞ楓。

 ……そう心の中で呟く。


 辿り着いた穴。改めて入り口と呼ぼう。

 その高さは二メートル程。幅は一メートル強だった。

 これなら、通るのに身をかがめる必要はない。枠は明らかに人為的で、黒い岩を組み上げて造られている。


「随分としっかりしているな」


「ここにいろんな文字が彫ってあるだにぃ。なんて書いてあるか読めるかにぃ?」


「ふむ、なるほど。……全くわからん」


「なにが、なるほどだにぃ?」


「なんとなくだよ。別にいいだろ……」


 それはアルファベットのようだが、時々違う文字も含まれているので判別はできない。


 黒い石に刻まれた文字は筆記体のようだった。

 唯一理解できるのは数字だけで、その表記はアラビア数字。それは、15? ?となっていたが、後半は霞んで読めない。

 ……まあなんでもいいか。さて、中はどうなっているのかな?


 内部を覗く。

 そこに見えるのは、岩肌がむき出しの洞窟然とした通路だった。

 数は少ないが定期的に照明が設置されていて、仄かな輝きが奥に続く。

 途中で曲がっているせいで、最奥部は見えない。だけど、かなり先まで続いている気がした。

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