ワイバーンと紅い軍勢 8
出発までは秒読み段階。
角利の安全を確認して、二人は宙に躍り出た。
フェイは住宅街の隙間を縫うように飛んでいく。音で気付かれそうなものだが、箒にエンジン音らしきものはない。自働車よりクリーンだ。
箒はヘッドライトを灯し、時には大胆に深夜の町を駆けていく。
今のところ魔術師の姿はない。住人の姿もほとんどなく、ひっそりと静まり返っている。逃げたオークが、彼らに外出を控えさせているのだろう。
それでも左右に気を配りながら、角利はフェイと触れ合っていた。
頬を撫でる突風、少女の温もり。彼女の長髪が顔に当たるが、あまり苦には感じない。というより、感じる余裕がない。
異性とこんな至近距離になるなんていつ以来だろう。泊まってだっているわけで、今日は大人への階段を二、三段すっとばした気分。
少しは雑談もしたいが、複数の要因が重なって出来るはずもなく。
がっくりするぐらい無事に、二人は目的地へ到着した。
「あの後、代々木公園で目撃情報があったそうです。速やかに捜査を進めましょう」
「分かった」
箒は木陰に隠しておく。一緒に移動するのはさすがに手間だ。