ワイバーンと紅い軍勢 5
しかしどれだけ目を凝らしても、あるべき前輪と後輪が見つからない。小さな車輪があるだけだ。あくまでも軽く移動するための、いわゆる補助輪。
全体的なフォルムは細く、箒――に映ると言えば映る。ただし凹凸のある、まるで武装でもしたような箒だったが。
「……何なんだこれ」
「いえ、ですから箒です。運送業を営んでいるギルドからの払い下げですけど」
「運送業って……」
確かに過去、魔術師は運送業を営んでいた。もちろん箒で。今でこそ自働車や飛行機にお株を奪われたが、政府の荷物であれば魔術師が運ぶことはある。
その足を、実際に目にするのは初めてだ。
「これは十年ぐらい前のモデルになりますね。エアレースの箒と違って、そこまで速度は出せません」
「え、エアレースって、プロペラ機とかでやるアレか?」
「はい、魔術師たちの場合は箒ですけどね。テレビなどでご覧になったこと、ありませんか?」
「……子供の頃なら一度か二度は見た、かもしれない。父さんが好きで一緒に見てたような気がする」
にしても、この箒で一体どこへ向かうんだろう。見るところ、二人乗りが組み込まれた設計ではあるようだが。
「これから、ヴィヴィアをさらった魔物を追います」
考えを先読みされた一言。
成程と頷く角利だが、一抹の不安は消しきれない。