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ワイバーンと紅い軍勢 1
夜が長い。
具体的に言うと眠れない。布団へ入って目を閉じているのに、脳内では何度も夕方の出来事が繰り返されている。
祖父の所業。彼はどうして、あんなにも簡単に人を殺したのか。
納得しようと努めてはいるが、心の整理は短時間で行えるわけじゃない。これまでの先入観も手伝って、思案の泥沼に両足が入っている。
「はあ……」
寝返りをうっても、気分は寝返ってくれなかった。
仕方がない、少し起きよう。下ではまだ、フェイが申請書を書いているかもしれない。何でもいいから、話せば少しは気が楽になる――筈。
布団を剥ぎ、やや迷ってから部屋の明りをつける。電気代が心配だし、早めに消そう。
アナログ時計が示す時間は午前十二時半。……馬鹿らしい、寝ようと思ってから、二時間もウダウダ悩んでいたのか。
これまでの生活から培った癖で、廊下の照明を灯さずに歩いていく。
「……ぬ?」
階段の下を覗き込むと、うっすら漏れている光ある。