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残忍な荒療治 9
「……」
「フェイ?」
彼女は暗い――怒りを蓄えた表情で、角利の横に歩いてくる。
恐らくは、こちらと敵対した時の。それを上回る感情だった。
「先ほどのオーク、人を抱えていました」
「人を……?」
「顔は一瞬しか見えませんでしたが、妹かと」
「っ」
厳しい顔付きになるのは必然。こんなところで油を売っている場合ではない。
「お、追わなくていいのか?」
「向こうの地区にもギルドが出ていますから、彼らに任せるべきでしょう。……それに会長が寝ている間、独断での行動は慎むよう釘を刺されました。下手に動けば、現場を混乱させる可能性もあります」
「でもだな……」
「大丈夫ですよ。彼らがいくら卑怯で愚劣で外道だろうと、最低限の仕事はするでしょうし」
でも怒ってはいるらしい。
まあフェイの意見には一理ある。昨今は魔術師が批判される時代だ。もしヴィヴィアを見殺しにするなんて結末、翌日の朝刊が魔術師への非難で埋まるだろう。殺戮者の一族、とかで。
――昔はその一族に匿われていたくせに、皮肉なものだ。価値感の変化がどれだけの劇薬か、分かりやすい例だろう。