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残忍な荒療治 8
「じゃあ、フェイが良ければどうぞ。大したおもてなしは出来んけど」
「ええ、無理な背伸びは結構です。妹にも連絡して――」
ガサリ、と何かが揺れる。
二人の近辺で隠れられる場所となると、代々木公園の林ぐらい。物音が聞こえてもおかしくない距離にある。
集中しているせいか、人々の雑音が遠い。フェイも同じく、聞こえたであろう場所を凝視している。
瞬間。
「オーク!?」
負傷しているのか――片手を引きずったオークが、二人の元へ一直線に走ってくる。
脈絡のない展開に、角利は大きく肩を震わせた。魔剣を出す天才少女。周囲にいた数名の魔術師も気付いて、冷たい空気が凍りつく。
しかし。
オークはそのままフェイを飛び越え、病院に隣接している公道へと逃げ込んだ。
一連の出来事は、立ち入りを制限されている一般市民にも見えたらしい。悲鳴が伝播し、消えていた筈の罵倒が蘇る。
フェイを始め、数名の魔術師がオークの後を追った。
しばらくして戻ってくる辺り、完全に逃げられてしまったようだが。