乗り越えるために 9
「く……」
立ちはだかる過去が、角利の認識を縫いつけた。
だから、ここから数秒が最後の機会。
燃え尽きる炎が魅せる、有終の美というやつで。
「ば――抜刀!」
震える唇が力を結ぶ。
召喚された剣で、狙うは真下。
死角からの奇襲が、土壇場で導いた結論だった。
総力を叩き込み、床を砕く。重力に引かれ、角利は瓦礫と共に四階へ。
「な――」
驚愕は青年、フェイ双方のもの。
「うおおぉぉぉおおお!!」
咆哮はもう、悲鳴の一歩手前だった。
敵の無防備な背中へ、一直前に飛びかかる――!
作戦は功を奏し、流れが直ぐ角利へと傾いた。数度の剣戟を交える頃には、青年の唇が歪んでいる。
しかしこちらも、限界はとうに超えていて。
いつの間にか放たれた蹴りを、認識することさえ出来なかった。
「ご、ほ――っ」
よろめく角利。吐き気がしている中で腹に蹴りを喰らうなんて最悪だ。
しかし最悪なのは向こうも同じなのだろう。青年はローブを靡かせ、直ぐに非常階段へ。
待て、と叫ぶ間もなく、その姿は宙に消えた。
あとは静寂。上にいたオーク達は、別の場所に移動してしまったらしい。
あるいはギルドのメンバーに討伐されたのか。連続する足音、近付いてくる人の声が、安全の訪れを証明している。
「……本当に、もう」
フェイは完全に呆れ顔。
でもちょっとだけ笑っていて、自分の成果を認められる。
ああ、助けられたのだと。誰も犠牲にならなかったと。
あの事件からやっと、自分の力を誇りに思えた。