乗り越えるために 8
階段に足を降ろして、止まる。
いいのか?
逃げていいのか?
フェイがいくら有能な魔術師でも、相手は前回と様子が異なっている。異常だと称しても構わない。
対等に戦える保障は? そしてもし、彼女が勝てなかったら?
後悔するのは角利自身だ。またずっと、自分を責めることになる。
許せるわけがない。
歯を食い縛って、角利は五階へと昇り始めた。
直接戦いに介入することは難しい。戦場へ近付けば、身体が勝手に怖気づいてしまう。支援するなら安全地帯で、かつ二人の姿が見えないところがいい。
咄嗟に思いついたのは非常階段だ。二人は階段の手前で戦闘に入った。同じ場所で戦い続けているなら、好都合なポジションは確保できるかもしれない。
決まったのなら善は急げ。オークが来ないことを祈りながら、五階のホールを左に曲がる。
直後の、衝撃。
「がっ!?」
廊下を回転しながら、角利はその原因を認める。
だが直視はしない。
敵の行動を見定めもせず、走り出す。
遠吠えと足音が聞こえても無視。二度目の拳が外れ、壁をぶち抜こうと絶対無視。
走る、走る、走れ! 逃げろ!
非常用の階段はもう直ぐだ。横にある病室に誰かが隠れているかもしれない――なんて雑念も振り解け。
耳を済ませば、微かに聞こえる死闘の音色。二人はまだ真下にいる。これなら好都合だ。
――だが試練は、最後まで続くもの。
階段に入る手前、オークが道を塞いでいる。