乗り越えるために 7
「があああぁぁぁぁあああ!!」
一瞬だった。
獣としか思えない叫び声で、青年が突っ走ってきたのは。
「会長、下がって!!」
「いっ!?」
動く前に突き飛ばされた。
直後、勢いに乗った快音が反響する。フェイと青年が激突したのだ。
狭い廊下ではあるが、二人は加減をしない。魔剣がコンクリートを砕き、一瞬で鉄筋すら露わにする。巻き込まれればひとたまりもない。
しかしそれ以上に注目すべきは、互角の戦いを繰り広げているということ。
昼間の反応はすべて演技だった――わけではあるまい。恐らくは身体強化の魔術を、過剰なレベルで使用しているのだろう。でなければこんな叫び声を上げるものか。
「会長! 別の階段で下へ! 三階から非常階段を使ってください! 彼は私がくい止めます!」
「む、無茶はするなよ!?」
「もう少し説得力を身に付けてから言ってください……!」
ひときわ強烈な突風が、角利の立っている廊下を揺らした。
とにかく、今は逃げるしかない。そうすれば足手纏いにはならないのだ。せめてもの手伝いはやっておきたい。
角利は廊下を駆け抜ける。
途中で見かけたのはフェイが倒したであろう、オークの亡骸。魔力で肉体が構成されているためか、血の臭いはしない。
角利は苦悶の表情を浮かべるしかないが、一先ず三階までは行けそうだ。