76/168
乗り越えるために 5
「ふ――!」
間一髪、救いの手が差し伸べられるまでは。
またもやフェイによる一撃だった。急所を貫く、無謬の一閃。清潔な具象鎧は清潔なまま、救世主としての威光を思う存分示している。
尻餅をついた角利は、彼女の姿を見上げるだけだ。どうしようもなく見惚れてしまう、その小さな背中を。
「立てますか?」
「あ、ああ」
また、足を引っ張ってしまった。
手に触れる温もりが何故か辛い。自分を恥じてるからだろうな、と角利は内心で吐息する。
「……無能だなんて、思わないでください」
「は?」
「会長には前に進もうとする、痛いほどの意思がある。勇気なのか無謀なのかは決めかねますが……貴方自身にとって、きっと有益だと思います。ですから、どうか自分を責めないで」
「……悪い」
「言った傍からですか?」
「か、感謝が八割だからノーカンだ」
話している間に、少し気分もよくなった。
フェイは廊下に出ると、直ぐ左右の様子を確認する。どうも敵の姿はないらしく、こっちに来いと身振りで示した。