乗り越えるために 4
角利を喰うより、同胞の方が栄養満点だと思ったんだろう。こちらを狙っていたオークは、どちらも同族との格闘戦を行っていた。
チャンスだ。這いつくばって進みながら、部屋の番号を示しているプレートを探す。
あった。しかも、オーク達を上手く避けて通れる。
肉が千切られる生々しい音へ耳を塞ぎ、角利は重い足を上げた。
最悪、地上へ降りる時は魔術を使おう。あるいは非常階段。再び中を通ったら、今度こそ精神が破裂する。
ようやく見つけたベッドは、もう自分の方が入りたいぐらいで。
「ヴィヴィア!」
入口に書かれている名前を呼んだ。
中には、人影というものが一つもない。
個室に置かれた一つのベッド。触れば微かな温もりを感じられるが、やはり肝心の本人はいなかった。どこかに隠れている雰囲気でもない。
それ以前に、部屋は荒らされている。特にカーテン。爪か何かで引き裂いた痕跡があった。
最悪の結果が脳裏を過る。血痕が一つも気当たらないのが、唯一すがれる希望だろうか。
そうだ、もう脱出しているかもしれない。一先ずフェイの様子を確認しようと、角利は迷わず踵を返した。
「あ、ああ……」
タイムアップ。
入口に立ち塞がるオークから、逃げる術などありはしない。