乗り越えるために 3
幸か不幸か、噛み付こうとするオークの脅威からは逃れられた。が、振り切ったわけではない。第一、敵が一体しかいないとは限らない。
無人となったナースステーションに飛び込む。現在の精神状態にとっては、善し悪しをつけ難い孤独な環境。
ズン、と重い足音が廊下に沈む。
十中八九オークか、他の魔物だ。姿を確認する余裕はなく、角利はカウンターの下に身を隠した。
足音は間隔が短く、そして徐々に大きくなる。こちらの存在に気付いたのだ。
角利は息を潜めるばかり。泣き出す寸前の心を、必死に繋ぎ止めている。
だが。
「あ、ああ……!?」
上から伸びてきた手に、力尽くで外へと投げ出された。
が、と打ちつけられた場所は、ヴィヴィアと話したばかりのホール。ここも既に手遅れで、テーブルが、自販機が、見るも無残に破壊されていた。
来る。
前後に一匹ずつ、牙を持った死神が近付いてくる。
「はっ、は、はっ――」
まるで犬だと自嘲しても、戦う意思は根元から折れていた。
助けなきゃいけないのに。約束したのに。
やっぱり、無様じゃないか。
「ひっ――」
現実から逃避しようと、何の変哲もなく目を瞑る。
しかし痛みはやってこない。
より凄惨な光景が、それぞれで繰り広げられているだけだった。
「と、共食い……!?」