乗り越えるために 1
静止を呼び掛ける関係者を無視し、二人は直ぐに階段を目指す。高校生が走れば一分もかからない距離だ。
避難者を乗せているのか、近くにあるエレベーターが到着する。
出たのは。
「っ!」
人間ではなく、獣の咆哮。
餌を発見したオークが単身、入口をこじ開けて飛びかかる。
無論、警戒していたフェイにすれば単なる雑兵でしかない。軽くいなすと、即座に反撃の一閃を叩き込む。
流麗の一言に尽きる剣技だった。オークは呻き声すら上げず、くの字に折れて倒れるだけ。
生命力を失った彼らは徐々に身体を解いていく。――実際に糸のようなモノが出ているんだから、間違った表現ではないだろう。肉体を構成する魔力が解けているのだ。
しかし、観察する暇などまったくない。
通路の奥から、さらに数体のオークが現れる。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ」
足が竦んでいるが、完全に動けないほどじゃない。――そもそも敵が複数いる以上、角利が行動せざるを得なくなる。
「会長は階段を使って四階へ。……ここは私が、何が何でも守り通します。妹を、どうか――!」
「わ、分かった!」
卑しい獣の声を背後に、持てる力のすべてで走る。