二つの病、二つの現実 12
「!? 何が――」
まだ、口を動かすタイミングではない。
何故か。
魔物が、二人の頭上から降ってきたのだ。
「え――」
角利は動けない。驚きと、それに勝って恐怖感が手足を縫いつけている。
代わりに動く、青い閃光。
快音と共に、急上昇したフェイが魔物を突き飛ばした音だった。
無論、それで終わる彼らではない。宙で一回転した後、何事もなかったかのように着地する。
魔物の特徴は、まず鍛え抜かれた体躯にあった。
武骨な鎧のような筋肉。身長はざっと三メートルほどで、昼間のゴーレムには及ばずとも巨体だった。
顔はイノシシに近い。口からは収まりきらない鋭利な牙が伸びている。
正式名称を言うなら、オーク。
極めて凶暴な、代表的な幻獣――いや、魔物の一匹だ。
大衆から悲鳴があふれる。院内も同じような事態に陥っているのか、混乱した人々を次々に吐き出していた。
オークの狙いは必然、彼らの側へと変更される。
「っ――!」
それをフェイは、神速の一閃で制していた。
切り落される腕。怒りと悲鳴の混じった咆哮が響き、残った拳で少女の矮躯を打とうとする。
だが、寸前で止まった。
いつの間にかフェイの手にした盾が、腰の入った一撃を防いでいる。
続くのは見応えのない末路だけ。