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二つの病、二つの現実 10
「――俺も行くか」
煮詰まった頭で考えても、ネガティブな考えしか浮んでこない。落ち着ける場所で、改めてフェイと話した方がいいだろう。
人混みを避けるため、エレベーターの横にある階段を使う。静まり返って、人の気配はほとんどない。それこそ、無害な一般人なら不意を突けそうなぐらいに。
――馬鹿げたことを考える。やはり気分転換が必要らしい。
病院の出入り口は、最初に見た時と変わらない様子だった。上の階で今まさに人が死のうとしているなんて、誰も想像しちゃいない。
フェイの姿が待合室にもないことを確認すると、角利は外へ。
いた。
黄昏色に染まった少女が、病院を囲む池を覗いている。
「いいのか?」
まるで期待するような、誘惑さえ籠った質問。
彼女は決然とかぶりを振った。
「先が短いのは分かっていました。ただ、その必然がやってきただけの話です」
「ヴィヴィアがまだ生きたい、って思ってたら? 家族として無視は出来ねえだろ」
「もういい、と妹はたびたび口にしていましたよ?」