二つの病、二つの現実 9
「ほ、他に方法は? 普通だったら、生贄で魔力を確保したりはしないだろ?」
「ええ、体内で生成される分で足りる場合には。……しかし今の妹は別です。許容範囲を超えた負担には、生贄しかないかと」
「せ、専用の薬草とかは?」
「あるにはありますが……入手の手段が限られています。独自の生態を保っている森で、稀に採取できるとか。時価数百万はするそうです」
「――」
じゃあ、指を咥えて黙ってろと?
フェイの無言はそれを肯定している。……あるいは、自分は生贄になろうという魂胆なのか。思い詰めた表情から嫌な予感がする。
八つ当たりだが、科学が恨めしい。
時代が魔術師のままであれば、こんな難題は直ぐ解決できたろうに。
「……少し頭を冷やしてきます」
呼び止める時間もなく、彼女はエレベーターへと姿を消した。
角利はさっきから思考をフル回転させているが、打開策は浮ばない。生贄を秘かに用意するなんて、殺人を犯す以外の何なのか。
仮に上手く行ったとしても、ヴィヴィアは罪悪感を背負い続ける。当り前の、現代の倫理観で。
フェイも、踏まえてはいるんだろう。
人命第一、なんて言葉はそうでもないと出てこない。盲目的に自身を信仰しているわけではなさそうだ。