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二つの病、二つの現実 8
角利以上の冷静さで、フェイは医師に頭を下げてら退室する。角利も直ぐ続いた。
ホールへ移動する間、二人の間に会話はない。理由もなく不安になってしまうが、彼女は彼女なりの考えがあるんだろう。
目的地に到着すると、フェイは一番奥の椅子に座る。こちらの位置も当然、その隣となった。
「なあ、魔力は補充しなくていいのか? 放っておいたら悪くなる一方だろ」
なとど。もっとも不安がっている当人を差し置いて、晴らしたい疑問を口にする。
フェイは逡巡した後、躊躇いがちに否定した。
「魔力を外部から取り入れるには、生贄が必要です。他に術はありません。……人命第一が基本の文明社会で、それが許されると思いますか?」
「それは――」
無理だ。可能だったのは、遠い過去の時代である。
加えて日本は独裁国家ではない、法治国家だ。ルールに従うのは魔術師とて同じ。神秘性を盾に特権を得ていた時代とは、立場が根本的に違う。
例え、倫理観が違うと言い訳をしても。
社会の一員である以上、勝手な真似は許されないのが昨今だ。