二つの病、二つの現実 1
「帰るって、どうしてですか?」
待合室の一角。出来るだけ人目に入らない場所で、どうしてもだ、と角利は真っ向から反論した。
医者が聞けば、その無謀ぶりに怒りさえ感じるだろう。ましてや現在地が病院なのだ。これ幸いと世話になるのが、世間の常識でもある。
しかし角利には、個人的な事情があった。
「これまで魔術師の治療は何度も受けてきた。でも、逆に不快感が増すだけでな。ああ……思い出しただけで気分が悪い」
「で、でしたら普通のお医者様に頼みましょう。ここなら、専門の方も――」
「いや、それは無駄だろ」
ややあって、フェイも指摘された内容に気がついた。
「……魔術師に一般人の治療は、通用しないんでしたね」
「面倒な仕組みだよなあ。何だっけ、概念的に保護されてるとかだったか?」
魔術師の間で原因解明は進められているそうだが、決定的な証拠は出ていない。
このため自分たちの治療は魔術、薬草などを用いるのが基本となっている。薬草は神話に登場した――という触れ込みの代物だ。魔力は検知されているそうだが、実際に同じ効果があるかどうかは分からない。
また、心理療法だろうと目ぼしい効果はないんだとか。近年に推奨されたPTSDの治療も、角利にとっては他人事である。