嵐の前触れ 5
「えっと……」
「角利さん、だよね? アタシはヴィヴィア。お姉ちゃんがお世話になりました」
「い、いや、こちらこそ」
深々と頭を下げ、それからも角利は立ったまま。
フェイの妹――ヴィヴィアは隣りの椅子を叩いている。どうも座れというジェスチャーらしい。
指示に従ったところ、彼女は舐め回すように角利を観察し始める。
姉と同じで、ヴィヴィアも目を惹く容姿の持ち主だった。
フェイと違って、彼女は髪を短くしていた。少女らしい可愛さの中に、少年のような活力が混じって見える。
特に表情。フェイは基本的に鉄面皮だが、ヴィヴィアは笑顔が良く似合う。こうしている今もそうで、姉が知人を連れてきたことを喜んでいるらしい。
「ね、ねえ、角利さんってお姉ちゃんとキスはしたの?」
とんでもない爆弾発言だった。
恋愛脳とはまさにこのこと。誤解以外の何でもなく、普段の姉妹仲に首を突っ込みたい気分になる。
「なんでそうなるんだ……俺は君のお姉さんと、今日会ったばっかりだぞ」
「え、そうなの? アタシはてっきり、二人が男女の関係なのかなー、って」
「階段を何段すっ飛ばす気だ……」
大体にして彼女、恋愛に興味が無さそうな気がするけれど。
しかしヴィヴィアの反応は、こちらの推測を否定するものだった。