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嵐の前触れ 1
「ではな。ギルドの件で協力するのは、これが最後だ」
背中を無理やり押されて、二人は学長室を追い出された。
フェイはいまだ部屋の方を見つめている。祖父に対してよっぽど思うところがあるんだろう。あるいは、自分自身に対してなのか。
「さて、どうする? 折角だしうちにでも寄るか? 改めて飲み物ぐらいはご馳走したいし」
「結構です。これから私用がありますので――」
と、彼女のポケットで何かが震える。
失礼、と間を挟んで取り出したのは、携帯電話だった。
懐かしい。自分もギルドの経営が悪化する前は持っていたものだが――今は正直、驚きが勝っている。フェイが現代社会の産物を使っているなんて。
祖父がサンプルになるが、彼は機械を嫌っていた。このような産物などまやかし、と口癖のように言っていたのを覚えている。彼がうちに来る時、テレビを見るは禁止だったし。
まあ便利なものは便利ということだろう。鉄のように堅い信念がなければ、文明の利器を拒むなんて出来ない。フェイがどんな環境で、誰の影響を受けたか定かではないが。