祖父と孫、下心 5
「ここにワシを尋ねてくるのは入学以来だな。まあほれ、座れ。紅茶でも用意してやろう」
「あ、どうも」
好意をそのまま受け取って、ソファーへと足を向ける。
フェイは未だに動かないので、しばらく放っておくことにしよう。よほど強い印象を受けたと見える。
部屋の隅に置かれたヤカンには、怪しげな模様が刻まれている。保温を持たせるための魔術だ。文明の利器を嫌う学長が、魔法びんの代わりに持ち込んだ特注品である。
彼はそこから、宣言通り紅茶を入れていた。……この世界で一番、不釣り合いな光景に思える。だって筋肉ダルマだぞ?
とはいえ彼の年齢は80に近い。現在も往年と変わらないのは、素直に褒めるべきだろう。
「どうッスか? 仕事の方は」
「面倒で面倒で仕方ない。前任者の指名さえなければ、直ぐにでも学園から立ち去っていたところだ。生徒など、ワシは大勢の前に立つのが好かん」
「じゃあとっとと止めりゃあいいじゃないッスか」
「給料は良いもんでな」
最悪だ。
まあ権力欲にひたった魔術師よりは、彼の方が適任だろう。魔術師育成学園は清明に限らず、大御所ギルドや政府との繋がりが強い。悪用する気になればいくらでも学長職は悪用できる。
角利の祖父――四治御法は、適切な人物だ。