失敗活動 3
「……さて、そろそろ昼だな」
名残は一切残さず、ちょうど青になった歩道を駆け足で渡る。
周囲を囲うのは鉄とコンクリートで作られた建物ばかり。魔術師、なんてファンタジーな名前の看板を掲げるには、いささかどころか正反対とも言える印象の町だった。
しかし、どんな言い訳をしても現実は現実。
電気が通い、コンクリートで塗られ、自然を切り開いた科学の文明には――社会的地位として、魔術師なんて種族が存在していた。
もちろん、その称号に嘘は一つも混じっていない。箒で空を飛ぶし、火や水を起こしたり、はたまたそれを操ったりする。
近代技術の先輩、とでも言うべきだろうか。実際にこの東京も、かつての支配者は魔術師だった。一般人は彼らを崇め、その恩恵に携わるだけの存在だった。
しかし科学の発展で、すべては用無しになる。
空を飛ぶには飛行機が、ヘリが。水は水道によって管理され、火はボタン一つでつけられる。
必然的に、それらを生業にしていた魔術師は職を失った。十数年前から影響は問題視されていたが、決定的な解決策が出ないまま現在に至っている。
影響は当然、学生にも及んだ。
西暦二〇一五年の今年。魔術師の育成学園に通う半数の生徒は、卒業後に就職することが不可能だと言われている。
このままでは来年の今頃、路頭に迷うのがせいぜいだ。
「――っと」
気付けば、馴染みのコンビニについていたらしい。
いらっしゃいませー、と角利を迎えるのは、店の看板娘とも言える女性店員だった。青い縦縞の制服を着た彼女は、こちらと目が合うなり片手で挨拶する。
「おっす、角利君。今日も由利音さんのことが恋しくなっちゃったかな?」
「あー、由利音先輩より弁当の方が恋しいッスね」
「ええっ!? ひどーい!」
「――あはは」
わざとらしく頬を膨らませる彼女に、角利もつられて笑顔が出る。
可山由利音。年齢は二十五。角利にすれば随分と歳の離れた先輩であり、どちらかと言えばお姉さんのような印象である。後頭部で結んだポニーテールがトレードマークで、本人も大のお気に入りだとか。
看板娘とだけあって、由利音はれっきとした美人だ。このコンビニを利用する男性客の何割かは、ファンになってるとの噂もある。